イタチの悪口仲間
森のまん中の、元太が伐ったかしわの木の切り株では、今日もイタチが腰かけて、日向ぼっこをしていました。
イタチのそばには蛇と烏とムカデがいました。みんなはイタチのふざけた話に始終クツクツ笑っていました。
うらうらと照っていたお日様が、薄ら雲にかくれて、あたりがちょっと静まり返った時、森の縁を一匹の亀が通りかかりました。
亀はチラッと、彼らを見ましたが、会釈もせずに前を向いてのそのそと歩き過ぎて行きました。
亀の歩みを見送っていたイタチは、お日様が雲から出て、あたりをまぶしく照らし始めた時、おもむろにこう言いました。
「どうして亀はあんなに動きが遅いだろうね。混んでる時なんかみんなの邪魔になるよ。」
すると、すぐに蛇が相づちを打って、「まったくだね。」と言いました。
烏はほくそえんで苔を蹴っていましたし、ムカデはひげをひくつかせながら、黙って切り株に取り付いていました。
すると、今度は森の奥から、ドングリをたくさん頬張ったリスが、一足飛びに陽なたに飛び出して来ました。
リスはイタチたちを見ると、ちょっとまごついてたたずんでいましたが、すぐに横にそれて、手近な森の中に駆け込んで行きました。
すると、イタチが少し間を置いてから言いました。
「リスはせっかちすぎるね。いつもちょこまかと動いてさ。あんまり落ち着きがないよ。」
「おまけにあんなに頬張ってさ。意地汚いったらないね。」蛇がすかさず言いました。
「育ちも悪いんだな。」烏もくちばしをカパカパ鳴らしながら言いました。
ムカデは黙っていましたが、先ほどよりは角ばった頭をもたげて、せわしくひげをうごめかせました。
すると、今度は明るい梢の上を、大きなアオサギが、地面に翼の影を落としながら渡って来ました。
アオサギはイタチたちに気が付くと、いかにも不愉快そうな声で、「ぎゃあ、ぎゃあ。」と二回声を張り上げながら飛び去りました。
ほどなくイタチが言いました。
「ああ、あのアオサギのしわがれた声!聞きたくないね。せっかく面白おかしく過ごしていたのに、気分が滅入るじゃないか。」
「僕も前からそう思っていたよ。あの酷い声ね!」蛇が赤い舌を盛んにちらつかせながら言いました。
烏も、「お里が知れるよな!」と、辺りにはばかりもなく言いました。
「私も好きじゃないですね。」とうとうムカデも、笑いながら同意しました。
またしばらくすると、今度はイタチは、近くのかしわの木の幹に、大きな茶色い蛾が止まっているのを、目ざとく見つけました。
そして、喜んでこう言いました。
「見てごらん。あの蛾の模様ときたら。よく僕らの前に出て来れるよ。誰だって嫌がるに決まってるって分からないのかね。」
すると、蛾はぴしゃりとした調子で言いました。
「あなたは悪口ばかり言うから嫌い。」
蛾がツンとして飛んで行った後、森はしばらくしんとしました。
了