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「ルーカスのお相手がこの様に可愛らしい方だったなんて」
「全く。 その無表情でどうやって相手を口説くのかと心配しておったが杞憂だったようだな」
「きっと恋人の前でだけ見せる顔があるのよ」
「ほお。 それは是非とも見てみたいもんだな」
弥生の前で和やかに話されているのはこの国のトップ、国王陛下に王妃様である。
そしてその周りを囲むのは王太子殿下とそのお妃様たちだ。
「それくらいにしてやってはどうですか。 父上、母上」
「そうですよ、ルーカスの眉間の皺がこれ以上深くなっては取り返しのつかない事になります」
「あら、皺なんてどこにもないじゃない。むしろ皺の一つでもあればもう少し親しみのある顔になるのではないかしら?」
「母上……」
二人兄弟である王太子殿下の弟殿下のご学友だったルーカスは、実は王家の方たちとそれなりに仲がいいらしい。
今回ルーカスの番が異界の者だったという報告も、異界の者の恩恵を期待するよりもルーカスの嫁が見つかったという方が喜ばれたようだ。
相手が誰であろうと無表情なルーカスに最初は誰これ?と驚いた弥生だったが、むしろこの顔が通常運転なのだと知った弥生はダブルで驚いた。 いやアナタ、家と違いすぎるじゃない……。
「どうしました、弥生?」
ぼんやりとみんなのやり取りを見ていた弥生はルーカスに声をかけられ我に返った。 慌てて隣を見ると、弥生にとっては馴染みのデロデロに甘い笑顔のルーカスがこちらを見ていた。
が、その瞬間周りの時が止まった。
「まぁ! まぁ! まぁ!」
手を口に当て、頬を赤く染めて声を上げた王妃様の反応でみんなの時が動き出した。
「ちょっと待て! お前、そんな顔が出来たのか!? 」
ずっと澄ました態度だった弟殿下の態度が一変した。ご学友だったわけだし、友人の新たな面を知って驚き度が一番高いようだ。
「番持ちは番にだけ態度が格段に甘くなるとは聞いていたが、本当だったんだな」
「ルーカスの表情を動かせるなんて、さすが番だね」
陛下と兄殿下が弥生を感心した顔で見てくるが、弥生にとってはいつも通りのルーカスなので何も珍しくはない。
弥生は二人の発言に微笑みで返していると、急にその視界が塞がれた。
「……ルーカス」
「すみません。 ヤヨイの笑顔が他の男に向けられるのが許せなくて」
(他の男って、相手は陛下と殿下だよ!)
そう叫びたいのをグッと抑えて弥生の目を塞ぐルーカスの手を外そうとしたが、気がつけば恋人繋ぎになっていた。 何故だ。
「あんなルーカスは初めて見た……」
「ふふふ。 仲が良いのね 」
「人とは変われば変わるものだな」
ひとしきりルーカスの変貌ぶりについて盛り上がるとそろそろお開きの時間となった。
ルーカスにばかり話題が集まり、あまり弥生自身について話さなかった事に驚いた。異世界についてもっと聞かれると思ったからだ。
「まだヤヨイはこちらの世界に来たばかりですから。 あまり故郷の話をして望郷の念に駆られても困ります」
原因はこいつか……!
