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番のアナタ  作者: 木崎うらら
本編
20/26

20(ルーカス視点)

 私が駆け込んで聞いた魔法具研究所所長の話では、魔法陣は確かに私の家を帰還場所にしたとの事だ。

 そして魔法具は確かに発動され、ヤヨイはこちらの世界に戻って来ていると言うのだ。


 「そんなはずありません! 私の家に彼女はいなかった」

 「おっかしいな~。 あれ結構自信あったんだけど」

 「自信のあるなしは関係ないでしょう、 彼女は今どこにいるんですかっ

 「ん~、この世界にいるのは間違いないはずなんだけど」


 この世界のどこかにヤヨイがいる。こちらの世界に戻って来てくれた喜びに湧いたのは一瞬の事だった。今この瞬間にもヤヨイが危ない目にあってるかもしれないと思うと気が気ではなかった。

 

 「あ~、これは君の番に聞いてからと思ってたんだけど……」


 どうやらヤヨイに渡した魔法具に音声を記録する機能を付けていたようで、それを聞けば魔法具が使われた時の事が分かるかもしれないと言われた。平時であれば何て事をしているのかと怒っていただろう。


 「闇雲に探し回るより手掛かりがあるかもしれないだろ。 ただ勝手に君の番の私生活を聞く事になるから本人の同意を得てから聞きたかったんだけど……緊急事態だから、いいよね? 」


 いっそ清々しいほどの笑顔で聞いてくる所長の顔を殴ってやりたい。

 渋々了承する私に「では早速聞いてみよう!」と机の引き出しから何やら道具を出す様子に、いつでも聞く準備が出来ていたと悟り余計に怒りが湧いた。

 だがそれらの感情をなんとか押し隠し、黙って準備が進められていくのを見ていた。


 「さ、あとは君の魔力をここに通して。 これで君の番が持っていた魔法具と繋がるよ」

 

 言われた通りに私は渡された魔法具を握り魔力を込めた。既に使われ今は粉々になっているであろう魔法具と繋がるとはどういう事か。仕組みは分からないがそんな事はどうでも良かった。


 「おお! これで繋がった! よし。じゃあ聞いてみよう」


 箱の様な形をした魔法具が淡く光り出した。


 ザザザ ザザ ザ……


 衣擦れの音を大きくしたような音が聞こえてきたと思ったら、微かにヤヨイの声が聞こえた気がした。もう少し耳を澄ましていると……


 『ちょっと! 』


 突如はっきりと聞こえたヤヨイの声に、私は顔を上げた。


 「これ番さんの声? 」


 ヤヨイの可愛い声を他の男に聞かせるのは嫌だったが仕方がない。 私は「はい」と返事を返そうとしたところでとんでもない台詞が聞こえてきた。


 『好きだ。 愛してるんだよ。 俺には弥生だけだ! 頼む、俺とやり直してくれ!』

 『やめて、無理よ。 私はもう和樹とは付き合えない 』


 ガツンと頭を殴られたような気がした。


 「あらら~。 いきなり修羅場? 」


 隣から聞こえる声すらどこか遠い。

 ヤヨイが予定より早く帰りたがった理由。 私には言えないと言っていたその理由は、元の世界に好きな男がいたからなのか?

 そもそもヤヨイがこちらの世界に来る切欠となった人生の選択とは、この男との未来を考えていたからなのか?


 心臓が嫌な音を立てている。

 耳鳴りすらしてきた中、魔法具からはなおも会話が続いていく。


『こんな事言っても頭おかしくなったんじゃないかって思われるのは分かってる。 でも私、和樹にプロポーズされた瞬間に異世界に行ったの。 そこでルーカスに会ったの!』

 

 私の名前が出た事で我に返った。


 『本当なの。 だから、これから異世界に……ルーカスの所に戻らなきゃ』

 『そこでルーカスを好きになったの!』

 『私ね、どっちを選んだってきっとまた迷う。選ばなかった世界を、相手を想って泣くと思う。でもね、どうせ泣くなら……ルーカスの傍で泣きたい』


 涙が出そうだった。


 ヤヨイが話していた相手の言葉は、常に私の心にも燻っていた想いと同じだった。

 ヤヨイに今までの生活を捨てさせて違う世界で生きる事を望むのは、なんて勝手な願いだろうと。それでも捨てなくていいとは言えない自分のなんて浅ましい事かと。

 

 そんな自分の傍にいたいと言ってくれたヤヨイに、私は何が返せるだろう。

 愛してるだけではヤヨイへの想いは到底伝えられそうにない。

 

 『ごめん、もう行くね』


 ここで魔法具を使ったのだろう。音がそこで途切れた。


 「やっぱり番さんはこっちの世界に来てるね。使用した時の音声に変なとこはなかったし、原因は別にあるのかな。ん~、じゃあ君は?」


 ヤヨイの言葉に胸がいっぱいになり、聞かれた内容が分からず私は眉を寄せた。


 「魔法具は三日前の昼過ぎぐらいに使われたみたいなんだけど、その時間君は何してた? 何か異変はなかった? 」

 「三日前の昼過ぎでしたら、魔獣討伐に出ていました」

 「あ~、あれか。」

 「はい。 その討伐は何事もな……く、」


 話している途中で重大な事実に気づいて目を見開いた。


 「なに? どうしたの?」

 「ありました」


 そうだ。何故気づかなかったんだ。


 「一度魔獣の攻撃を受けそうになりました。 その時にヤヨイから預かっていた指輪が光りました」

 「指輪が光った? 」


 私は首から下げていた指輪を外すと手の平に乗せた。


 「これです」

 「ん~、特に変わったところは無いように見えるけど……触っても?」

 「はい」


 私から指輪を受け取った所長は指輪を様々な角度から見たり、光に透かしてみたりしていた。


 「やっぱり普通の指輪に見えるなぁ……あ」

 「なんです?」

 「少しだけ、本当に少しだけ魔力の残滓が残ってる」


 そう言われて指輪を凝視するが、私には何も感じられなかった。


 「これ分かるのうちでもほとんどいないだろうから君が分からないのは無理ないよ。 うぅん、もしかして君が魔獣の攻撃受けそうになった時、番さんを呼んだり強く想ったりしなかった?」

 「……しました」

 「多分それが原因かなぁ。 番さんがこっちの世界に来る時に君が呼んだ。それが帰還の魔法陣より強く反応しちゃって予定地点と違う場所に出ちゃったのかも」

 「ではヤヨイが今どこにいるのか分からないのは、私のせいですか」

 「まぁそうだね」


 そんな。私のせいでヤヨイが……。


 「でもこの魔力が君の番さんの魔力なら追えると思うよ」

 「本当ですか?」

 「ちょっと集中させて」


 そう言って所長が窓辺に立ち指輪を握りしめながら何かを唱えると、握りしめた手から虹色の煙のようなものが出てきてやがて小さな鳥の形になった。


 「この鳥が君を番さんの所に連れてってくれるよ」

 「ありがとうございます」


 虹色の小さな鳥を手の甲に乗せ、ギディオン隊長に報告をしてから私はヤヨイを迎えに城を発った。

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