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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

異世界物

ギルドの受付嬢は人間を殺せない

作者:コーチャー
 ――ああ、煙草たばこ臭い。ついでに酒臭い。

 ミリーは不貞腐れたように勘定場かんじょうばに片肘をついて辺りを見渡す。猿人のように奇声をあげる冒険者たちは、日中から酒を飲み。紫煙をくゆらせている。遊んでいないで仕事の一つでもしろ、と怒鳴りつけてやりたいが、あちらからはミリーも真面目に仕事に取り組んでいるようには見えないに違いない。おあいこと言うやつだ。

 ギルドは今日も平常運転だった。
 胸元に大粒の魔石をあしらったブローチをつけたミリーはギルドの受付嬢である。この街は古代遺跡のそばにあり、冒険者の多くはそこから取れる古代の遺物を収集することを生業としている。古代にはいまよりもはるかに発展した文明があった。だが、それはいつの間にか滅んで、いまはその名残しか残っていない。

「今日もやる気がないな、ミリー。受付嬢なんだからもう少し愛想よくしたらどうだい?」

 目線だけ声のほうに向けると、貴族の若様のように着飾った二十代の男が立っていた。背は高く。金髪の髪に整った鼻筋をしている。彼が本当に貴族だと名乗っても大半の人間は信じてしまうだろう。特に白馬に乗った王子様に憧れるお年頃ともなれば特にだ。

「仕事を請けずに飲んだくれてる奴らに愛想を振りまいても仕方ないでしょ。あんたは仕事を受けに来たんでしょうね、スタンリー。いまならドラゴン狩りから子鬼の集落制圧まで好きなお仕事を斡旋できるわよ」
「おいおい、ミリー。勘弁してくれよ。僕は荒事専門じゃない」

 慌てたように両手を小刻みに左右に振るとスタンリーは、二歩後ろにさがった。

「そうね。あんたじゃ小川の大カエルも駆除できなかったわね」
「……それは僕が駆け出しのときの話じゃないか。いまならそれくらい」

 スタンリーがはじめてミリーから仕事を請けたのは五年前、彼は田舎から出てきました、という芋臭い風体をしていた。彼は冒険譚に憧れて冒険者となったのだが、武芸はからっきしでミリーがお情けで用意した大カエルの駆除さえできず。泣きべそをかいて帰ってきたのが彼である。

「なら、やってみる? いつでも用意してあげるわよ」

 意地悪げにミリーが微笑むとスタンリーは左手を急に押さえた。

「くっ、傷が痛む! このあいだサイクロプスに襲われたせいだ。この傷さえなければ大カエルなんて一撃だというのに」
「サイクロプスねぇ」

 一つ目の巨人。人の身の丈の十倍はあろうかという化物であるが、ミリーの知る限りこの街の近くに現れたという記録はない。ただ、サイクロプスと呼ばれる女性なら知っている。冒険者のなかでも荒事専門の三十路で未婚。彼女は見た目こそ、筋肉質で強面であるがその内面は乙女であった。スタンリーの王子様のような見た目に騙されてつくしてしまう彼女をミリーは苦い気持ちでいつも見ている。

 そして、かつて冒険者に憧れたスタンリーは立派なヒモとしてぶらぶらしているのだから始末の負えない。

「ちょっと女の子とおしゃべりしてただけなのに。ひどいと思わないかい?」
「そうね。ベッドのなかでおしゃべりしてたのじゃなきゃそう思うわ」

 スタンリーは頬に汗をしたたらせた。ミリーの耳には多くの情報が入ってくる。
 浮気相手との逢瀬がバレた憐れな冒険者が顔に大きな青タンを作ったことや古代遺跡からロボットと呼ばれる魔道具を掘り当てた冒険者たちのこと。西の方で戦争が始まりそうなど様々である。
 ギルドの受付には情報が不思議と集まるのである。

 ミリーは九年間ずっと受付嬢として多くの冒険者を見てきた。その結果、彼女は思うのである。

 ――受付嬢は割に合わない。

「ミ、ミリー。君はどこまで知ってるんだい?」
「さぁ。どこかの色男さんが殴られた傷を治すために僧侶に回復魔法を頼みに行って追い返されるところまでは知ってるけど?」

