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様々な家庭、家族

僕の両親は離婚しています。でも、両親は僕の共同親権者です。

作者: 山家

「それでは、高校進学について、親権者の方の意見を聞いて、その内容をこの書面に記載してもらい、1週間以内には提出するように」

「「はい」」

 担任の佐藤先生の言葉に、11月のとある木曜日、僕達は声を揃えて答えた。

 その返事に満足して、佐藤先生は職員室に向かい、僕達は帰宅の途に就いた。


「それにしても、我が家の場合、翌日に出してくれ、と言われた方がいいのだけどな」

 そう半ば聞こえよがしに、同級生の山田が言う声が聞こえる。

 悪かったな、僕の家ではそう言う訳には行かないのだ。


 山田は両親が同居しているから、そんなことが言えるのだ。

 それこそ父親が単身赴任しているような家とか、母親だけの意見で全て決められていいのか。

 子育ては親権者である両親が共同して行うものである以上、こういったこと、高校進学等の大事な問題は親権者の両親の意見をきちんと確認するのが、当然の話ではないだろうか。

 だから、そういったやり取りの手間も考えて、佐藤先生は1週間以内と言ったのだ。


 もっとも、我が家の場合、それだけではない事情がある。


「只今」

「お帰り」

「学校から高校進学について、親権者の意見書を貰った。今夜中に書いといて」

「朝までには書いて、朝食時には食卓の所に置いておくわ」

「よろしく」


 僕は母さんにそう言って、書類を渡した後、自分の部屋に入った。

 正直に言って、僕の成績では、自分の志望校に入れるかどうか、微妙な成績だ。

 だが、何としても高校でデザインを学びたくて、デザイン科を僕は志望している。

 そうなると、勉強の手を抜くわけには行かない。


 夕食時、更に入浴の際に一休みはして、夕食時には母さんや妹の結愛と話もしたが、僕は布団に潜り込むまで、参考書を読みこんだり、問題集の問題を解いたりして懸命に勉強した。


 そして、朝起きると、母さんは書類を準備してくれていた。

 更に、

「あの人によろしくね。それから帰ってくるのは、月曜日の夜でいいのよね」

「分かった。その通りでいいよ。妹の結愛も一緒だよね」

「ええ。何かあったら、私の携帯にメール等で連絡して」

 母さんに確認した後、僕は中学に向かって授業を受けた後、帰宅した。

 父さんの下に。

 ちなみに妹の結愛は小学6年生で、金曜日は学習塾があり、僕の方が早く父さんの家に着くことに基本的になり、更に僕が一番最初に帰宅するのが通例だ。


「何を作るかな」

 ご飯だけはタイマーで炊いてくれているが、夕食のおかず類は僕か、結愛が作ることになる。

 そう職場が離れていないとはいえ、18時過ぎに帰宅してくる父さんが、夕食を作ると遅い夕食になるから、ある程度は仕方ない。

 コンビニやスーパーでお惣菜を買って済ませてもいいのだろうが、流石に夕食全部のおかずをそうするのは、週末の父子団らんの夕食の場では流石に気が引ける。


 とはいえ、中学三年の受験生が作る夕食だ。

 今日は、スーパーで買ったカット野菜を炒め、更に出来合いの冷凍餃子を調理して、後はインスタント味噌汁で済ませることにし、僕が夕食の準備をしていると、妹と父が相次いで帰宅してきた。

「お兄ちゃん、いつものことながら、手抜き料理だね」

「悪かったな」

「まあまあ、それでは食べようか」

 妹の悪口を軽く流し、父が仲裁に入り、といった感じで、僕達3人は夕食を食べた。

 そして、少しだけテレビ番組を3人で見て、僕は受験勉強をこの夜もした。


 更に土日の間だが。

 妹は土曜日に父と少し遠出の買い物をしたり、日曜日の午後は訪ねてきた父方祖父母も交えて、話をしたり、遊んだりしたみたいだが。

 僕の方は、そう言う訳には行かない。


 高校受験が間近いので、勉強しないといけないからだ。

 流石に朝夕は父と顔を合わせるし、日曜日の午後は父方祖父母と少し話をしたりはしたし、更に妹と共に父と一緒に食事を食べたりもするが。

 土曜日の昼は、1人で昼食をインスタントで済ませる羽目になった。

(尚、日曜日の昼は父方祖父母が準備した料理を5人で食べた)


