24
ルーカスと再会し想いを確かめ合った二人は爛れた生活を送っていた。
朝から晩までイチャイチャと、時間も場所も関係なくルーカスは弥生を愛しまくった。
ルーカスが仕事に行った時間だけが寝る事を許されているような生活だった。
「ヤヨイにも随分私の匂いが移りましたね」
「そりゃこれだけ毎日してればね」
「そろそろ……大丈夫な気がします」
「……何が? 」
どうやらマーキングとやらが上手くいったようなので、そろそろ陛下や他の人たちにも挨拶をしに行かなければならないらしい。
「おおお王様!? 」
「はい。 陛下はとても穏やかな方です。 ヤヨイと会うのをとても楽しみにされているようですよ」
国のトップと会うなんて、地球では考えられない事態だ。
「謁見の間で堅苦しい対面ではなく、私的な空間でお茶を飲みながら話をされたいようです。 だからそんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
そういう問題じゃない。確かにお茶でも飲みながらお喋りしましょうと言われた方が気は楽だが、会う相手が気楽に会える相手ではないのが問題だ。
「私、マナーとか何も知らない……」
いくら異世界人でこちらの常識を知らないと思われていたとしても、やはり失礼な事はしたくないし、何よりルーカスに恥をかかせたくない。
「そんなに気にする必要はないですが……ヤヨイが知りたいのなら姉に頼んでマナーを教えてもらいましょうか」
「ぜひ!」
こちらに戻って来てからマーキングが完成するまで、ルーカス以外と会う事もなく家に閉じ込もっていた弥生にマーガレットのマナー講座はいい気分転換になった。マーガレットが教えに来てくれる間は概ね健全な生活が送れたのもありがたかった。
◇◇◇
「とても綺麗よ、ヤヨイ」
「……ありがとうございます」
息をするのも苦しい。 弥生は初めての身につけたコルセットと言う名の拷問着に、浅い呼吸を繰り返していた。
「貴族の女性って大変なんですね。 こんな苦しい思いをして着飾らなきゃならないなんて」
「こればかりは慣れるしかないでしょうね。 さ、そろそろルーカスが待ちきれなくて入ってくる頃ね」
そこでドアがトントンとノックされ「ヤヨイ、準備は出来ましたか?」と声がかけられ、弥生は流石だと思った。
「支度は出来たでしょうか……ああ、ヤヨイ! なんて綺麗なんだ!」
そう言って着飾った弥生を気遣い、いつもより優しく抱きしめてくれるルーカスだったが、騎士の正装に着替えたルーカスは朝から磨き倒して飾り立てた弥生よりも綺麗だと思った。
(霞む……。 あれだけ手をかけて綺麗にしてもらったのにルーカスの隣じゃ霞む)
これが素材の差かと落ち込む弥生だったが、弥生は弥生でこの国では見かけない顔立ちや黒髪が目を引くし、美人が多いアスディード国に比べ可愛い顔の弥生はとても可憐で、みんなの庇護欲を誘い無条件に可愛がられる事になるのだが、今の弥生には到底予想出来ない未来だった。
「こんな綺麗な弥生を他の男に見せたくはありません。 弥生、このまま一生私の腕の中にいてくれませんか?」
「馬鹿弟の手が届かない場所にヤヨイを逃がしてさしあげようかしら?」
「さ、弥生。 行きましょう」
「……二人とも仲良いね」
いつもの姉弟のやり取りに少しだけ肩の力が抜けた弥生は、差し出された手を取り覚悟を決めて部屋を出た。
馬車に乗り込み見送りをしてくれるメイドや執事たちを眺めながら、弥生はルーカスの実家であるフレッカー家に到着した今朝の事を思い返した。
……なんというかまぁ、大歓迎だった。
城に上がるための支度をフレッカー家でやる事になった弥生。ついでに初対面の挨拶もしたのだが泣いて喜ばれた。息子に嫁が来るくらいでそんな……と思う弥生であったが、ルーカスをそのまま年取らせたような見た目の義父に、番持ちが相手を見つけるのはそれくらい幸運な事なんだと言われた。
義父だけでなく屋敷の古参のメイドたちも我が事のように喜んでくれたし、療養中でここにはいない義母も大喜びで既に赤ちゃん用の産着を何着か縫い上げたらしい。気が早すぎる。
そんな歓迎ムードの中、いきなり何人ものメイドに囲まれ支度を手伝われ弥生は恐縮しきりだった。
そんな弥生の性格を分かっていたルーカスによってマーガレットが呼び出され、メイドに混じって一緒に支度を手伝ってくれた事には感謝しかない。
さっきまでの様子に思いを馳せていた弥生だったが、そろそろ無視出来ないくらいの熱視線が隣から向けられているのに触れる事にした。
「……そんなに見ないでよ」
いくら綺麗にしてもらったとはいえ、美しさの勝負で言えばルーカスには完全に負けているのだ。 むしろ弥生がルーカスをガン見したい。 正装のルーカスはむちゃくちゃ格好良かった。 でも今ルーカスを見ると見つめ合う事になるからやらない。
「ヤヨイが目の前にいるのに見ないのはありえません」
……ありえないのか。
「このままここで押し倒してしまいたい気持ちを抑えるのが限界を迎えそうです」
「城はまだかなー!」
弥生がわざとらしく話題を変えると、馬車は王城の門を潜るところだった。




