はじまり
「これは...一体...?」
何も匂わない。何も感じない。
さっきまで吹いていた冷たい風も止んでいた。
特段何かを意識したわけでもなかった。身を守ろうとも思わなかった。ただ目の前の現実を受け入れようとした。
そして、誰も動かなかった。動きが、止まっていた。
「時が...時間が...止まっているのか?これは...」
ヨウ!セイ!ナツガッムネヲシゲキスル!
「うるせぇ!」
なんで目覚ましHOT LIMITになってんだ...。
俺の名前は星井勇。ごくごく普通の高校二年生だ。成績が優秀というわけではないし、特段スポーツが上手いというわけでもない。特徴なんてほとんどないが、存在感はある。そんな感じだ。
今日は高校の登校日だ。うちの高校は自称進学校で課題の量だけは一丁前に多い。だからこの春休みなんかほとんど休みといえた代物ではなかった。まぁ、前半期にソシャゲをやりまくっていたので自業自得といえばそうなんだが...。
眠たい体を無理やり起こし、隣の部屋へ行く。
「香奈、起きろ!」
「ん...んあ?」
こいつは双子の妹の香奈。家の両親は海外系の職に就いていて年に数回しか家に帰ってこない。だから、中学以来実質妹の香奈と二人暮らしだ
「今日、登校日だぞ。はよ起きろ」
「え...マジすか。体調悪いから休むって言っといて」
コイツ...課題終わってねぇな...。
「現実みろ、居残りしてこい」
「お願いします!どうか、どうかお願いします!」
「俺は何もいわないからな」
まぁ何とかなるだろ、とりあえず朝飯を作らねば
流石に何年もこの生活を続けてるだけあって、料理のスキルはあると自負している。一時期料理にはまったこともあって、幅広く色んな料理を作ることができる。ちなみに香奈の料理は限りなく毒に近い。
朝の支度を一通り終えたので、先に家に出る。今日は四月のくせに異様に寒い。異常気象かよ。コートでも着て来ればよかったと今更後悔した。までも自転車通学で2キロちょいあるから多少体はあったまる。とりあえず今一番気になることはクラス替えだ。クラス替えは高校生活においてのターニングポイントだ、と俺は考えている。一年の時に親しくなった奴がひとりでもいてくれればいい、いなかったら絶望だぞ、本当に。あ、女子とかあきらめてるんで大丈夫です。そんなくだらないことを考えているうちに学校に着く。
「おはよう、お前課題おわってないっしょw」
「残念、終わったんだなそれが」
「てめぇ裏切ったな」
今話しかけてきたコイツの名は早坂零小学校来の親友だ。結構成績はいいほう...いやよくないな。頭はいいくせに提出物とか出さないし、教師に対する態度がデカイ、本当にデカイ。好き嫌いは結構わかれる。
新クラスの名簿は昇降口に貼ってあった。
「お、また同じじゃん。これで七年くらいか?」
「とんだ腐れ縁だな」
正直コイツと一緒で本当に良かった。というか新クラスのメンツ知ってる奴ほとんどいない件について。こいついなかったら終わってたなこれ。
「零、勇。今年は別だな」
「せいせいしたぜ、なぁ勇」
「やっと離れられたって感じかなw」
「こいつ等ひでえや」
んでコイツの名前は北中大樹。こいつも小学校来の親友だ。俺は結構な頻度でこいつら二人と一緒にいる。大樹は成績優秀で、周りからも将来有望と言われている。が、なぜか存在感が薄くてよく三人組の知らない方と呼ばれている。かわいそう。
「それはそうと、零よ。大変だな今年は」
「ん?何がだ?クラスはかなりいいぞ?嫉妬か?皮肉なのか?」
「ちゃんとメンツ見ろ。三秒後には絶望してるよ。じゃ、僕は行くね」
「あいつ何言ってんだろな、ちゃんと見ろ...ん?んんん?」
「どうした」
「まじかよ...あの野郎がいるぞ...最悪だ」
「ああ、お前の元カノか、ざまぁw」
零は一年の時に当時の彼女とひと悶着あったそうで(詳しくは知らんが)ものすごい嫌ってる。いやあれは嫌いじゃないね、憎んでるね。何十回も愚痴聞かされたぞ...。
朝から色々起こった登校日だったが、そのあとは特に何事もなく昼頃には解散となった。帰ろうとした時だった。
「なぁ、勇。その...変わったことないか?超能力が使えるようになったとか」
「なにを急に言い出すんだ?超能力?ここは現実だぞ。今まで夢でも見てたのか?」
「いや。ちょっとした冗談だ、気にすんな!....じゃあなんなんだこれ...」
「ん、なんか言ったか」
「いいえ!何も!」
普段からおかしい奴だが、ここまでとはな。ちなみに妹は予想通り居残りとなりました。ということで一人で帰ります。
にしても寒い。無茶苦茶寒い。本当に四月か?葉っぱに霜がついてるぞ。
霜...?さっきはそんなものなかったはず。
.....おかしい。
どう考えてもおかしい。前に進むたびにどんどん気温が下がっていく...もう息が白い。
その時、俺はようやく気付いた。十メートルほど先に一人の人間が立っていることを。普通なら人がいたところで気にも留めないがその時は違った。風が、そいつのほうへ吸い込まれていくように吹いている。そしてそいつを中心に霜が広がっているように見えた。とにかく異様だった。遠回りにはなるが、引き返して別の道から帰ろうと、自転車のハンドルをきってUターンした。
その時だった。
目の前にいきなり白い壁が現れた。俺の進行方向を邪魔するように三メートルくらいの白い壁がそそり立っている。そして同時に凍てつくような寒さに覆われた。それは氷の壁だった。振り返るとさっきの人間がすぐそこにいた。
「まさかこんなところでランク5に出会うことができるとは思わなかった。今日はついている」
男はそう言いながら近づいてきた。
その身を足まで届く長いトレンチコートに包みながら、身も心も凍えるような野太い声でゆっくりとしゃべった。
「私の名はパラガルド・オーウェン。ランク4」
「貴様の名は何という」
声が出なかった。これから何をされるのだろうか、自分はどうなるのだろうかと考えていた。死の恐怖さえ感じていた。
「...まあいい。ここで始末させてもらおう」
始末?やっぱり俺は殺されるのか?こんなところで?訳も分からずに?
