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アルジャの才能

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 ニコが甲板に出たとき、アナスタシアが立っていた。


「ニコ船長。ちょっと話があるんだけれど、いい?」


 アナスタシアはご機嫌斜めなご様子。ニコはそのまま押し戻されるように部屋に入った。

 扉が閉めると、アナスタシアが睨んだ。


「……なんでアルジャを船に乗せないの?」


 そのことか。やっぱりか。ニコは頭の後ろをかいた。


「乗せても構わないと思ってるけれどね」


「人間たちの反応が心配なわけね」


「まあね。俺の勝ち得た信頼を手放す真似はしたくない」


 ニコの言葉にアナスタシアは黙った。

 それから、ちょっとだけ声を潜めた。


「ね、アルジャなんだけど、……本当にドラゴン使いの才能がないのかな?」


「アナスタシアは、……才能があると感じている?」


 ニコはドラゴン使いたちがどのような方法で気難しい竜を手なずけているか知らない。


「うーん……、アルジャはドラゴンに嫌われているって言い張るけど、うちの子はそんな感情はもっていないみたい。むしろ、興味がある感じ」


「それは、お前がきちんとドラゴンを使役しているからじゃないのか? アルジャに危害を加えないように、無意識で命令している」


「でも、うちの子、勝手にアルジャを助けに飛び出したのよ?」


 あの夜、突然アナスタシアのシードラゴンは海から飛び出した。一直線に空に向かったのだ。

 アナスタシアもニコも、甲板にいた船員たちも皆驚いた。そしてシードラゴンが向かった先にあったのは、巨大な雲。そこからわずかに覗いたのは、忌まわしい天空の巨島。

 シードラゴンはワーム状の体を螺旋の形に回転させ、なにかを包むように飛んだ。そして滑空し、海に飛び込んだのだ。

 海の中から顔を出したドラゴンは、口にエルフの少年を咥えていた。

 それがアルジャだ。

 まるで、こいつを助けなさい、と言っているかのように動かない少年をアナスタシアに渡した。


「……ふむ。確かに、少なくともお前のドラゴンには嫌われている感じはまるでなかったな」


「でね、もしかしたらって思ったんだけど……、アルジャ……、誰かに陥れられたんじゃないかな……。いや、こんなことは考えたくないんだけど。……村全体から……、わざと追い出されたんじゃないかって……。村のエルフ全員ってのは言い過ぎかもしれないけれど、村のエルフたちがドラゴンに『アルジャの命令を無視しろ』っていう命令をしていたんじゃ……、とか……考えちゃって」


「そんな、だとしたら、あの子は……、本来なら追放されるべきではない……ことに、」


 ニコはたまらず壁を殴った。

 そもそも追放などという掟がおかしい。

 自分は魔法を使えた。誰よりも使えた。聖魔法だけが使えないだけで、他の魔法ならば誰よりも上手く使えるという自負があった。だからこそ、悪の種だと言われたのだけれども。

 たったそれだけの理由で、ニコは最下層に落とされた。長い髪に白い肌のエルフは良く売れる。奴隷でなくとも、売春宿でも人気が高い。また見世物小屋で卑猥な曲芸をさせられることもある。追放者であれば無意味な儀式の生贄にもされる。臓器売買の材料にもされる。

 思い出しただけで吐きそうだ。

 長い髪も、白い肌も、嫌いだ。

 エルフの美しい顔など大嫌いだ。

 冒険者ギルドに入ってクエストに参加しても、自分には回復薬が回されなかったこともあった。聖魔法が使えないため、回復魔法は得意ではなかった。傷口が膿んで、それを自分でそぎ落として耐えた。

 何度、本当に悪に身を染めて、有り余る魔法力で天空の島を破壊しようと思ったことか。


「もしも可能なら、アルジャを私の村に連れて行きたい。海のドラゴンの使役ができたら、アルジャはドラゴン使いに戻れる。もしかしたら、また天空に戻れるかもしれないし」


「そんなうまくいくかな」


「そんな風に言わないでよ、もう! うちの子が気にかけてるくらいなんだから、きっといい子よ、アルジャは!」


「……そうだな。もしも機会があったら、お前の口から誘ってみろ。けどあいつ、本当のところはドラゴンを見たくもないかもしれないから、慎重に頼むぞ」


「うん! やっぱりニコ船長は優しいね! この商船に入れて、本当によかったわ」


「ほめてもなにも出ないぞ? さっさと持ち場に戻れ」


「はーい」


 アナスタシアいなくなった静かな室内で、ニコは一人目をつぶる。

 この空のどこかに浮かんでいる憎い故郷。

 そこから落とされた不遇の少年に、どうか幸あらんことを。



5話までなんとか書けました。

そろそろ序章の部分も終盤です。

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