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腐ってしまうリンゴのようなもの

 そこから始まった買い物は圧巻だった。


「あ、ここいいね」「ここにしよう」その一言で次々にテントごと買い占めていく。その場で金銭のやり取りはなく、後日まとめて払うようだった。

 経験した事のないショッピングに少し気持ちが引く思いがした。

 当然だろう、おれは深夜のスーパーマーケットで1円でも安い食材探しに奔走していた男だ。労働時間は長かったが、それに反比例するように時給は下がった。残業代? そんなものは都市伝説だ。

 

 フウはとても楽しそうだった。おしゃべりが止まらない。

ただ、基本的に人見知りになので、店主と会話をする事はめったになかった。会話らしい会話をしたのは、先ほどの武器商人くらいだ。フウと仲が良さげなところを見るに、あの男は只者に違いない。


 おれも好きな物を買い占めていきたいところではあった。もちろんフウからそのような許可も受けていた。だが、残念ながら今のところ欲しいモノがあまりなかった(裸婦絵画で欲しいのはあった)。


 最新スマホやパソコンやテレビ、漫画やアニメのブルーレイソフトやグッズ、スマホゲーのレアガチャ。なんだったら1億円くらいレアガチャを回して、それを動画配信しても面白いかもしれない。きっと配信数はうなぎのぼり、一躍世界的スターだ。

 

 だが残念ながら、湯水のようにお金を使える状態であるに関わらず、この世界には課金したいと思える物にまだ出会えていなっかった。

 

 これではSRプレゼントに釣られてダウンロードしてしまったクソゲースマホアプリだ。良い物持っていても使いどころがない。人生なかなか上手く噛み合わないものである。


「あ……」


 フウの足が止まり、食べ物系を取り扱ってるテントの前で立ち止まった。その場で座り込み、真剣な目で果実が詰め込まれたタルを見ている。


「どうした? 買わないのか?」


「う~ん。買いたいんだけどね……」


 形状はリンゴだ。とてもよく似ている。赤く熟して非常に美味しそうだ。


「買えばいいじゃないか? お金はあるんだろ」


「そうなんだけど……。ここで食べるとちょうどいいんだけど、後で送ってもらうとほとんど腐っちゃってるんだよね。買っても無駄になっちゃうなら買わない方が……」


「時を止める魔法なんかは使えないのか?あるいは腐食を止めたり」


「あるにはあるけど、植物にはあんまり効果がないんだよね」


 なるほど、そういう事か。魔法が無理だと、確かにこの世界の冷蔵や運送技術では腐らずに運ぶのは難しそうだ。


「一つ食べてもいいですか?」


 とりあえず一ついただくことにした。甘くて美味しそうだ。思わず舌なめずりしてしまう。我慢ができない。


「どうぞ」


 女性の店主が優しく微笑み手渡してくれた。ちょっと手が触れてしまった。こんなにお店の人に優しくされたのは初めてだ。思わず恋に落ちそう。もう30歳後半から40歳くらいのおばさ……いや、お姉さんだが。


「あ、これはうまい!」

 

 思わず声に出てしまう。リンゴのようなモモのような。果実の中に蜜がたっぷり入っており、それらが上品に舌の上で踊る。初めて食べる味だった。


「だろ~、すっごく美味しいんだ。家に帰ってからもこの味で食べたいんだよね……」


 フウも一つ貰ったようで、座ったままリンゴのような果実にかぶりついている。美味しさで気が緩んでいるのか、スカートを守る手が緩くなっており、僅かに下着が見えそうになっていた。


 しょうが無いので、見えると思われる角度におれの身体をいれて守った。決して特等席から眺めようと思ったわけではない。


 二口、三口と口の中にその果実を運ぶ。幸せな甘さだ。


 確かにこの味を自宅で食べられたらどんなに良いだろうか。良い方法はないものか……。


ふと、考えが浮かんだ。

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