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12/22

気付かなければ良かった過去


 明け方近くまで嵐は続き、それでも夜明けには見事な朝焼けを眺めることができた。けれどもまだ海自体の荒れは酷く、アルジャは慎重に外の通路を歩いた。

 当然揺れに対してではあるが、今はそれ以外にも気をつけなければいけない。

 なにか隙を見せれば、付け込まれる。

 追放のエルフは決して誰からも認められることはなく、常に邪魔者なのだ。それ以上にはなれない。

 食堂に入り、誰よりも先に準備を始める。

 雨のおかげで浄水タンクは満タンで、これならば朝のシャワー用にたくさんのお湯を用意できるだろう。ボイラーの故障も見られない。

 食器棚などの中も無事だ。

 冷蔵庫に保管していた食事をそれぞれの部屋のポストに入れてゆく。

 最後に船長室のポストに箱を入れて、


「昨夜はありがとうございました」


 とだけ小さく声をかけて、アルジャは潮まみれになっている甲板などの掃除に向かった。



 なるべく乗組員たちとは離れて過ごした。そして背を向けないように心がける。狭い外の通路を通るときはしっかりと手すりを握り、ニコやアナスタシアの目があるときにはその視野に必ず入るよにした。

 乗組員たりからの拒否感だでけなくアルジャからの壁もできたため、空気は固く冷たくなってしまったが、それすらもアルジャには心地よくなっていた。


 船が少し大きな島に寄港することになり、アルジャは船内の準備の手伝いをした後にすぐ自分の与えられた個室にこもった。

 電気も消して、今度は内側から鍵をかける。

 すでにアナスタシアに三日間の寄港だと聞いていたので、その間の飲み水なども確保していた。トイレもついているし、シャワーはないがそれは我慢できる。

 ゆらゆらと角度をかえる揺れを感じながら、暗闇の中でもらったマジックアイテムを握って過ごした。

 なにもすることがないと、未来のことと過去のことが交互の脳裏をよぎる。

 これから自分はどんな運命を過ごすのだろうという不安。

 今までの自分の人生はなんだったのだろうという後悔と憎しみ。

 


 父も兄も不在の家には、自分と母しかいなかった。

 母もドラゴン使いだったが、アルジャがどんなに落ちこぼれであっても決して批難はしなかった。学校に行くときは玄関にでて見送ってくれたし、学校の成績に関しても悪しざまには言わなっかった。


「次はもうちょっと良くなるといいですね」


 と言うだけだった。その言葉にアルジャはいつも安堵していた。

 学校の基本の勉強は出来ていたし、運動や槍や弓といった武術は同学年で一番という自負があった。けれども、ドラゴン使いとしての訓練と魔法の授業だけは一番下。村でついていた師には怒鳴られ続けていた。どんなに勉強や武術ができても、ドラゴン使いの能力を補うことはできない。それが分かっていたから、アルジャは母に成績のことをなんと言われるか非常に気にしていた。いつもびくついていた。

 小さいころ、良くつるんでいたジークという少年がいる。

 幼馴染ではあるが、フロリアとは違い、学校に入ってからこのジークとは険悪になっていた。

 理由はアルジャが落ちこぼれだからだ。もともとライバルのような関係の幼馴染だったが、それが徐々に軽蔑に似た見下しに変わっていった。

 魔法やドラゴン操作が非常に上手いやつで、全くできないアルジャを笑いものにしていた。それにカッとなって、弓や槍の訓練でこてんぱんにやっつけてやったので、関係はさらに悪化。

