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弥生はこれほど疲労を感じた事は今までなかった。
(ダルい……)
でも疲れているのに妙に目が冴えている。
隣で眠る綺麗すぎる寝顔を見つめながら、弥生はここ数時間の急展開に思いを馳せた。
エルと別れ二人はルーカスの家に戻って来た。途中タロウを王城に帰さないといけないのにルーカスは城の前でタロウから飛び降りそのまま弥生を抱えて家に帰って来てしまった。
ルーカスが言うにはタロウは頭が良いからそのまま竜舎へ戻るらしいが、これまたタロウにもちゃんとお礼が言えなかったと残念に思う。
そして転がるように家に帰った二人はそのまま寝室へ直行。まぁ無事に結ばれたのである。
重たい身体を寝返らせ、寝ているルーカスと向き合う。
(好きだなぁ……)
弥生は今までにない安らぎと、感じた事のないときめきを感じていた。
(こんな格好いい人の相手が私で本当にいいのかな)
そっとルーカスの頬に手を当てぼんやりと考えていると、ルーカスの瞼が微かに震えた。
「……ヤヨイ? 」
「ごめんね、起こしちゃった」
「いえ……眠れないのですか?」
寝起きの掠れ声に気怠げな姿が壮絶に色っぽい。 弥生が女としての自信を失うくらい色っぽい。
「なんか、幸せだなって」
「私もです」
国どころか世界が違う相手と出会って恋に落ちる。
そんなお話の中のような出来事が自分に起こるとは。つい数ヶ月前の自分なら絶対信じなかっただろう。
本当に人生とは何があるか分からないなと、ルーカスに優しく髪を梳かれ気持ち良さげに目を閉じて考える弥生。
「……あの、」
そこをためらいがちに声をかけられパチリと目を開ける。
「ん? なに? 」
「その、昨日は貴女に会えた嬉しさでヤヨイの意思も確認せずに抱いてしまいました。 こちらの世界に戻って来てくれたということは私を選んでくれたのでしょうけど、その……」
これはきっとあれだ。 再会で盛り上がってろくに会話もないまま寝室に直行してしまったから冷静になった今、こっちは本気だけど相手は実は遊びだったらどうしようっていう心配をしてやしないか。
ちゃんと口に出してくれないと不安って、どこの女子だ。
そういえば何でも卒無くこなすルーカスも今までお付き合いした女性はいなかったんだよなぁ。そりゃ不安にもなるか。
弥生はもう一度ルーカスの頬に手を当てると「好き」と呟いた。
「私、ルーカスが好き。 何もかも失くしてもルーカスと一緒にいたい。 そのために戻って来たの。 だからこれからずっとルーカスの傍にいさせて」
「ヤヨイ……」
「って言ってもこっちの世界じゃ私って何にも出来ない役立たずだと思うけど……」
「そんな事ありません。 ヤヨイと一緒に暮らしていた時、朝一番に貴女の顔を見られる幸せ。 貴女の料理を食べられる幸せ。 一日の終わりに貴女の頬に口づけられる幸せ。 どれも私にとってはかけがえのないものでした。 そんな日々をまた送れると思うと嬉しくてなりません」
そこでルーカスは弥生を抱き寄せ、そのおでこにキスを落とした。
「ヤヨイ。 私の番。 貴女があちらの世界に置いてきたものと同じものを与える事は出来ませんが、こちらの世界でも大切だと思えるものを一緒に作っていきましょう」
瞬間、弥生の目から涙がこぼれた。
「ヤヨイ?」
「ごめ、泣くつもりじゃ……、違うの。 悲しいんじゃなくて嬉しいの。 私、ルーカスに出会えて良かった。 ルーカスの番で良かった」
泣いてぐしゃぐしゃになった顔を見られたくなくてルーカスの胸に額を擦りつけた。
そんな弥生の頭を優しく撫で、その頭にルーカスは何度もキスを降らせる。
「私もです。 ヤヨイが私の番で良かった。 貴女だけが私を満たしてくれる」
そこでルーカスは弥生の顔を両手で包み、顔を上げさせ目を合わせた。
「愛してます。 これから先、何があろうと貴女を一人にはしません。 もしまたヤヨイが元の世界に行く事があれば今度は私もついて行きます」
ルーカスの言葉に弥生は黙って頷いた。
「死が二人を別つまで。 いえ、例え死んだとしても私の魂はヤヨイと共にあります。 もう私は決して貴女を放しません」
死んでも放さん。 という決意がヒシヒシと伝わってきた。 弥生はそれを怖いとは思わず、むしろルーカスらしい発言に笑ってしまった。
「うん。 放さないで。 もう私の帰る場所はここしかないから」
今さら手放されても困る。弥生の帰る場所はルーカスの腕の中なのだから。
誓のキスを交わすように、二人は唇を寄せ合うのだった。




