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黄金の魔術師 ~金は最強の攻撃手段!~  作者: 柴竈 哲
第零章 〜The beginning of the golden〜
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天才魔術師テレサ

 水だ。探し求めていた水がいっぱいだ。


「ちょ、まっ⁉」

「待たない! あなた臭すぎるわ!」


 放水車で放水してるんじゃないかってくらいの水圧が俺の全身を襲う。腕で顔を庇いながら水が放たれている方向を見ると、器用に鼻を摘まみながら逆の手をかざした濃紺色のローブを身にまとった女性がいた。

これが魔法って奴なのか⁉ 手のひらから放水とかファンタジーだな!

 水圧が強すぎて耐えることしか出来なかったが、しばらくすると水が止んだ。その間に失われた酸素を補給しながら女性の方を睨みつける。


「ゴホッゴホッ‼ いきなり何するんだ!」

「洗ってあげたのよ。感謝してもいいわ」


 な、なんだこの人!


「すんっ……、まだ臭いけどこれくらいなら我慢できるわね。ねえ、そのリスがどこに居たのか教えてよ!」


 臭い臭いって、水が無くて水浴びも出来なかったんだから仕方ないだろう! 髪の毛から滴る水滴が鬱陶しくて首を振ってある程度飛ばす。

 女性が「うわ、汚っ⁉」と飛びのいているのは見なかったことにしよう、うん。この山で会った初の人間だ。機嫌を損ねたら元も子もない。

 放水されてた間、遠くに逃げていたオスカーが肩に乗るのを見ながら女性の質問に答える。


「この山に入ってすぐのとこだよ。食べ物探してたらいつの間にか居た」


 あの時はどんぐりもどきが食べられるのか脳内会議を開いて舐めて確かめるという結論に至った時だ。いざ舐めようとしたら何かの視線を感じて振り返るとオスカーが物欲しげにこっちを見つめていたのが始まりだ。いっぱい落ちていたので毒見させようとどんぐりもどきを与えるとその後も俺に付いてきたんだ。あの時はこんなに仲良くなるとは思っていなかったんだよな。


「まじないリスが麓に……? 群れからはぐれたのかしら?」


 ぶつぶつと独り言を漏らして考え込む女性が自分の世界に入る前に聞いておきたいことがある。意を決して顎に手を当てて考え込む女性に聞いてみることにした。


「答えたんだから俺の質問にも答えてくれよ」

「そもそもまじないリスって群れを作るのかしら……? あ、何か言った?」


 こ、この女……!


「俺の質問にも答えてくれよ」

「ええ、いいわ。天才魔術師のテレサ様に何でも聞くといいわ」

「じゃあテレサちゃん、この付近で水場知らない?」

「て、テレサちゃん……? あんた、いきなり馴れ馴れしいわね……!」


 城下町で見かけた時と印象が違うのはなんだろう。あの時は甘ったるい声で男を誘惑しようとしてたけど、今は高圧的というかドライだ。なんとなくこっちの方がテレサちゃんに似合ってる気がする。


「まあいいわ。この辺に水場はないわよ」


 ない……? 嘘だろ? ならこの辺に動物がいないのは確定?


「そもそも、あなた。ここがどういう場所か知ってるの?」

「魔の山脈って名前くらいしか知らない。縄に縛られてここの麓に捨てられたんだ」

「ああ、あの時近衛兵に担がれてた異邦人ってあなただったのね。汚くて分からなかったわ」


 あの時の事は覚えてるようだ。俺も覚えているぞ、視界は逆さまで吐きそうだったけど。


「なら知らないのも無理ないわ。ここは空気中に含まれる自然魔素(マナ)が異常に溢れる場所よ」

「そのマナってのが増えると何か良くないことでもあるの?」

「あなた……、異邦人なのにそんなことも知らないの?」


 その異邦人はみんな強くて賢いってイメージ捨ててもらえます? 誤解なんです、地球にはそんなマナなんてありません。ゴリゴリの物理が支配する世界です。


「本当に知らないようね……。はあ、憧れの異邦人がこんなのだなんて幻滅だわ……」

「勝手に幻滅されても……。異邦人は全員すごいって誤解だから」


 露骨にため息を吐くテレサちゃんは俺にも分かるようにマナについて教えてくれた。天才魔術師と自称するのは伊達じゃなかったようだ。

 自然魔素(マナ)とは。魔術を構成する上でなくてはならないモノで、体内に取り込むことで体内魔素(オド)と混じり合って魔力と呼ばれるエネルギーに変換される。この魔力と呼ばれるエネルギーを消費して魔術は成る。魔術は様々な恩恵を人に与え、時代と共に魔術の在り方は変化してきた。