 喧嘩もしょっちゅうだった。

 それで何度も師や学校の教師に呼び出され説教をされていた。

 母はなにも言わなかった。

 学校やドラゴン操作の訓練について、なにも聞いてこなかった。


「ああ。そうか」


 アルジャは暗闇の中でやっと気が付いた。


「最初から期待なんてされていなかったんだ。もう諦められていたんだ。いてもいなくても、よかったんだな、俺」


 名門アルラン家の一員だとすら思われていなかったのだ。

 だから、追放の儀式のときもかばってっくれなかったし、そもそも母はどこにいたのだろう。

 家にいてお茶の準備でもしていたのかもしれない。

 父が帰ってきていたから、少し豪勢な食事でも用意していたのかもしれない。


「……」



 静かに腹が立った。

 鼻を明かしてやりたい、目にもの見せてやりたい、後悔させてやりたい、そんな言葉が思い浮かぶけれど、どれもしっくりこない。

 でも、なにか、してやりたい。

 アルジャは静かに復讐を誓った。内容はまだわからない。



 ドアがノックされた。ぎくりとしたが、


 「俺だ、寝てるか? 起きてたら開けてくれ」


 という声はニコのものだった。ほっとしてドアをあけると、すかさず鼻先にランプが掲げられた。


「うわっ! 眩しい、なにするんでうすか!」


 腕で光を遮りながら抗議する。


「こんな辛気臭い部屋にいるのが悪い。今回は降りても平気だったんだぞ。流民の島だからな」


「流民?」


 ニコは部屋に入ってきて、明かりをつけるとテーブルに食事を乗せた。


「そ、もとは流刑地。って言っても二百年以上前か。それでも他の土地よりは過去にこだわらない気質だ。追放エルフはちょっと立場が違うけど、表通りの治安の良いところならあからさまな差別は受けない。俺もこの島で随分と救われた」


「ニコさんは……いろんなところを点々としてたんですね」


「まあな。点々とせざるを得なかったっていうか。さ、食事にしよう。地上の料理なんて初めてだろ?」


 肩をつかまれると、そのまま椅子に無理やり座らせられた。

 目の前にはたくさんの野菜と、その中央にどんを鎮座する肉の塊。何の肉かはわからないは、香草のようなものは塗りこまれていて、香ばしいいい香りがする。


「ファストフードだけどうまいんだ。さあ、食べよう」


 ニコが先に食べ始めたので、アルジャもためらいながら口にした。美味しいけれど、初めて食べる味だった。

 独特な甘みがある。嫌いではない。

 食べ勧めていると、ニコが話題を振ってきた。


「アナスタシアの故郷に行くんだよな?」


「え? あ、はい……行けるなら行きたいです」


「アナスタシアは連れて行く気満々だから絶対に行くことになるだろ。ははは」


「そうなんですか、……よかった」


「ほう。乗り気ってことでいいな? 嫌だったら俺のとこに連れて行くつもりだったけれど」


「ニコさんのことろに?」


 アルジャは驚いた。


「でも、俺は船から降ろされるんじゃ……」


「ああ。もう無条件では船にはのせないけれど、無一文で放り出すには忍びない。だから、俺が昔世話になった伝手で、どこか働ける場所がないか聞いてみるつもりでいたんだ」


「本当ですか」


「ああ。追放エルフ仲間だろ」


 仲間。その言葉にアルジャの心が震えた。


「あ、ありがとうございます!」


「ま、アナスタシアのところに行くならいいんだ。けど少し心配なことがある」


「……な、んでしょう?」


「手を出してみてくれ」


「手を?」


「そうだ。手のひらを上にして」


 アルジャは言われたままに手のひらを上にして差し出した。

するとニコは耳に下げていたピアスから一粒の石をとり、それをアルジャの手のひらに乗せる。


「これから、どうにかして抗ってみてくれ」


「え?」


 理解ができないまま、ニコはアルジャの手のひらの上に、自分の手のひらを掲げたのだ。

 そしてその直後、強い風の流れのようなものが手のひらに落ちてきた。しかもやけに熱い。


「手のひらはそのままで、これを押し返すように、どうにか頑張ってくれ」


「え? いや、でも、」


「やり方はわからなくて良いから、感覚でいい」


 分からないが、アルジャは手に意識を集中した。ニコの手から妙に熱い空気の流れがやって来るが、それを弾き返すようなイメージて。けれど手が押し退けるように動いてしまうだけで、目に見えないナニカはでなかったし、ずっと熱いままだ。


「もういいぞ」


 止めの声がかかったのは正直助かったが、ニコの期待には応えられなかったのは明らかで、アルジャは悲しくてならなかった。

 ニコはアルジャの手のひらから石の粒を取り、じっとそれを見つめた。

 そして見つめながら言った。


「一つ立ち寄ってほしいところがある」


「……どこでしょうか」


「アナスタシアにはあまり知られたくない場所だが、必ず行ってほしい」


 ニコに表情からいつもの快活さが消え失せた。その顔はとても暗く、少し怖い。


「サバト。魔女集会だ」




読んでいただきありがとうございます。

ニコは不安の種みたいな存在で書いています。

書けていますかね。

ブクマありがとうございました!

起きてビックリ!

すぐに更新できなかったのが悔やまれます。

引き続き、頑張って更新します!

よろしくお願いします!

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