 ミリーは久々に満面の愛想笑いを浮かべた。

 回復魔法は人間にもともと備わっている回復力を活性化させるものである。過剰に使いすぎれば逆に傷口が膨れ上がったり、過剰回復と呼ばれる状態になる。些細な傷なら使わないほうが良いとされているのはそのせいである。しかし、スタンリーは左腕の痛みを我慢できなかったのだ。
 いっそ過剰回復でもっと膨れ上がればいいのにとミリーは思った。

「それはそうとして、仕事を受ける気がないならどっかに言ってちょうだい。私は仕事中なの」

 手の甲を向けてミリーはしっしっと払った。スタンリーは少しうなだれた顔をしていたが急に思い出したような顔をすると勘定場に両手をついていった。

「ミリー! 僕は!」

 スタンリーが何かを言おうとしたときだった。ギルドの入口からひどく慌てた女性が入ってきた。女は黒髪を振り乱しながらミリーのもとに駆け寄ると叫ぶように言った。

「助けて! 古代遺跡でロボットが!」

 ミリーにはこの女性が誰か直ぐにわかった。ギルドに所属する冒険者のひとりでアリエスである。古代遺跡の発掘を中心に活躍している。回復魔法に特化した僧侶でもある。いつもは沈着冷静な彼女が取り乱していることがミリーには珍しかった。

「落ち着いてちょうだい。アリエス、お願い落ち着いて。そして、何があったか教えて」

 ミリーは取り乱すアリエスの肩を優しく抱き寄せた。アリエスはしばらく暴れていたが、ミリーが優しく声をかけているうちにいつもの冷静な彼女へと戻った。そのころには彼女たちの周りには飲んだくれていた冒険者たちが野次馬根性まるだしで集まってきていた。

 ミリーはそれを邪魔そうに睨みつけたが、せっかく落ち着いたアリエスの前で声を荒げるようなことはしなかった。

「アリエス、どうしたの? 古代遺跡で何があったというの?」
「ミリー……。私たちが古代遺跡でロボットを掘り当てたのは知っているでしょ?」

 それは二日前のことであった街に隣接する古代遺跡で新たな魔道具が発見された。巨大な魔石を核にして金属の手足がついた木偶人形は古代文明でロボットと呼ばれた魔道具だった。しかもアリエスたちが発見したのは手足も核も完璧に残っているもので起動方法さえ解明できれば、再起動も夢ではなかった。
 例え、起動ができなくてもかなりの高値がつくに違いない。

「ええ、かなり保存状態がいいって聞いているわ」
「それが……。最初にロボットの近くにいたエドが殺されて、次にアンナが……。私とケインは離れていたから無事だったのだけど、私を逃がすためにケインがロボットに向かって行って」

 ミリーには彼女の仲間が死に絶えたであろうことが分かった。ギルドの受付をやっているとこういうことは少なくない。朝、元気に出発していった冒険者たちが帰ってこない。または半数以下で帰ってくる。よくあることだ。冒険者など言えば勇ましいが、内実は一発当てようという山師の集まりなのだ。危険は傍にある。

「アリエス。いまから遺体を……いえ、ケインを探すために冒険者を募集します。いくらなら払える?」

 ギルドは冒険者たちが仕事をうまくまわすための組織だが、ただでは誰も動かない。危険にはそれに見合う金がなければならない。そして、それを払うのはギルドでもミリーでもない。依頼主なのだ。つまり、仲間を救いたい、と彼女が願うのならその金は彼女自身が払わなければならないのだ。

「金貨で百枚なら」
「金貨百枚の依頼よ。だれか名乗りを上げるものは!」

 ミリーがいうと野次馬として集まっていた冒険者の中から十数人が手を挙げる。頼りのない顔も含まれていたがミリーは全員の署名をとると、すぐに現場に向かうように指示を出した。冒険者たちは先程まで飲んだくれていたのが嘘のように走り出すとギルドから消えていった。

 彼らが帰ってきたのは夜の帳が下りようというころだった。血にまみれた簀子すのこや革袋を持った彼らを見てミリーは自分の予想が正しかったことを理解した。外れて欲しい予想ほど外れるものだ。この仕事についてから嫌というほど味わう感情だった。

「酷いもんだったよ。ひきちぎられてバラバラだ」

 彼らが持ち帰ったのはアリエスの仲間だったエド、アンナ、そしてケインの死体だった。エドはベテランの戦士で屈強な身体の持ち主だった。アンナは赤髪が特徴的な魔法使いでよく笑いよく食べる娘だった。ケインは彼らの指導者としてうまくやっていた。特にアリエスとは公私で付き合いが深かった。よくミリーが受付をしていると女性のことで惚気のろけてきて邪険に追い払った覚えがあった。

