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番のアナタ  作者: 木崎うらら
本編
6/26

6

 「元の世界に、帰れる……」


 ルーカスに痛いほど抱きしめられているのも気にならないくらい驚いた。


 「昔こっちの世界に来た異界の者が、『こんな拉致同然で連れて来られた挙句、番だからって初対面の奴といきなり結婚なんて納得できるか!』って怒ってな。 どうにか元の世界に戻れないか研究して、一度だけなら戻れる魔法具を開発したんだ」

 「凄い……」

 「そん時の相手の番持ちが魔法具研究所で働いてる奴だったらしくてな。 愛しい番の願いだからと、一生をかけての開発になったみたいだぞ」

 「それで、その人は帰ったんですか?」

 「いいや。 一生を費やして開発したんだ。 つまりそれだけ二人は一緒にいたって事だ。 そんだけあれば相手だって絆されてる。 だからその魔法具は次に来る異界の者たちのために使ってほしいと、それからこの国で異界の者が発見されればその魔法具を使う権利が与えられるようになった」

 「それを使って帰った人はいるんですか? 」

 「ーーいる。 けどな、それはみんな帰るためじゃなく、ケジメをつけるためだ」

 「……ケジメ」

 「開発された魔法具は異界に帰るためだけの一方通行の物ではない。 こちらの世界にも戻れる、往復の魔法具だ」

 「それは……」

 「親や兄弟、友達たちとの別れ。 故郷との別れをするために戻り、それが済めばみんなこちらの世界に戻って番と結婚したよ。 だからな、そんなに死にそうな顔しなくても大丈夫だ、ルーカス」


 その言葉にハッとして僅かに顔を上げると、そこには真っ青な顔をしたルーカスがいた。

 これは確かに死にそうな顔だ。


 「すみません、ヤヨイが私の前からいなくなってしまうと考えただけで……」

 「番持ちにとっちゃ身を切られる思いだな。 ……で、ここでお嬢さんに相談だ」

 「は、はい」

 「元の世界に帰る魔法具は渡す。 それを使うのも止めはしない。 だが使うのはまだ少し待ってくれねえか」

 「え……?」

 「お嬢さんにとっちゃ今日初めて会った男のためにこちらの世界に残る選択肢は極めて低いだろう。 だがそれじゃ番持ちがあまりにも憐れだ。 番持ちは番以外と添い遂げる事は出来ないからな。もしお嬢さんが元の世界に帰る選択をすれば、即ちそれはやっと出会えた番と離され、ルーカスに一生独りで過ごせと言っているのと同じだ」


