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創作怪談――創怪

みらいしんぶん

作者: ユージーン


 み ら い し ん ぶ ん


 と蛍光色のサインペンで書かれた紙がポストに入っていた。

 幼い感じのする字で、おそらく小学生が学校の課題ででも作ったのだろうと思った。最初は課題でやらされていたのが、だんだん楽しくなってご近所に配っているのかもしれない。

 ちゃんとタイトルの下には見出しと記事もあり、写真の代わりにイラストが書かれていた。

 そういえば自分が子供の頃も壁新聞を作ったっけと思いだして、懐かしさに笑みをこぼしながら古新聞の山の上に乗せた。


 翌日も届けられ、翌々日も来る。

 どうせ捨てるだけなのだから迷惑というほどのこともないのだけれど、なんとなく気になってきて改めて記事に目を通してみると、内容は強盗殺人事件で被害者が死ぬというものだった。イラストも人が刺されて血を流している。

 そこで届けられた3枚を並べてみた。

 記事は同じ強盗殺人で、書かれている文章は同じだが字はそれぞれ違っており、同じものをカラーコピーしているのではなく毎回手書きされているように見える。

 子供の遊びにしては内容がグロテスクだし、毎日書き起こして作る執拗さを考えると大人がやってるならなお気味が悪い。


 事件の日付は4日後になっていた。

 だから「未来新聞」なのだろう。

 事件の現場はこのアパート。

 冗談でもここまで来ると笑えない。


 日々の雑用を片付け、未来新聞を確かめているうちに真夜中を過ぎてしまっていた。

 ベッドに入っても気分が落ち着かない。

 明日の仕事に差し支えるとは思っても、居ても立ってもいられず近所のコンビニに行くことにした。

 何をするわけでもないが雑誌をペラペラとめくり、店内を歩いているうちに日常が戻ってきたような気がしてきて、お菓子をいくつか買って部屋に戻ることにした。


 アパートの外階段を登り廊下を歩いているとスーツ姿の男性とすれ違った。

 朝や夕方に見かけるなら当たり前の事だけれど、時間が時間だけにどこか引っかかるものがあった。

 酔っている様子もなく、ネクタイもシャツも着替えたばかりのように緩みがない。

 眼鏡の奥の瞳はまっすぐに前を見据えてこちらの存在を完全に無視していた。


 鍵を取り出し、ドアを開けて部屋に入るとポストに「みらいしんぶん」が入っていた。

 子供が外を出歩いている時間じゃない。

 事件まであと3日。

 すぐに大学の同期の友人に電話し、カバンに着替えなどを詰め込んで部屋を出た。

 夜中に起こされた友人は不機嫌な様子だったが、こちらの緊張が伝わったのか、すぐに来るようにと言ってくれた。




 事件当日の深夜、友人に車を出してもらってアパートの自分の部屋の窓の見える場所で見張っていると、窓が開けられ、男が頭を出して周囲を見回す。

 あのサラリーマン風の男だった。

 すぐに警察を呼んだが男は逃げたあとで、部屋の中はめちゃくちゃに荒らされていた。

 警察はポストの中にあった残り3枚の「みらいしんぶん」を証拠として回収して引き上げた。




 半年ほどした頃、年配の女性が部屋を訪ねてきた。

 その人は「みらいしんぶん」を持っていた。

 けれどそれは私の書いた「みらいしんぶん」だった。

 あの男は私の小学校の時の同級生で女性はその母親だとの事だった。私は同級生の事も「みらいしんぶん」の事も完全に忘れていた。


 男は高校を卒業後に就職、若くして結婚して妻と娘がいたが火災で失ってしまった。

 それだけなら不幸な出来事で終わったのだが、失意のまま実家で過ごしているうち、たまたま「みらいしんぶん」を見つけ、そこに書かれていた記事の内容と日付が一致しているのに気づいてから様子がおかしくなってしまったらしい。

 馬鹿げているといえばそれまでだが、彼の抱える絶望はあまりにも大きすぎて、偶然の一致を必然と陰謀にすり替えずにはいられなかったのだろう。

「みらいしんぶん」による復讐が彼のすべてになってしまった。

 被害者の私としてはたまたま殺されずにすんだというだけだから可哀想という話では片付けられないのだが、母親としてはこうして謝罪するのが精一杯というのもわからないでもなかった。

 結局、彼は母親の通報で逮捕され、今は病院に収容されているとのことだった。




 それが今から十年前の出来事だった。

 今日、また、「みらいしんぶん」が届いた。


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