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16/22

明るい目の前と、迫る背後の闇


 島から出た後、アルジャはさっそく新しい服を着て仕事をした。たくさん買ってもらったので、毎日着替えるのが楽しかった。髪飾りもつけた。

 アナスタシアからいくつかの髪の結い方を習った。服に合わせて色々と試してみている。

 自分で結い上げた髪を鏡で確認しながら、そういえば兄たちは器用に髪をまとめていたことを思い出した。これまで自分は簡単にくくるだけだったが、王都で仕事をしている兄たちはいとも容易く凝った結い方をつくっていた。

 あれは大人になってからするような装いだと思っていたが、自分もしてもいいのかと目からうろこが落ちた。

 アナスタシアの村に行くまでに、髪の結い方くらいはきちんとできるようにしておこう。

 そしてニコのように耳飾りもつけたい。

 もらった小石をピアスに加工してもらおうかと考えた。今はポケットに入れておいているが、ピアスならば肌身離さず着けていられる。すぐにサバトで渡せるだろう。

 アーレンと一緒に漁の練習をしているときにアナスタシアが様子を見に来たので、アルジャは思い切って相談してみた。


「ニコさんから渡された石をピアスにしたいんだけれど、できるかな」


「船長からもらった石?」


「そう。俺が魔力を持っているっていう証拠の石。ニコさんの耳飾りの一部の石だから、魔法道具の欠片だと思うんだ。ほら、色が裏と表で違うだろ。どっちかが俺の魔力に反応した色なんだ」


 アルジャはその小石を見せた。


「……ニコ船長の耳飾りの、石。……一個だけなの?」


「ああ」


「そっか。……二個あれば左右の耳につけられたんだけど。……それにピアスの金具もないしなぁ。あ、じゃあ、あれがいいか」


 待っててと言い残し、アナスタシアがどこかへ行ってしまう。アルジャは首を傾げ、気を取り直してアーレンとの漁に戻った。


「じゃあアーレン、今日はまずは魚の群れを見つけて海面に追い込む練習だ」


 キュウ



 練習はうまくいかなかった。

 けれども、幸運にも追い込み網のなかにそれないりに魚が入ったので料理当番から褒められた。

 初めてのことだ。

 アルジャは自分でも恥ずかしいくらいに笑顔になってしまった。ほとんどはアーレンの手柄だが、褒められるのは嬉しい。

 明日も頑張ろう。


 そして夕飯後、食器洗いが終わったあ頃にニマニマした不思議な笑顔でアナスタシアがアルジャのところまできた。


「やっとできたの、これ、使って」


 そういって小さなガラスの筒のようなものをくれた。中には青と白のバイカラーな石が一つ入っている。


「これは?」


「ペンダントヘッド。中には、私の魔法力の石が入ってるわ」


「アナスタシアの?」


「そう。子供のころにやった、魔力があるかどうかを調べた石。ニコ船長がやったやつと同じかどうかは分からないんだけど、どんな魔法の属性が強いかを調べたやつね。透明な石をぎゅっと握って、手をはなしたときに色が変わっていたら魔力があるっていうやつ。青と白だから、水魔法と聖魔法って言われているわ。信ぴょう性は定かじゃないんだけれどね。だって聖魔法はほとんど使えないから。アルジャの石、赤と黒の二色でしょ。赤だと火かな? 黒だと闇魔法かも。緑だと風っていわれている。黄色だと地」


 天空のエルフは風魔法が得意のはずだが、赤と黒ならば、どちらがアルジャの魔力であっても風の才能はなさそうだ。よほど自分は天空には向いていないらしい。


「青と白と赤と黒。四種類の色があるってなかなか素敵じゃない? 良かったら貰って」


「でも、大事なものなんじゃないのか? 記念とか思い出とか」


「ピアスにしたら、つけてほしいな」


「……本当にもらっていいのか?」


 アナスタシアの魔力の入った魔法石。欲しかった。片方がニコで片方がアナスタシアのセットのピアス。


「もらってほしい」


「もらう。ピアスにする。両耳にいつもつけるよ。アナスタシア、ありがとう」


「ふふ。そのカプセルの蓋のところにチェーン穴をつけたから、ニコ船長のマジックアイテムと一緒に首から下げていたらいいと思う」


「そうか、ありがとう」


 アルジャはすぐにネックレスチェーンにそのカプセルを通した。

 ピアスにしたら、いつも耳が見えるように髪を結っておこう。もしくはニコのように短く切ってしまってもいいかもしれない。

 幸せな気持ちでネックレスを服の下に入れた。

 天空から持ってこれたのは憎しみと悔しさと顔の傷だけだが、地上では幸せばかりをもらっている気がする。

 早く恩返しがしたい。





「アーレン、いいだろ。もらったんだ」


 夜、仕事が終わり、ボイラーの残り湯でシャワーを浴びた後、アルジャは甲板でアーレンと話していた。服の下からマジックアイテムと小石の入ったカプセルを見せた。


「ニコさんの石と、アナスタシアの石だぞ。宝物だ」


 キュウキュウ


「綺麗だろ。……こんなプレゼントをもらったのは初めてだよ。嬉しいもんだな。……アナスタシアにもいつか綺麗な石を贈りたいな。ニコさんにも。海の宝石ってなんだろう。真珠に、サンゴとかか? 空にいると縁がないから、見たこともないんだ。あ、もちろんアーレンにも贈るぞ? お前のマジックアイテムを借りたから、そのお返しもしなきゃな。……アーレンは海の宝石なんて見慣れてるか。どんな石がいいかな? 意外に、金とか似合いそうだな」


 キュウ!


