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ショートショート4月~

作者: たかさば

あの時僕は生傷に塩を塗りこみました。


みずみずしい傷に、塩を塗って、痛みをより確かなものにしたのです。


この傷は、僕の証。


この傷は、生涯忘れてはならぬ傷。


この傷を、乾かしてしまうわけには、いかないのです。


傷を見るたび、僕が僕である自信を感じるのです。


僕が僕である証明は、この傷があること。


この傷を、いつまでも持ち続けて、生きていかねばならないのです。


何度も何度も塩を塗りこんだ生傷は、やがて黒い痕となりました。


醜いこの痕は、盛り上がり、確かにここに傷があったことを知らしめてはいるのだけれど。


あの頃の、滲みる痛みは、もう感じられない。


僕の傷は、癒えて、しまったのです。


傷の無い、人生など。


痛みを感じられない、傷など。


傷だった名残が、僕を攻め立てる。


この傷は癒えてしまった。


この傷を持つ資格は、お前には無い。


この傷にお前はふさわしくない。


この傷がある事を、忘れるな。


この傷と共に生きてゆくというのか。


痛みの無い傷の名残は、ただ、罪を振り返る手段でしかありません。


痛みを求めて、僕は彷徨い、行く道を見失いました。



しかし、僕には、再び傷をこじ開ける勇気も無く。


ただ、傷の名残に、手を添えるだけで止まっているのです。


傷の名残に添えられた手が、震えていることに気が付かないまま。



傷に再び、痛みが戻ってくるのを待ちながら。



傷の記憶を辿り。



何とか、前を向いているのです。



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