 そして、日曜日の夜。

 妹が遊び疲れもあるようで、早々に寝入った後、僕は父と向かい合っていた。

 父は少し動揺しているようで、口ごもりながら聞いてきた。

「あいつが、再婚を考えている、というのは本当か。今日、結愛から、そう聞いたのだが」


 あいつね。

 自分の元妻にして僕達の実母を、あいつ呼ばわりとは、と僕は思わなくもないが。

 他に適当な呼び方も、父は思いつかなかったのだろう。


 両親が離婚に至った経緯について、当時小学6年生だった僕はそれなりに把握している。

 それこそDVだとか、僕達への虐待だとか、深刻な理由が離婚の背景にあった訳ではない。

(というか、そんな深刻な理由から離婚に至る経緯の方が、どう考えても少ないだろう)


 ただ、お互いに仕事が忙しく、気が付けばすれ違いが積み重なっていて、覆水盆に返らずではないが、最早、夫婦としてやり直す気にはお互いにならなくなっていたのだ。

 とはいえ、子はかすがい、ではないが、両親の間には僕と結愛がいて、それを親としてお互いに放っておくわけには行かなかった。

 それに、両親共に僕達の事を親として愛してくれていて、そのことは僕も結愛も分かっていた。

 そんなことから、両親は僕と結愛の共同親権者になって、離婚したのだ。


 更に離婚の際に家庭裁判所の調停で、お互いに養育費と面接交渉についても書類を作った。

 それに基づいて、僕と結愛は両親の間を行き来している。

 尚、何回か家裁で調停(といっても、お互いに既に半ば合意していたのを、あらためて書類化して貰った程度だけど)して、養育費と面接交渉の内容は変わっているが、両親が僕と結愛の共同親権者なのは、ずっと変わっていない。


 僕が中三になった現在では、平日の月曜日の夜から金曜日の朝までは母さんの下に、週末の金曜日の夜から月曜日の朝までは父さんの下にいるのが基本になっている。

(いうまでもないが、祝日や年末年始等においては、僕達の意見を聞いた上で、両親が話し合い、適宜の融通が利かされている)

 だが、母が再婚した場合、また状況が変わるのでは、という想いが父の頭を過ぎったのだろう。


「うーん。母さんは再婚したいみたいだね。更に出来たら、新しい男性と僕達が養親子関係になれば、とも考えているみたい」

 僕は少し煽る気もあって、父の問いにそう答えた。

「お前はそれを受ける気があるのか」

 流石に父は動揺したようで、震えた声で更に聞かれた。


 流石にこれ以上煽るのは気が引ける。

「僕は、母さんの再婚相手の養子になる気はないよ。父さんも反対してくれるよね」

 そう父さんは僕の共同親権者なのだ。

 だから、父さんが反対すれば、僕は母の再婚相手の養子にならずに済む。

「ああ。勿論だとも。でも、結愛はどうなのかな」

 父は少し安堵したようだが、結愛のことがさらに心配になったようだ。


「結愛に直接、聞いたら」

「下手に聞いたら、自分の意思を結愛に押し付けかねないじゃないか」

「確かにね」

 この辺り、僕の両親は本当にいい人、いい性格だと僕は想う。

 僕達子どもの意思を最優先に重んじてくれる。


 本当に自分の両親が毒親でなくてよかった。

 自分の考えが正しいから、子どものお前は黙って従え、という毒親が両親だったら、少なくとも片方がそうだったら、こんな風に僕達兄妹は、こんな両親を行き来する生活を送ることはできなかっただろう。


(最も未だに古い考えの人がいて、子どもの事を想って親は行動するものなのだから、そして、離婚したら両親が話し合うのは問題を引き起こす元になるから等の屁理屈を言って、単独親権賛成、その親権者の意向で子どもは非親権者と面会すべき、子どもの意向はその後だ、とか公言する人がいる。