ルーカスの真っ黒い内情を聞かなかった事にして、城に来たついでだからとギディオンにも挨拶をするため騎竜隊にも顔を出した。
前回は全身を隠していたから顔を合わせるのは初めてとなるギディオンとの対面に、二人して笑いながら挨拶を交わした。
「声だけ聞いたら聡明なお嬢さんって印象だったが、なかなかどうして可愛らしいお嬢さんじゃないか」
「あの、私もうお嬢さんって年じゃ……ぶふぅ」
「隊長、私の番を口説くのは止めてください」
話の途中で抱きしめるのはやめて欲しい。
「はははっ。 悪かった。 にしても、番を前にしたらお前もただの男だな」
「悪いですか?」
「いや。 人間らしくなったなと思ってな」
そうしてルーカスの肩を叩きながら弥生をチラリと見て「こいつの事、宜しく頼むな」と言って送り出してくれた。
「……なんか、」
「どうしました? 」
再び馬車に乗り込み優しく微笑む隣のイケメンを眺めながら、弥生はポツリと呟いた。
「ルーカスって愛されてるなって思って」
何気なく思った事を呟いただけであったが、ルーカスはそうは受け取らなかったようだ。
「ヤヨイは私の愛だけでは足りないのでしょうか。 それとも私の愛が伝わっていないのでしょうか。 これはいけません。 戻ったらすぐにでも私の愛を骨の髄まで知らしめなければ」
「怖い! それなんか怖い! 」
フレッカー家に戻ったらすぐにでも部屋に引っ張りこもうとするルーカスを義父とマーガレットが黒い笑顔で止めてくれた。
ワイワイと騒がしいその様子に、弥生は両親が生きていた頃のような家族の賑わいを感じて嬉しくなった。
ずっと寂しかった。
恋人が出来ても、友達がいても、自分は独りだと思う事が多かった。
どうしたらこの寂しさが埋まるのだろうと思っていたけど、これだった。
ルーカスだけが弥生の寂しさを埋めてくれる存在だった。
(私、こっちに来て良かった)
もう戻れない故郷が懐かしく思う事もあるだろう。それでも後悔だけはしないと断言出来る。
ルーカスの隣が自分の居場所だ。
「ヤヨイ、今夜は私もこちらに泊まっていきますから姉妹仲良く一緒に寝ましょうか」
「姉上、それだけはおやめください」
「マーガレットだけ義娘と仲が良くて羨ましいな。 なら私とは二人っきりでお茶でもどうだい?」
「父上もやめてください! 母上に言いつけますよ」
「どちらの提案も楽しそうですね」
「ヤヨイ!? 」
顔面蒼白になるルーカスの腕に触れ、優しく撫でながら弥生は大丈夫、と呟いた。
「このあとはルーカスのための時間なので、また次の機会にお願いします」
弥生に断られたにも関わらず、義父とマーガレットはとても優しい笑顔を浮かべ、
「なら仕方ない。 また次の機会がくるのを楽しみにしてるよ」
「その時はお母様も一緒よ」
そう言ってそれぞれの部屋に戻って行った二人を見送り、その場に残ったのはルーカスと弥生の二人だけ。
「すみません。 騒がしくて」
「全然。 こういう家族のやり取りって久しぶりだから見てるだけで楽しいよ。
「何言ってるんですか。 ヤヨイも家族なんですから嫌なら嫌と、はっきり断っていいんですよ」
「家族……」
「ヤヨイ?」
いつかはルーカスと家族になるだろうとは思ってたけど、既に家族認定をされていたとは。その事が弥生にはたまらなく嬉しかった。
「………ろうね」
「? なんです? 」
小さすぎて聞き取れなかったその呟きを、ルーカスは背を屈めて聞き返した。
「私、ルーカスと出会えただけでも幸せ。でもこれからはもっともっと幸せになろう。 二人で一緒に」
「ヤヨイ……」
「ルーカスとなら、私もっと幸せになれるから」
「勿論です。 私の幸せはヤヨイと共にあります。 ヤヨイがいなければ私はもう生きてはいけない」
痛いほど抱きしめられ、ルーカスの肩越しに見た窓の外には青い空が広がっていた。
違う世界であっても同じ色をした空を見て、弥生は何故だか両親が近くにいるような感覚を覚えた。
ーー弥生は幸せになれるよ。
どこからか祖母の声が聞こえた気がした。
(うん。 私、幸せだよ)
弥生はこの世界で、この場所で、ルーカスの傍で生きていくのだ。
これで本編完結です!
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。゜(゜^ω^゜)゜。
このあとはネタが思いついたら番外編を更新していきたいと思います。




