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番のアナタ  作者: 木崎うらら
本編
3/26

3

 弥生の両親は弥生が高校入学した頃に事故で亡くなった。

 その後は唯一の親戚であるベンチャー企業社長の叔父に大学までは出してやるから俺の生活には入ってくるなと言われ、そこから一人暮らしをするようになった。

 学費と家賃は叔父に頼ったが、生活費まで面倒を見られるのが嫌で学生時代はバイトに明け暮れた日々を送ったし、でも勉強が疎かになって叔父に迷惑をかけるのも嫌で勉強だって頑張った。

 高校時代はバイトと勉強ばかりでろくに遊ぶ事をしなかったが、大学では少しはっちゃけた時期も過ごした。


 そんな弥生も普通に就職し、彼氏が出来てついにプロポーズされた。

 早い時期に両親を亡くした弥生は温かい家族を築くのが夢だった。その夢がいよいよ現実になる。そう喜ぶはずだったのに。


 でも。


 何かが違う。この人じゃない。


 今すぐ承諾しろと言う脳と、今すぐ断れと言う心。

 自分の中で相反する答えに固まった弥生は光に包まれて気がつけばあの森にいた。


 そして今現在、弥生を迎えに来たと言うルーカスに抱かれて竜の背中に乗っている。

 突如思い出した祖母の言葉と妙に安心するルーカスの腕の中で、この男が自分の運命だと確信した弥生はただひたすらにルーカスを見つめていた。


 「……そんなに見つめられると手元が狂いそうだ」


 少しだけ顔を赤くして弥生を見つめ返してくるルーカスにハッとして慌てて身体を離そうとするが、逆にさらに強く抱き込まれ身動きが取れなくなってしまった。


 「駄目です。 離れないで」

 「ごめんなさい、こんな至近距離で見てたら不快ですよね」

 「いえ。全く」


 なるべく視線を逸らして謝る弥生に、ルーカスは即答した。


 「貴女にならいくら見られても構わない。 むしろ私以外見ないでほしい」

 「は、はぁ」


 なんだろう。 さっきからちょいちょい不穏な台詞が多いイケメンだ。


 見ていいと許可が出たので改めてルーカスに視線を戻すが、竜の操縦のため前を向くルーカスの横顔はそれは美しかった。

 陽の光が反射しキラキラと輝き風にたなびく銀色の髪、切れ長の緑の瞳。一見細身の身体だが抱き抱えられている今、その身体はちゃんと鍛えられたものであると分かる。

 前を見据える横顔に先ほどまで弥生に向けていた笑顔はなく真面目な顔をしていて、笑顔のなくなったルーカスはクールビューティーと言う名がピッタリなイケメンだった。


 だが次の瞬間、ちらりと弥生を見て思わずといった風に微笑んだその表情に、弥生の心臓がドクンッと音を立てた。


 (え……、あれ? 嘘でしょ)


 ルーカスが自分の運命だと認識した弥生だったが、その運命とは自分にとってどういった立場の相手かまでは深く考えていなかった。

 だが今この瞬間、それは運命の相手。つまり運命の伴侶の事かもしれないと思い至った。


 ドクドクとうるさい心臓を押さえて信じられない気持ちで咄嗟に横を向いた。


 (何これ。 心臓がドキドキする)


 まさかこれが恋。自分は今、恋に落ちてしまったのだろうか。

 いやいやいや、自分には和樹という彼氏がいるじゃないか。しかもさっきはプロポーズまでされて受ける気まんまんだったし。


 でも今までの彼氏たちにこんな気持ちを抱いた事はなかったし、こんなにドキドキした事はなかった。

 もしかしてこれが恋だと言うなら、自分が今まで彼氏に抱いていた感情は恋ではなかったもしれない。


 (じゃあ私って好きでもない相手と付き合って、挙句結婚までしようとしてたって事? )


 最低だ。最低だよ自分。

 今すぐ歴代の彼氏たちにスライディング土下座で謝り倒したい気持ちになったが、きっとそれは無理だろう。


 弥生は竜の背中から、高い建物など全く見られない自然溢れる景色を見下ろしながらそう考える。


 「どうかしましたか」


 ルーカスを見つめて自分の運命だ、恋に落ちただと忙しなく感情が揺れていた弥生だったが、急に静かになった気配を察してルーカスが心配そうに弥生の顔を覗き込んできた。


 「あ……いえ、私は……家に帰る事が出来るでしょうか」


 いろいろな意味を含ませて弥生は思いきって聞いてみた。


 するとルーカスはとても真剣な目で弥生を見つめ、非情な現実を突きつけた。


 「ヤヨイ。 もう察しているかもしれませんが、ここは貴女がいた世界ではありません」


 

メリークリスマス!


本日も20時に2回目の更新をしますので宜しくお願い致します。

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