 僕からしてみれば、子どもの意思を無視するトンデモナイ人にしか思えないけど)


「結愛は迷っている気がするな。お母さんが再婚するのはいいけど、その再婚相手をお父さんと呼ぶのはちょっと、という想いだと僕は見ているけどね」

「そうか」

 僕の言葉に、父さんはホッとしたようだ。


「それよりも父さんこそ、いい人はいないの。週末をいつも僕達と過ごすのはいいけど、新しい出会いを潰していないの」

「うん、実はな。良い人がいるんだ」

 えっ、藪蛇だった。


「今度の週末に会ってくれないかな」

 いや、会わない理由はないけど、この展開は予想外だった。


「お前から話を振ってくれて、肩の荷が下りたよ。ああ、その人を母さんと呼んで欲しい、とかは想っていないから。向こうも20歳も違わないのに、お母さんと呼ばれたくない、と言っているからな」

「それはどうも」

 というか、父さん、そんな若い女性と再婚するつもりなのか。


 いや、考えてみれば、僕が産まれた時、父さんはギリ30歳になっていなかった筈だ。

 それからすれば、10歳程しか違わない可能性がある。

 だから、そう若いともいえないか。

 そんな父さんが再婚を考えている相手に失礼な想いを自分はしてしまった。


 そんなやり取りを父とした後、僕は布団に潜り込んで寝て。

 翌朝、中学校へと向かった。

 いうまでもなく、肝心の書類は父にも記入してもらっている。

 そして、進学希望の紙を佐藤先生に提出して帰宅したところ。


「今度の週末の土曜日、家にいてくれない」

 母さんが心を決めたようで、夕食の際に僕と結愛に声を掛けた。

 どういう理由か、そうか、僕達に再婚相手を紹介するつもりか、と僕はピンと来たので惚けた。

「父さんがいいなら、僕はいいよ」

「うん、お兄ちゃんと同じ意見」

 結愛は、どこまで分かっているのか、そう返答した。


「そう、それなら、お父さんに連絡して、相談するわ」

 夕食を済ませた後、母さんは父さんと電話で話すために別室に入った。

 流石に、再婚相手と子どもを逢わせる話を、子どもの前でするのは気が引けたのだろう。


「何か土曜日にあるのかな」

「さあね」

 僕は結愛に惚けた。

 結愛は何処まで分かっているのだろうか。


 しかし、すぐに済むと想っていた両親の電話でのやり取りが中々終わらない。

 いや、何だか口喧嘩をしているような気配だ。

 そして、数十分が経ってから。


「明日、お互いに相手とやり取りして決めることになったわ。全く同じことを考えていたなんて」

 母さんは少なからず怒っていた。

 結愛はポカンとした顔をし、僕はどういう事情かを察したが。

 この場では触れない方が正解だと僕の内心はすぐに決めた。

 そして。


 勉強の合間に、父とラインでやり取りをして真実を知った。

 来週末の土曜日に、父としてはサプライズとして、自分が再婚を考えている相手を、僕と結愛に紹介するつもりだったのだ。

 母が再婚を考えていると知って、自分も腹をくくったらしい。

 そうしたら、母から土曜日に子どもを再婚相手に逢わせたいという連絡が入った訳で。

 こちらが優先だ、とやり取りをする内に、お互いの口が滑ったらしい。


 僕は溜息を内心で吐きつつ、別の内心では笑いがこみ上げた。

 本当に僕の両親は似た者夫婦だ。

 お互いに夫婦として、やり直した方がいい気さえもしてくる。

 

 これからの僕と結愛はどうするのか、それに僕の両親はどうするのか、何故か第三者のような想いも抱きつつ、僕は布団に潜り込んだ。

 何故かいい夢が見られる気がしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「面接交渉権」は子のための権利である(が、現実的には必ずしもそうなってはいない)というのを小説にされているなと思います。 離婚後における、非常に理想的なパターンで こういう家庭が増えると良…
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