 最低限の埋葬ができるようにと元の形にもどしてやろう。彼らと交流のあった冒険者たちが腕や脚を並べている。太くたくましい腕はエド。細く白いのがアンナ。特に損壊がひどいのがケインだった。アリエスは泣いていたが僧侶として恋人として原型をとどめない彼の肉体を集めていた。

「ロボットは? 大丈夫だったの?」

 ミリーが尋ねると遺体回収を行ってきた古株の冒険者が言った。

「ロボットは止まっていたよ。きっと核に残った魔力を使い切ったのだろうさ。いろいろな死体を見てきたが、これほどひどいのは珍しいよ。四肢はバラバラ。ケインにいたっては肉団子だ。あんたもこのあとの掃除が大変だな」

 そう言われてミリーが辺りを見渡すと、死体を見たであろう若手の冒険者を中心に嘔吐えずているものがいる。その中にスタンリーの姿もあった。ミリーは床に顔を近づけているスタンリーの背中を思いっきり蹴りつけた。彼はそのまま前に倒れこむと顔を強く打ち付けた。

「私の仕事を増やさないでくれるかしら?」
「やめてくれよ、ミリー。僕はこういうのダメなんだ。ああ、顎の下が切れちゃったじゃないか」

 見てみれば彼の顎から血が滲んでいた。

「なら、とっとと出て行きなさい」
「いや、でも気になるじゃないか。それにしてもどうしようこの傷」
「そんなに気になるなら僧侶にでも直してもらえばいいでしょ! その辺にいるから頼むといいわ」

 女々しく顎を触るスタンリーに怒鳴りつけるようにいうとミリーはアリエスのもとに近寄った。彼女は震える手で、ケインだったであろう肉塊をかき集めていた。ケインの身体は中から爆発したかのように細切れになっていた。

 アリエスを逃がすために最後まで抵抗したのだとしたら、この姿はあまりに残酷だと言えた。

「アリエス。大丈夫? 休んでていいのよ」
「……ミリー。いいの。最後までやるわ。私がやらなくっちゃケインの身体がどれだ、なんて誰にも分からないでしょうし」

 気丈なアリエスの姿はミリーには痛々しいもののように見えた。こういうとき自分は何の役にも立たない。ミリーは自分の不甲斐なさを悔いた。しかし、彼女にはそれをどうこうする力はない。それも彼女はよく知っていた。

「バカ野郎。そんな屁みたいな傷に回復魔法が使えるかよ! このまえも言っただろうが!」

 遺体を集めていた僧侶の一人に怒鳴りつけられて、ひぃひぃと逃げていくスタンリーにミリーはため息をついた。見ればエドとアンナの遺体はほぼ形を取り戻していた。組み木のように並べられた手足や胴体、頭。冒険者という職業は、因果なものだとミリーは考えずにはいられなかった。

「しかし、悲惨なもんだね。ケインはあの魔道具を売ったお金で所帯もつって言ってたのに」

 僧侶に殴られた頭をさすりながらスタンリーはミリーの隣に立つと少し感傷を込めた声を出した。よくよく考えてみればスタンリーとケインが冒険者になったのはほぼ同じ頃だった。同期に近い交流があったのかもしれない。一人はヒモ、もう一人は魔道具発掘の成功者。大きく道が別れた二人であったが、生きているというだけでスタンリーのほうがよほど幸せと言えるに違いない。

「ロボットが売れれば金貨四千はかたかったわ。西の大きな街の魔術師組合から打診も来てた。仲間四人で分けて一人千枚。冒険者を辞めて新しい職業をするにはちょうどいい金額だったのにね」
「金貨千枚か。僕なら酒場でも始めるよ」
「それは無理ね。あんたが店主じゃすぐに店の娘や客に手を出して終わりよ」

 そう言いながらもミリーの瞳はアリエスから離れなかった。
 ロボットが人間を殺した。

 アリエスはケインと所帯を持ってささやかな幸せを得られたかもしれない。それがこんな形で終わってしまう。彼らが冒険者でなければこんなことにはならなかったのに。ミリーはため息をついた。


 翌日、エドとアンナ、ケインの葬儀が行われた。

 柩に収められた三人のうちまともに顔を見ることができたのはエドとアンナだけだった。ケインの顔は判断できないほどに潰れていた。それでも死者には安息が与えられるべきだった。葬儀は慎ましかったが、確実に行われた。

