表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/22

魔女集会へ行きましょう


「簡単にいえば闇魔導士の集会だ。女だけじゃないが、通称で魔女集会と呼ばれてる。表立ってはできない魔術や秘術を行う集まりで、見つかったら火刑は避けられない。とうぜん見つからないような術を使って集まってるんだが、どうにかしてお前をそこに行けるようにする。だから大陸に降りたらすぐにでも行ってほしい」


「ま、待ってください。……どういうことですか?」


「そこでなら、お前は魔法を使えるようになる」


 魔法を使える。

 耳を疑った。すぐには信じられない言葉だった。これまで何度頑張っても、小さな火さえおこせず、そよ風も呼べなかった。

 学校の授業でも師のもとでの訓練でも、もはや誰もアルジャに成功を求めなかった。失敗を期待され、ため息と嘲笑の為だけにアルジャは涙をこらえて魔法の練習をしていた。

 魔法が使える。

 魔法が使えるように、なる。


「本当、ですか……」


「絶対じゃない。期待させて失敗したら申し訳ないから、保証はしない。けれど……、お前には魔力はあるんだ」


 ニコはつまんでいた石をアルジャに見せた。黒い石だった。しかし、それをひっくり返すと、その色は赤。


「外から力を加えられると、どんなものでも反射的にそれに抵抗する力をだす。俺の出した魔力に、お前は抵抗する力を出した。ごくごく微量で、全く出ていないに等しいかもしれないが、こうやって、結果がある」


 黒い面と、赤い面の石。


「お前に魔力はある。だから、魔法を使えるようになるかもしれない。サバトには様々は秘術を扱う魔導士がいる。きっと、誰かが、お前に魔法を使えるようにしてくれる。魔法が使えれば、追放のエルフでも最底辺の奴隷にならなくて済むんだ。使い道がある。生きる幅が広がる。身を守ることもできる! だから行くんだ。アナスタシアには知られないように、サバトに、魔女集会に」


 暗い表情の中、ニコの瞳だけは異様に光っていた。そしてアルジャの手首をつかむ。その手は酷く冷たい。指が食い込むほどの強い力。


「いいか、これを見せろ。俺の魔力がこもっている。魔女集会でこれを出せば、大体のやつはわかる。なくすなよ。ずっと持ってるんだ」


 そういってアルジャに小さな石を握らせた。


「わ、わかりました」


「……、ああ。そして、……アナスタシアの村に行くんだ。良い村だぞ、あそこは」


 ニコはふっと笑ってアルジャの手首を放した。その表情はいつもの快活なものに戻っていた。

 さっきまでのニコとは別人のようだ。

 夢でも見ていたのだろうか。けれど握られた手首の痛さはまだあるし、手のひらには変色した小石もある。


「さてと、俺はまた陸に行く。お前はどうする? ……アナスタシアが買い物に誘いたがってるけれど?」


「え、アナスタシアが?」


「同じエルフ同士、仲良くしたいんだ。俺よりはお前のほうがまだ年齢が近いしな。それにお前、その服しか持ってないだろ」


 アルジャの着ている服は天空から落ちた時のものだ。替えの服は、作業着の予備を借りている。


「お前に服を買ってやるって張り切ってたぞ。気が向いたら部屋から出て、アナスタシアに声をかけてやってくれ」


 言うだけ言うとニコは済んだ食事の食器をもって部屋から出て行った。出て行く間際に軽く手を振っていた。

 それを見て、外に出ようかなとアルジャは思った。



 結局外に出たのは翌日の昼だった。

 ドアを開けるとすぐにアーレンが海から顔を出し、ワーム状の体を伸ばして、目の前の手すりにちょこんと顎を乗せた。

 キュキュキュキュ。小さく声を出して、なにやらかわいらしい。


「久しぶり。嵐の夜は活躍したみたいだな」


 顔をなでながら話しかければ、アーレンはキュキュキュと鳴いて返事をくれる。さっきよりも低い音なので、少し怒っているのかもしれない。


「あ、なんか気に障ること言ったか? ごめん。怒らないでくれ。撤回するから」


 急に不安になってアルジャは謝罪をした。脳裏に天空での日常が蘇る。アーレンにまで嫌われたら、辛い。

 すると、アーレンは竜笛の音に似た甲高い音を出した。それは空に吸い込まれていゆく。

 不思議と反響して聞こえた。


「アーレンに呼ばれたかと思ったら、そういうこと」


 頭上からアナスタシアの声がした。見れば金色の髪を風になびかせ、上の階からアルジャを見下ろしている。青い空は彼女によく似合う。


「今日は出かける気分?」


「……、ニコさんが、アナスタシアに声をかけてみろ、と」


「なーんだ、ニコ船長の手回しがあったってわけね。けれど、ならもうわかってるわよね。一緒にお買い物に行きましょう? 初めての陸に、上がってみたくない?」


「……、上がってみたい」


「なら決まり! すぐに甲板に回って! 私の買い物に付き合ってもらうわ」


 なんだ、アナスタシアが買い物をしたかっただけなのか。

 アルジャは苦笑いを浮かべた。けれど、買い物の相手に選んでくれたことがうれしかった。胸が熱くなる。ちょっとだけ緊張した。悪い緊張じゃない。別の言い方をすれば、それは期待だ。

 アルジャは初めて船を降りた。

 そして初めて地上の陸に上がった。

 空でもなく海でもない。


「陸」


 大地に両足がついている。

 こんな感動的なことはない。


「陸だ!」


 アナスタシアとこの感動を共有できないことが残念だ。

 ニコとならば共有できるかもしれない。

 陸に来た。


ブクマと評価、ありがとうございます!

更新してから眠りにつくことが多いのですが、朝起きてページを開くと、まだ夢なのかな!? と二度見することが増えました。

こんな嬉しい目覚めを味わえるのは、読んでくださる皆様のお陰です。

ありがとうございます。

更新、頑張ります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