 ここでやっとルーカスが死にそうな顔をしている理由に気づいた弥生の背筋が伸びた。


 「三ヶ月。せめてそれぐらいはルーカスにもチャンスをやってくれ。三ヶ月後に魔法具を渡す。それまでに元の世界に帰るかどうか決めてほしい」


 もう戻れないと諦めていた、元の世界に戻れるという事実は弥生を混乱させた。


 「魔法具は渡すが、だかそれは帰る目的じゃなくケジメをつけるための一時帰郷のために使ってほしいね。 だからお前はせいぜい番が元の世界に帰らないように全力で口説け」

 「言われなくとも分かっています」


 少し顔色の戻ったルーカスがキリッと何かを決意する様子を見て弥生は慌てて口を挟んだ。


 「あ、あの、でも仕事が三ヶ月も無断欠勤になるのはちょっと……」


 帰る帰らないは置いとくとして、社会人としてそれはマズいと思う。

 というか三ヶ月も行方不明になって戻ったら捜索願とか出されてて大変な事になってるのでは。


 「ああ、言い忘れてた。 こっちでどれだけ過ごそうと、元の世界に帰るのはこっちの世界に来た時間に戻る」

 「こっちに来た時間? 」

 「つまり、お嬢さんが消えた瞬間に戻るって事だ。 あー……聞き忘れてたが、お嬢さんはこっちに来る時に死にそうな目に遭ってないか?」

 「死にそうな目? 」

 「過去の異界の者にいたんだよ。 こっちに来る直前『くるま』ってのに轢かれそうになって目を瞑って開けたらこっちの世界にいたって奴が」

 「いえ、私は、別に……」

 「なら良かった。そういう奴は元の世界に戻った瞬間『くるま』に轢かれるだろうから戻れないって言って戻らなかった者も中にはいたんだ」

 「そんな事が……」

 「お嬢さんがそうじゃないなら良かった。 でもそうなると……お嬢さん、アンタはこっちに来る直前、何か大事な選択をしようとしていなかったか?」


 ドクンと弥生の心臓が大きく鳴った。


 「過去の異界の者たちの話を聞く限り、こちらに来るきっかけにある一定の法則がある事が分かったんだ」

 「な、なんですか? それは」

 「パターンは二つ。 事故などで死にそうな目に遭った時か、大事な選択をしようとした時。 まぁ早い話、パターンは二つだが理由はたった一つだな。 事故やその選択次第でその異界の者がこちらの番持ちと結ばれる可能性が無くなる時だ」

 「……」

 「それで、お嬢さんはどんな選択をしようとしていたんだ?」

 「そ、れは……」


 言いたくない。 弥生をただ一人の番と求めてくれるルーカスの前では言いたくなかった。


 口篭ってしまう弥生に、ルーカスは心配そうな目を向けると弥生を一層強く抱き寄せてギディオンを睨んだ。


 「隊長、それぐらいにしてください。 きっと一生を左右する大事な選択だったのでしょう。 それをそんなに気軽に話せるわけないでしょう」

 「あのなあ、俺はお前を思って……。 まあいい。 ならこれで話は終いだ。 他の細かい事はルーカスに聞け」

 「あ、はい。 ありがとうございました」


 弥生が軽く頭を下げると、また弥生はルーカスに抱き上げられそのまま部屋を出た。


 「ヤヨイ、 今から私の家に向かいます。 これから三ヶ月、貴方にはそこで暮らしてもらいます」

 「えっ、ルーカスの家に?」

 「はい。 私はこれから三ヶ月の間で貴方がこちらの世界を選んでもらえるように全力で口説かなければなりませんから。 一秒たりとも無駄には出来ません」

 「は、はぁ」

 「それに今日から三日は休みをもらいましたが、その後はまた仕事に行かなければなりません。 私が仕事に行っている間、ヤヨイが他の(おとこ)に会う事は許容出来ませんので、ご不便をおかけしますが家の中で過ごしてもらう事になります」

 「え……」

 

 今さらっと監禁発言出ましたけど。


 「すみません、番持ちは番に異性が近づくのを極端に嫌がります。 特に番が見つかり、その番にマーキング出来ていない状態で他の異性に会ったとなると……その相手を殺してしまうかもしれない」


 今度は殺人予告か。

 っていうかマーキングって? エロイベントの予感しかしないので突っ込まない。


 「なので遅くなってしまいますが、外に出る時は私が仕事から帰って来てからか休みの日にお願いします」

 「あれ? 外に出てもいいんですか?」

 「本当は嫌ですが、束縛は程々にしないと嫌われるので、なるべく番の意思を尊重しなければならないと言うのが番持ちの先人たちの言葉です」

 「それは……助かります」


 予想通り、番持ちの独占欲って凄そうだな。

 下手に刺激すると大変な目に遭いそうだ。


 そんな話をしていたら気がつけば城の外に出ていた。

 ここでもまた弥生は凄い数の視線を感じた。

 まだ布で包まれてる状態なので足元だけしか見えないが、それでも人通りが多い街の中だと言うのが分かる。


 (この人たち全員こっち見てるとか言わないよね? )


 それぐらい居心地が悪かった。

 弥生がなんとかそれに耐えていると、ほどなくルーカスの家に着いた。


 「ここが私の家です」

 

 こじんまりとした小さな庭がついている一軒家だった。


 「あの、ちなみにご家族の方は一緒に住まわれてるんですか?」

 「いえ、ここには私だけです」


 男の一人暮らしの家に転がり込むって、今更ながらに危険なんじゃないかと思えてきた。


 「散らかっててお恥ずかしいのですが」


 弥生が遅すぎる危機感を抱いている間に呆気なくルーカスの家に入ってしまった。


 




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