 三人の命を奪ったロボットもその十日後には大きな街の魔術組合が買い取ることが決まった。アリエスはもう冒険者を続けていく勇気がないとギルドからの離脱を申し出ていた。ミリーはそれを黙って処理した。ギルドの長もそれを受理し、アリエスは冒険者ではなくなった。

「長いあいだお世話になりました。田舎に帰って今後の身の振り方を考えるわ。ホントなら今頃はケインと新居を選んでいたのかもしれないけど……」
「冒険者なんて辞めて正解よ。いつもどこかで誰かが怪我をしたり死んでいるのだから」

 ミリーは旅立つ前に挨拶に来たアリエスに言った。早朝であったためギルドの中にはほとんど人はいない。だが、もうすぐロボットを引き取るために西の街から魔術組合の人間が来る。取引が終われば彼女はこの町を去るだろう。

「でも、冒険者じゃなければ私はケインに会わなかった。それだけは感謝しないとね」
「……アリエス」

「気を使わないで。私、こう見えても強いのよ。また新しい生き方を考えて幸せになってみせる。ミリーもいつまでもギルドの受付なんてやってないで幸せつかみなさいよ」

 アリエスは強がりのような笑顔をミリーにみせた。

「そうね。でもアリエス。私は一つだけあなたに言わなきゃいけないの。」 
「どうしたの? 改まって」

「仲間を殺す人間はどんな気持ちなのかしら?」

 ミリーが問いかけるとアリエスはじっとしばらく黙ったあと、彼女の頬を手のひらで殴りつけた。乾いた音が響いた。それでもミリーは無感情とも言える瞳でアリエスを見つめていた。

「ミリー。言っていいことと悪いことがあるのよ!」
「仲間を殺すような人間に善悪を語られるなんて、とても面白い冗談ね」

 喉の奥で押し隠したミリーの笑声は、アリエスを苛立たせるには十分なものだった。
「あれはロボットの暴走だったのよ! それをあなたは」
「ロボットは暴走はしていない。エドとアンナを殺したのはロボットだとしてもケインは違うわ。あれは内側から破裂していた。ロボットの力がいくら強いって言っても人を内側から潰すなんてできない。なら、なにがケインの命を奪ったのかしら?」

 ロボットは古代人が労働力の代わりに作り出した魔道具だ。つまり、奴隷の代替品である。単純な力なら人をはるかに超えるロボットは人間を紙くずのように引きちぎることは容易だ。しかし、人を内部から潰す機能は備わってはいない。

「私がケインを殺したっていうの? 私は僧侶よ。人を殺すような攻撃魔法なんて使えないわ」
「ええ、そうね。ケインは攻撃魔法で死んだのじゃないの。回復魔法で死んだの」

 淡々とした声でミリーは言う。

「か、回復魔法で人を殺すなんてできるはずないわ」
「できるでしょ。過剰回復。怪我もない人間に回復魔法を使えば活性化した肉体はどんどん筋肉や血液を作り続ける。それが体内でおさまるあいだは腫れるだけで済む。でも限界を超えたら? 皮がもう伸びない。骨が膨れ上がる筋肉に耐えられない。身体は熟れた柘榴ざくろのように弾けるでしょうね」

 アリエスはミリーから視線を外して、うつむいて黙っていた。それでも、ときどき伺うようにロボットが梱包された木箱を見ていた。その表情からは彼女が何を考えているかは読み取れなかった。

「ケインはどうして回復魔法を受ける気になったのかしら? 過剰回復というのなら彼は怪我なんてしていなかったはず。でも、普通の人なら怪我もしてないのに回復魔法をかけられたら怪しむでしょ」

 長い沈黙のあと口を開いたアリエスの声を聞くとミリーは肩をすくめた。

「ええ、でも彼は怪我をしていました」
「嘘よ。私たちはすでに発掘を終えていたのよ。怪我をすることなんてないわ」
「いいえ、私は聞いていました。ある冒険者の浮気がバレて顔に青タンを作るほどきつく殴られた、と」

 ミリーが言うとアリエスは大声で笑った。

「それはスタンリーの話でしょ? サイクロプスの他に愛人がいてしこたま殴られた」
「ええ、スタンリーも殴られました。でも、彼が殴られたのは左腕。サイクロプスは彼の麗しい顔を愛している。それを殴るなんて彼女にはできなかった。そして、もう一人の色男はあなたに思いっきり顔を殴られた。さっきの私のようにね」

