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番のアナタ  作者: 木崎うらら
本編
19/26

19(ルーカス視点)

 「ダング? 」

 「ああ。 ここから西にエルフの里があるだろ? その近くにある森にダングが現れたらしい」

 「それで我々に命令が下りましたか」

 「ダングは奴を中心にとにかく大勢の魔獣を従える魔獣だから見つけたら素早い討伐が望ましい。 騎竜隊は一番機動力があるからな。 とにかく俺たちが魔獣討伐に行く」

 

 正直行きたくなかった。

 あの日ヤヨイが元の世界に戻ってからもうすぐ一ヶ月。 こちらに帰って来ると言っていた期限が迫ってきている。 そんな時に魔獣討伐など行きたくなかった。


 「お前さんが渋るのは分かるがなぁ……。 こればっかりは行かない訳にはいかないからな」

 「分かってはいるのですが……はぁ。 みんなに知らせて来ます」


 そうして騎竜隊は王都を発つのだった。だが騎竜隊のこの移動が、弥生の帰還に大きな影響を及ぼすとはルーカスにはまだ知る由もなかったーー。




◇◇◇




 「副隊長は無敵っすか……!」

 「すげぇ。 目で追うのすらやっとだよ!」


 後ろで部下達が何やら言っている声も聞こえず、私はひたすら魔獣を屠っていった。

 徒歩であれば五日ほどかかるこの場所にも竜を使えば数時間で来る事が出来た。少しでも早く魔獣討伐を終わらせ、出来るならば今日中に王都に戻りたい。


 「あー、今回アイツ本気だからな。 いつもみたいにお前らに実戦経験積ませてやろうって親心は全くないからな」

 「副隊長が本気って……俺たち出番あるんですかね」

 「この調子じゃほとんど無いだろうな。 楽でいいじゃねえか」

 

 ヤヨイが帰還する場所は私の家に指定してある。だから今こうしてる間にもヤヨイは私の家に帰って来てるかもしれない。 一応姉に連絡を入れておいたので私がいなくても困る事は無いと思うが、愛しい番を一番に出迎えるのは私でありたい。だからこんな魔獣共はすぐにでも塵に返してしまわねば。


 「な、なんか副隊長の顔がどんどん恐ろしい事に……」

 「綺麗な顔してる奴が凄むと迫力が違うな」

 「隊長、茶化してないで俺たちも魔獣討伐しましょうよ!」

 「お前、今迂闊に入ったら俺らも一緒に斬られるぞ」

 「だからってこんな副隊長の取りこぼした魔獣を斬ってるだけって情けなくないですか?」

 「俺は一向に構わん」

 「隊長!」


 そこで最後の一体を倒した私は周辺の探索を始めた。肝心のダングの姿がまだない。


 「うわああああっっ!! 」


 同じ様に探索を開始し、林の奥の方へ行った誰かの悲鳴が聞こえた。

 みんな一斉に剣を構えて駆けつけるとそこにはーー平均的な魔獣の倍はありそうな巨大な魔獣、ダングがいた。


 「でけぇな」

 「はい 」

 「あれはさすがにお前一人にはやらせられねぇぞ」

 「分かっています 」


 隊長はすぐさま人員を二つに分け、左右から攻撃を仕掛ける事にした。


 「手を休めるな!」

 「息する暇さえ与えるなよ!」


 左右から斬りかかりダングを追い詰めていく。

 ダングが弱ってきたのが誰の目から見ても明らかになってきた頃、追い詰められたダングの爪が私の隣にいた部下の肩を掠めた。


 「ぐあっ!」


 そのまま私の方へ倒れ込んできた部下を受け止めると、次にダングは私に狙いを定めたようだ。

 だが部下を受け止めた体勢のままの私は思うように動けず、今度は私の足にその爪が掠った。

 

 「ぐっ、」


 部下共々地面に倒れ込み、追い討ちをかけるようにダングの爪が再び振りかぶられた。

 振り下ろされる腕の動きがとてもゆっくりと見えながら、私は避ける事も出来ずにただその爪先を目で追っていた。

 その時の私の頭の中には目の前の魔獣の事も、殺されるかもしれない事も何も浮かばなかった。

 ただただ愛しい番のーーヤヨイの顔だけが思い浮かんだ。



 ヤヨイ…………!!


 

 心の中で名を呼んだ瞬間、私の胸元から強烈な光が飛び出した。


 「うおっ、なんだぁ?」


 隊長の声を聞きながら、瞬きの間に状況を把握した私は、突然の光に怯んでいるダングに斬りかかった。


 「グルァァァァァッッッ!! 」


 咆哮を上げダングが倒れる頃にやっと光が治まり、周りも目をかばっていた腕を外し、驚きに目を見張りながら倒れたダングを見ていた。


 「あれ? これ、副隊長がやったんですか? 」

 「っていうか今の光は……」


 辺りが騒めく中、私は首から下げていたヤヨイから預かった指輪を服の中から取り出し、見入っていた。


 「おいルーカス、一体今のは何だったんだ」

 「私にも分かりません。 ただダングにやられそうになった瞬間、ヤヨイの事を強く想ったんです。 そしたらヤヨイから預かったこの指輪が突然光り出して……」

 「番から預かった指輪? そんなのが何故? 」

 「分かりません。ただ私はヤヨイに助けられた。 それだけです」

 「まぁ今は詳しく理由を解明する時間は無いからな。 よしお前ら、倒した魔獣を集めろ! 一気に焼いちまうぞ! 」


 魔獣を倒したらすぐに焼いてしまわねばならない。 でなければ他の魔獣を呼び寄せるからだ。

 魔獣討伐から事後処理へと移り、私の意識もそちらに移った。 ただこの時の現象をもっとよく考えれば良かったと、二日この場所に滞在し様子を見てから帰った私は死ぬほど後悔する事になるとはこの時の私にはまだ分からなかった。




◇◇◇




 「魔法具が使われた!? 」


 魔獣討伐を終えた城に戻り、今回の出来事を書類にまとめていたところ、私に報告があると魔法具研究所の男がやって来た。

 話を聞くと、どうやらヤヨイに渡した帰還の魔法具が使われたと言うのだ。

 

 「本当なのか!? 」

 「はい……あの、何故そんなに驚いているのでしょう?」


 帰還先は私の家にしてある。 そして魔法具が使われたならば当然ヤヨイは私と再会しているはず。 そう信じて疑わない目の前の男が不思議そうに聞き返してくるのが腹立たしかった。


 「……私は彼女と再会などしていない」


 魔獣討伐から帰宅した昨夜、玄関を開け誰もいない部屋に酷く落胆したのは記憶に新しい。

 

 「どういう事だ! 魔法が発動したなら私の家に来るんじゃなかったのか!」

 「そそそそのはずです! 所長が陣を完成させていたので間違いないですっ」

 「なら何故彼女は私の元にいない!」

 「まーまー、落ち着け。 こいつに言ったって分かる訳ないだろ」


 そこで入ってきたのはギディオン隊長だった。


 「とりあえずあっちの所長に聞きに行ってこい。 それが一番早いだろ」


 確かにそうだ。

 私はギディオン隊長の言う通り、魔法具研究所がある場所まで急ぐのだった。



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