 喜んでくれている気がする。


「ドラゴン使いになれなかったら、ドラゴンの装飾品とか作る仕事を目指そうかな。お前用のを真っ先に作る。約束だ」


 目標ができた。自分の作った装飾品を贈ろう。アナスタシアに喜んでもらえる髪飾りと、ニコのお眼鏡にかなう耳飾りと、アーレンの命を守るマジックアイテムを作ろう。

 アルジャは追放のエルフということを忘れかけていた。

 アナスタシアの村に行って、サバトで魔法を使えるようになって、ドラゴン使いになる。

 そんな夢を見ていた。


「じゃ、アーレン、お休み。あ、でもお前はまだこれから一仕事か。頑張れよ。また明日な」



 アルジャはネックレスを服の下にしまった。

 最近、夜は必ずアーレンが船をひいている。ニコの指示だった。動力を節約しつつ、最速で大陸につくためだと言っていた。早く家に帰りたい乗組員たちは喜んでいた。

 アーレンは海の中に少し潜ってから、船頭の先にせびれを見せる。

 船のスピードが上がり、風が強くなった気がした。

 しばし月明かりを反射して浮かび上がるアーレンを眺めてから、アルジャは自分の部屋に戻った。


 部屋のドアを開け、ふうっと息を吐く。眠い。

 うとうとしながら灯りとつけようとした時だ。

 背後に、誰かがいた。

 気配を察知したときには遅かった。腕を背中にねじりあげられ、口をふさがれた。


「んー、んーーー!」


 叫ぼうとしても無理だった。

 頭を床に押し付けられると腕を足を素早く縛られた。相手は複数だった。口にも布を当てられ、くつわにされる。


「んん! んーーー! んーーー!」


 このまま海に放り込まれる。

 殺される。

 アルジャはそう思って必死に暴れた。


「暴れるな!」


 耳元ですごまれたが、はいそうですかとはならない。更に必死に暴れた。


「こいつ!」


 思い切り顔を殴られた。ぐわんと目の前が揺れたが、暗闇だ。夜目が聞くとはいえ、明かりが一つもなければさすがに上下左右は分からない。アルジャはどさりと床に倒れた。


「バカ、顔はやめとけ」


「エルフだぞ、あざくらいすぐに治るさ」


 聞き覚えのある声がするが、誰だかわからない。アルジャはそのまま担ぎ上げられると、乱暴に何かに放り込まれた。


「んーーー!」


 狭くて、周りが丸い。

 樽だとすぐに察しがついた。ふたが閉められる。


「穴はふさぐなよ。ギリギリまでな」


 ギリギリまでとはどういうことだ。

 樽が持ち上げられる。


「んん! んんんん!」


 懸命に暴れて叫んだけれど、どうにもならない。

 どこかに運ばれてゆく。

 嫌だ、殺されたくない、死にたくない。


「おい、何やってるんだ」


 別の声が聞こえた。これには覚えがる。甲板長のゴアだ。

 助けてくれるかもしれない。


「んー! んー!」


「ああ、ゴアさん。アルジャのやつ、荷の酒樽を外に放り出したまま寝ちまったみたいで、それを片してるとことなんですよ。あいつ、最近たるんできたんじゃないですかね」


「……明日になったら俺から直接注意するから、お前らは口も手も出すなよ」


「へえへえ。ったく、みんなあの奴隷エルフに甘いんだから」


「奴隷じゃない。言い方に気をつけるんだな。さすがに差別が過ぎる」


「はいはい、あー、やってらんねーな」


 叫び、暴れたけれどゴアにはその音は届かなかった。波の音のせいだ。蓋に空いていた小さな穴に、栓がされる。

 駄目だ。

 まずい。

 壁を必死に蹴ったが、持ち上げられるのが分かった。

 そして浮遊感、遠心力。

 樽ごと放り投げられたのだ。

 そして海に落ちた。

 その衝撃でアルジャは頭を強くうち、気が遠くなるのを感じた。

 捨てられた。大海原のただ中に。今度は誰も見つけてくれないだろう。飢えて死ぬか、窒息して死ぬか、海の底に沈むか、海獣に喰われてしまうのか。

 ああ……。

 ニコさんとアナスタシアに良くしてもらったのに、無駄にしてしまったな……。

 申し訳ないな、生まれ変わったら、役に立とう。

 生まれ変わったら、きっと。



ブクマ、そしてここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

この回で一つの区切りとなりました。

タイトルでいうところの『追放されたエルフ』の部分です。


この先は若干アンダーグラウンドな雰囲気を……目指してます。

性的、暴力的なストーリーもでてまいります。同性愛的な部分、キメラやトランスなど、強制肉体改造にあうキャラクターなども……。

引き続き読んでいただきたいのはやまやまですが、苦手な方は……熟考願います。

逆に楽しみだ! という方、……ご、ご期待に添えると良いのですが……っ。


では次の『地べたを這い』でお会いしましょう!

なるべくすぐに更新予定です。


ブクマ、評価、このキャラが好き……、というような感想お待ちしております!


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