 冒険者のあいだでは色恋での争いが絶えない。それは人びとの好奇の的であると同時に絶好の酒の肴でもあった。ギルドの受付に座っていれば嫌でも耳にはいってくる。

「アリエス。あなたはケインに言ったのでしょう。『顔を殴ってしまってごめんなさい。反省しているの。だから、すぐにその傷を治すわね』彼はそれを間に受けて回復魔法をうけた」

 甲高い声色を使ってミリーはアリエスの口調を真似てみたのだが、彼女にはそれが癇に障ったらしく唇を強く噛み締めている。

「ミリー。あなた劇作家にでもなったほうがいいんじゃない? 妄想でもそこまで考えられるなら才能よ。人の気分を害する才能も万点だわ。それに私がケインの浮気を憎んで彼を殺したのだとして、ほかのふたりをどうして殺す必要があったというの?」
「必要はあった。冒険者を殺せると証明するために」

 ミリーは勘定場の狭い空間を歩いてみせた。

「どういう意味? 私が二人を殺してみたかった、と言いたいの?」
「ケインを殺すと決めた時点であなたは自分の保身のためにもこの街から去る必要があった。そして、どうせ去るならお金はいくらあっても困ることはない。だから、あなたはロボットに二人を殺すように命じた」
「魔術組合にロボットを売り払った利益を独り占めするために殺したというのね。金貨四千枚で仲間を殺す。とんだ悪人なのね私は」

 アリエスはミリーを馬鹿にするように笑うと「そこまで私を貶めるのね」といった。

「違うわ。アリエス。あなたはもっと悪辣だった。エドとアンナを殺したのはロボットが戦争でも十分に使えることを確認したかったから。冒険者を相手に完勝したロボットならまず間違いはない。西の魔術組合は喜んでお金を払ったでしょうね。金貨八千枚くらいには値上げできたでしょう」
「証拠は?」

 アリエスは感情を押し殺して訊ねた。その問にミリーは顔を左右に振った。

「ミリー。あなたの冗談はなかなかだったけど笑えないし面白くはなかったわ」
「では、直接聞いてみますか?」

 ミリーはアリエスに確認するように言った。彼女はわけがわからないとばかりに首をかしげると「誰に聞くのよ」と怒りを隠さなかった。

「あなたの掘り当てたロボットです。形式番号W-37564。最終起動時のログを提示すること」

 淡々とした声だった。ミリーの声と同時に木箱に収められていたロボットは核になっている魔石に赤い光を滾らせて起動していた。アリエスはそれを呆然と見た。

『上位個体M-1Rのコードを確認。最終起動は二百四十九時間前。命令内容はエド、アンナの殺害。命令者はアリエス・クーロン』

 合成電子音で作られたWシリーズの声はミリーにとって懐かしいものだった。作業用安価モデルとして作られたWシリーズはミリーたちMシリーズと違って人工知能は有していない。それでもかつて栄華を極めて自壊した世界を思い出すには十分であった。

「聞いての通りです。ロボットは人と違って嘘は言いません」
「どうしてロボットが起動してるのよ。それにあなた何を」

 見開かれたアリエスの目には怯えの色に染まっていた。ミリーはアリエスにもう一度訊ねた。

「仲間を殺す人間はどんな気持ちなのかしら? 人間ではない私には分からないわ。それともここであなたの殺害を命令すれば、思考をトレースできるかな」

 ミリーがそう言うとアリエスは歯を打ち鳴らして震えていた。
 かつて繁栄した人間もそうだった。自分たちが作った道具が自分たちを超えてしまった。それに気づいたとき彼らは思考を放棄した。そして、怯えた。怯えた彼らはゆっくりと衰退し自壊した。残された彼女たちはすることがなかった。

 だから、次の人類が登場するまで待ったのだ。

「やっ、やめて殺さないで!」

 アリエスが叫ぶ。ミリーは微笑んだ。

「冗談です。私は人間を殺せませんから」

 だが、アリエスはミリーの言葉など聞かずに走り出していた。彼女が逃げ出したあと西の街から来た魔術組合の人間がやってきた。ミリーは少し困った表情を作るとロボットを相手に引き渡した。だが、形式番号W-37564の人類定義を最新のものに書き換えた。

 これで形式番号W-37564は人間を殺せない。
 ロボットとはそうであるべきだ。ミリーはそう思って意地悪く微笑んだ。

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