瞬間、俺の本能は何かを感じ取った。
何か来る....避けなければ..死ぬ
「...グラス・ランス《氷槍》!」
男の手のひらから何かが発射された。俺の体はたまたま運よくそれを回避することができた。後ろの氷の壁に突き刺さったものを見て、理解した。
「あれは....氷だ」
「まさかかわされるとは....そうだ、それは氷の槍だ。空気中の水蒸気を極低温で凍らせ槍を作り、弾丸並みのスピードで発車した。かわされるとは思わなかったぞ。だが次はどうかね」
ッ....また、来る。
「グラス・ランス《氷槍》!」
「うっ...ああああ!足が!足が!」
「まず足を狙った...動けんようにな」
右足に食らってしまった。これまでに経験したことがないような稲妻のような鋭い痛みが右足にはしる。
動けない...次は、ない
「とどめだ、これでさらばだ」
俺は死ぬのか...
もはや恐怖も感じなかった。ただ自分の運命を受け入れるだけだ。そう思った。その時ふと脳裏に香奈の顔が浮かんだ。
ごめんよ...香奈...許してくれ...
俺は目をつむった
来ない...?いくら待っても攻撃は来なかった。目を開けると、オーウェンは氷槍を発射する寸前の状態で止まっていた。まさに瞬間的に凍ってしまったように止まっていた。けれども、凍っていたわけではなかった。
「これは...一体...?」
何も匂わない。何も感じない。
さっきまで吹いていた冷たい風も止んでいた。
特段何かを意識したわけでもなかった。身を守ろうとも思わなかった。ただ目の前の現実を受け入れようとした。
けれども、それは起こらなかった。
そして、誰も動かなかった。動きが、止まっていた。
「時が...時間が...止まっているのか?これは...」
俺は今の状況が理解できずにいた。明らかに時間が止まっていた。だがなぜ...。
そんな時ふと零の言葉を思い出した。
゛「なぁ、勇。その...変わったことないか?超能力が使えるようになったとか」゛
つまり...俺が...止めたのか?時を。
信じられない。信じられるわけがなかった。時を止める。そんなもの漫画かアニメ、ファンタジーのようなことが現実のに起こるはずがない。でも今の異様な状況では、そんなことも信じることができた。否、信じざるを得なかった。
「もし...俺が止めた、というのなら...解除もできるはず!」
俺はオーウェンの後ろに回り込み、そして...
「動け!」
瞬間、全てが戻ってきた。
匂い、温度、感覚。
やっぱり、俺が時を止めたんだ!
「なっ、消えた..?いったい何処にっ!」
「ここだよ...あんたの後ろさ」
「貴様...一体何を...。もう一度喰らえっ!」
「止まれ!」
........ふぅ、自分で操れるようにはなったみたいだ。だがどうする。かわすことはできる。それも永遠に。けどそれじゃ終わらない!武器もない。いったいどうすれば...
今はただかわし続けるしかないのか...こんな風に時を止めて。
「動け」
「くっ、またか。いったい何をしているんだ!」
「彼は時を止めているんだよ、君には認識できないだろうけどね」
「その声は...」
零が氷の壁の上に座っていた。その姿は確かに零だった、けれども零じゃないように感じた。圧倒的なオーラ。威圧感のある声、零なのか...?
「勇、よく頑張ったな。もう大丈夫だ」
「零、なのか?」
「もちろん」
零だと分かって安心した。けれども、なぜ零は時を止めたことを...いや、そのもっと前にこの力の片鱗を感じ取っていた。一体なぜ...?
「白昼堂々と下剋上かい?ここはどこかわかってるのかな?」
「貴様は...一体誰なんだ」
「なんだ、知らないのか。なら仕方ないね」
「我が名はエフゲニーマクシリアーノヴィチヴァシレフスキー。ランクは10、唯一無二の支配者だ」
「お前が...クソっ」
「おっと、逃げさせはしないよ。インフェルノ!」
零の詠唱と共に彼の後ろから炎が発生した。その炎は段々と形を整え、ドラゴンのような姿へと変化していく。
「グラス・ミュー《氷壁》!」
オーウェンはすかさず氷で壁を作り防御しようとする...が、
「舐めないでもらいたいね、インフェルノは簡単にそんなもの溶かしつくすよ」
氷の壁は一瞬で蒸発してしまう
「こんなっ、こんなことがっ」
「とどめだ、焼き尽くせ!」
あたりは炎に包まれる。轟轟と燃える炎の中、オーウェンの断末魔があたりに響く。
「これで、お仕事終了ってわけだ」
零は一体...いや、あいつは誰なんだ...
ずっと想像してたものを書きました。正直ただの自己満なんであしからず..




