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お金もちのお買い物

 がちがちに緊張して顔が強張っているフウの前を歩きながら市場の中心へ歩いて行った。やはりおれの存在が珍しいようで、街の住人と思われる人々の不思議そうな声が耳に入ってきた。

 

 だんだんと買い物客が増えてきて、活気が伝わってくるようになった。ここまで来ると人の群れが道を開けるほどの道幅がなくなり、周囲に僅かながらスペースはあるものの、他の買い物客と変わらない状態になった。


「どうしようかな~、どうしようかな~」


 周囲の視線からも開放されたためか、フウにも笑顔が戻ってきた。キョロキョロと辺りを見回している。


「なあ、ミヤは何が欲しい?なんでも言ってよ」


「何でもか……」


 お金を出してもらえることに若干申し訳なさを感じつつ、甘えられるなら甘えようという悪い大人の思考が勝ってしまった。

 さて、何でもと言われてもまず何が売っているか把握できていない。ふと、少し奥のテントに剣や弓といった武器を売っているお店が目に入った。


「武器か~。やっぱりミヤも男の子だね」


 フウはそう言うと、おれの腕を掴みグイグイとそのテントまで引っ張っていく。その後をレーナが相変わらず表情を変えず着いてくる。このスーツ姿をしたメイドのエルフさんは、笑うことがあるんだろうか。


「ほらほら、しっかり歩いて」


「ちょっと待て、歩くのが早い」


「何言ってんのよ、ミヤ。早く行かないよ売り切れちゃうよ!」


 そうしてさらに腕を強く引っ張る。ああ、なんだろうこの幸せな感覚。


 そう、きっとデートというのはこういう物なのだろうなと思った。寂しい話ではあるが、おれはデートというものをしたことがない。大学生の時も、社会人になってからも。残念ながら。

 この時ばかりは『転移してきて良かった』と改めて感じた。


 武器屋の前に来ると、若いときは戦士でブイブイ言わせてたような雰囲気を持つ、恰幅の良いヒゲおやじの店主が声をかけてきた。


「やあ、フウちゃん。うちの店になんて珍しいな。魔法使いだろ?うちに杖は売ってないぜ」


「わたしじゃなくて、こっち。ミヤって名前なんだ。よろしくね」


「おお!!よろしくな!!しかし、あんまり強そうに見えねえな。お前も魔法使いか? がっはっは!!」


 笑い声が豪快だ。軽く馬鹿にされたのだろうが、あまり嫌味は感じない。確かに筋肉質な体でもないので当然と言えば当然なのだろう。


「よろしくお願いします」


 とりあえず社会人経験者として挨拶はしっかりしておくことにした。


「ほう、礼儀は出来てるな」


 何やら感心している。どこの世界も『脳筋』はこんな感じなのだろうか。特殊能力『あいさつ』でこの世界をやっていけるかもしれないな。


「じゃあ、おっちゃん、よろしくね!」


 フウが手を振り帰ろうとしている。


「おい、ちょっと待て。全然商品見てないんだが」


 かっこよさそうな武器がたくさん並んでいるのに、こんな短時間のウインドウショッピングなんてあんまりだ。


「え? 帰ったらゆっくり見ようよ」


 フウは首をかしげ不思議そうにしている。


「いや、何も買ってないんだが」


「もう買ったよ。あとで持ってきてくれるよ」


「何を?」


「何を?って、お店の商品だよ」


「どれを?」


「どれを?って、ここにある全部に決まってるじゃん」


「あ~」


 なるほど、さすが100兆ギルを持ってるお嬢さんは違う。これが金持ちの買い物ってやつか。恐ろしい価値観で生きてやがるぜ。

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