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アナスタシアの慰めは

第三話、ビックリするくらい多くの方に読んでいただけました!

ありがとうございます!



「アルジャ、船長とのはなし、どうだった?」


 船室から出ればアナスタシアがすぐ気にかけてくれた。


「ああ……、いろいろなことを知れたよ。すごくためになった」


「……えっと、この船で仕事しようっていう話じゃ、……なくて?」


「え? いや、そんな話は……」


「うそ、なんで? 君、残らないの? 私はてっきりここで一緒に働くんだと思ってたのに。……商船は嫌?」


「そうじゃない。っていうか、……、ニコさんは俺をここに置くつもりはないんだと思う」


「まさか! そんなわけないじゃない」


 アナスタシアがどのように感じていたのかはわからないけれど、ニコの話しぶりだと船から降ろすことを前提にしていたと思う。


「それに、うちの子だって君のことを心配しているんだから。空のドラゴンと仲が良くなくても、海のドラゴンとなら仲良くなれるかもしれないし」


 アナスタシアの声に反応して、シードラゴンが海から顔を出した。キュウと鳴き、ほのかに光る青い瞳をアルジャに向けた。

 確かに敵意は感じない。


「きっとそれはアナスタシアとドラゴンが心を通わせているからだ。だから俺に同情的なんだ。普通のドラゴンは俺を敵視するか無視をする」


 これまでの村でのドラゴンからの態度を思い出し、アルジャはシードラゴンから顔をそむけた。

 子供のころは懐いてくれていたのに、徐々にドラゴンたちは攻撃的になっていった。嫌悪の対象。そして同年代からの嘲笑。大人たちからの冷めた目。

 母親はほとんど口をきいてくれなくなっていたし、家にアルジャがいあるだけで機嫌を悪くした。

 兄たちも、憐れむような目を向けてくる。

 アルラン家のゴミ。

 今考えればきっとそう思われていたに違いない。村にいるときには決して認めたくなかったけれど、今なら受け入れられる。

 俺は、アルランのゴミ。

 唯一親身になってっくれたのは、幼馴染のフロリアだけだった。


「……アルジャ、君はドラゴンが嫌い?」


「……別に嫌いじゃない。ドラゴンが俺のことを嫌いなんだ」


「そうやって心を閉ざさないで。打ち解けられなければドラゴンだって心を開いてくれない」


「俺が悪いのか?」


 アルジャアナスタシアを睨んだ。


「どうして必ず俺からなんだ? 俺が悪いのか? そっちも少しは努力をしろよ、じゃあさ! ドラゴンだってこっちに心を開けってはなしさ! そっちが嫌ってるんだから、そっちの問題だ! 俺は仲よくしようとした! 俺のやり方が悪いっていうなら、それはもう仕方がないことだ! だってドラゴンのほうからの努力がないんだからな! こんな考えだからドラゴンも言うことをきかないんだって言うか? だったらもうその言葉は必要ない。何度もそう言われてきたからな! 兄にも、村長にも、師にも、……幼馴染にもだ!」


 フロリアにさえも、いつも言われていた。優しく諭すふりをしながら、俺の言い分など聞く耳を持ってくれなかった。


「だったら、ああ、そうさ、だから俺にはドラゴン使いの才能がないんだ。俺はドラゴンとなかよくなれない。ドラゴン使いには……なれない。竜騎士なんて、……持つだけ無駄な夢だったんだ」


「アルジャ。まって、アルジャ、……ねえ、嫌われているっていうけど……、それって、どれくらい?」


「程度の話なら、俺の命令には従わないのはもちろん、竜笛でも鈴の音でも興味を示さない。近寄れば威嚇。なんとか触れても、背中には絶対に乗せてくれなかった」


「……一度も、騎乗できなかったの?」


「……何度かはある。小さい頃には。……その時は、嫌われているなんて思ってもいなかったけどな」


「小さい頃はドラゴンには威嚇されなかった?」


「ああ、ほんとにガキの頃だけど」


「そっか」


 アナスタシアは少し考えこむようにしてから、訪ねてきた。


「なにか、なかった? 例えば、破棄する卵の処理をドラゴンに見られちゃったとか、背に乗っているときに鱗をはいじゃったり、角を傷つけたりしたとか……」


「ないよ。そもそも卵に近寄るなんてめったにできない。角や鱗や翼の扱いは慎重にって嫌っていうくらい言い含められていたさ」


「……じゃあ、なんでなんだろ……」


「知るかよ! ともかく、俺にはドラゴンはもう必要ないんだ! どんなに、憧れていても、……必要ない」


 そう。

 もうドラゴン使いにはなれない。竜騎士の一族でもない。


「俺はただのアルジャだから。だから、……もう、ドラゴンとは、関係のない生き方を……選ばなきゃ……」


 そう言ったとき、勝手に涙が流れてきた。


「ああ、くそ、なんで」


 拭っても拭ってもそれは流れ出て、止まってくれない。


「アルジャ……、大丈夫。つらかったね」


 泣きやむことができないアルジャを、アナスタシアは抱きしめてくれた。

 慰められたのは初めてかもしれない。

 辛かった。これまで、ドラゴンにもエルフにも、家族にも嫌われていて、辛かった。

 フロリアにも、嫌われていた。

 みんなに、嫌われて疎まれていたんだ。

 でも、アナスタシアは違う。ニコも違う。

 ドラゴン使いでもないどころか、追放者でさえあるアルジャを心配してくれた。

 それだけが、生きていて良かったと実感できる唯一の現実だった。

 これも、勘違いかもしれないけれど。

 今だけは信じたい。


慰めと涙、いかがでしたでしょうか。

続きが気になりましたら、ブクマをしていただけたら嬉しいです。


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