 なんだか魔術って貴金属みたいだ。ほら、貴金属って昔は装飾品とかにしか使えなかったけど、今じゃ電子機械の主要部品だろ? それと同じような印象を抱いた。


「ならマナがいっぱいあっても困らないじゃん」

「普通はそう思うわ。でもね」


 さっきの放水も魔術で行ったらしい。そう考えるとマナはあるだけあった方がいいに決まっている。放水の魔術を覚えればこんな山の中で水場を探して彷徨うこともなかったんだ。

 だが、テレサちゃんは言った。マナは取り込みすぎると毒になると。

 マナは基本的に空気中に含まれているそうだ。マナを取り込むということは呼吸することだ。呼吸は生きていくうえで必要不可欠だ。

 過剰摂取で毒になるマナが溢れるこの山は非常に危ないのだとやっと理解できた。

 要は酸素なんだな、マナって。過呼吸は危険だ。


「でも、なんで俺は平気なんだ? 今日で六日目だぞ」

「六日もここにいて何ともないのが不思議なのよね。あなた、自分の許容魔力量って知ってる?」

「なにそれ」

「マナすら知らないんだもの、知ってる訳ないわよね」


 呆れた様子のテレサちゃんにも段々と慣れてきたぞ。あんまり気にしない方がいいと俺は学んだ。

 許容魔力量とは変換された魔力を蓄えれる限界値らしい。要は魔力の胃袋の大きさってことだよな。

 テレサちゃんが言うには特別な魔術を用いるか専用の魔導具を使わなければ許容魔力量は分からないらしい。俺の知ってる魔導具は尻のポケットにしまったままのスキルカードだけだ。

 なんとなくスキルカードを取り出して眺めているとテレサちゃんが意外そうな声を上げる。


「それよ、特別な魔導具って。なんだ、見てないだけじゃない」

「へえ、これで見れるのか」

「スキル名が書かれてない面に力と魔力の数値があるはずよ。確認してみて」


 暴行されそうになった時、咄嗟にしまっておいてよかった。

 テレサちゃんの指示に従ってスキルカードを裏返してみる。


「……?」

「なんて書いてあったの……よ……? え?」


スキルカードの裏面に書かれていたのは、

・闘値……一二七

・魔値……一一九八二

 これだけ。この数値が高いのか低いのかよくわからない俺はテレサちゃんの顔色をうかがうことしか出来ない。

 肝心なテレサちゃんだが、スキルカードを覗き込んだ体勢のまま動かなくなってしまった。

 なにか可笑しかったのだろうか。少し不安になってきてテレサちゃんの目の前で手を振ってみると堰を切ったように俺の胸倉を掴んで揺らし始めた!

 やめて! もう揺れるのは嫌なんだ! あ、オスカー、また逃げやがった!


「あんた一体何者よ⁉ 異邦人にしてもこの数値は異常よ! ねえ、何をしたらこんなに高くなるのよ⁉」

「し、知らねえっ! ちょ、揺らすなっ!」


 テレサちゃんの細い腕にこんな力が眠っていたなんて!

 胸元からミシミシと何かが破れる音が聞こえた気がする。これ、一張羅なんだぞ⁉

 危機感を感じた俺は必死にテレサちゃんの腕を離そうと試みるがびくともしない。

 この人、どんだけ力込めてんだ! オスカーは俺のポッケからこぼれたどんぐりもどき食ってないで助けろ!


「教えなさいよ! って、まじないリスが食べてる木の実って」


 やっと放してくれた……。破れてないよな?

 俺からオスカーの食べてるどんぐりもどきに興味が移動したテレサちゃんだったが、どんぐりもどきを拾うと再び胸倉をつかんできた。

 今度は何⁉


「もしかしてあんた、こんな物食べてたわけじゃないでしょうね⁉」

「食ってた! おやつ代わりにいっつも食ってたよ! いい加減放せっ!」


 俺の言葉を聞いたテレサちゃんは胸倉から手を放し、ふらふらと覚束ない足取りで離れた。頭でも痛いのか、こめかみに手を添えたテレサちゃんは信じられないものを見るような目で俺をみつめ、衝撃の事実を言った。


「これ、マナを養分にする珍しい種類の樹木の種子よ。常人なら即死するレベルのマナを溜め込んでるわ」


 俺、わりとギリギリを生きてたようです。

 戦慄するテレサちゃんとは対照的に俺はそこまでショックを受けていない。いや、食っても死ななかったし大丈夫なんじゃないかな?


「……まさか、あんた……! この山の植物食べてたんじゃ……⁉」

「うん。毒見はオスカーがしてくれたから安心して食えたよ」

「きゅい⁉」


 利用してたの⁉ みたいな感じに驚くオスカー。むしろ気付いてなかったのかって俺もびっくりしたよ。


「あのね……。まじないリスは魔物の一種で私たち人間と食べれるものが違うのよ。あなた、よく生きてたわね」


 ……それマジ?

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