準決勝
アクアの準決勝はあっさりと終わった。
もはや観客に驚きはなく、決勝戦の相手が誰かに興味が移っていた。騒いでいるのは一部のおっぱい教信者くらいだった。
少しの休憩を挟み準決勝の時間がやってきた。
もはや見慣れた通路を通り、観衆の前に立つ。もう緊張することもない。すごい成長だと思う。
ブラッシュ。目の前にいる対戦相手だ。
前の試合は少し見ていた。圧倒的な力の差で勝利したため、強いという印象はもちろんある。ただ、それ以上に―――。
デカい。何がデカい?
いやいや身長がデカい。190センチ後半、2メートルくらいか。近くで見るととてつもない圧迫感だ。それに若い。20歳くらいに見える(それでも自分の方が若いのだが)。
「よう素人」
明らかに見下している。身長だけでなく態度でも見下ろしてくるのか。素人なのは事実なので気にしないが。
「さすがよく見ている。こちとら本格的に剣を初めて2か月くらいだ。お手柔らかに」
挑発に乗ってこなかったのが面白くなかったのか、少し不満そうな表情をしている。
「ふん。まあ素人にしてはよくやったな。あとはゆっくり休んでろ」
「感謝するよ」
三下みたいなことを言うチャンピオンだ。実際に強いのだから堂々としていればいいのにと思ってしまう。若さゆえのイキリなのか。前の試合で戦ったユーキリとはタイプが全然違う。同じスリズの剣士でもこうも違うのか。
審判の合図と共にお互い剣を構える。
一つ二つと呼吸を整え、じっとブラッシュの目を睨む。歓声が静寂に変わる。
「はじめ!!!!!!!」
紫電一閃とはまさにこのことだ。ブラッシュの長い腕から放たれた剣先が、一瞬でおれの胸を貫いた。
「9ポイント!!!!!ブラッシュ!!!!!!」
審判の声と共に歓声が大きく沸く。痛みは魔法の効果のお陰でないが、頭がクラクラする。
「ちっ!! 心臓は外したか。反応のいい奴め」
肺を周辺をやられたようで、魔法の拘束により呼吸がし難い状態になった。もしこれが実践であれば、肺に穴が開き、呼吸困難で死んでいるはずだ。
「頭おかしいくらい強いな……」
思わず本音が声に出てしまう。ポイントの魔法円を不正しているとかの話ではない。純粋な剣術で負けている。技のスピードと精度、パワーとリーチの長さ。たかだか2か月の特訓ではどうにもならない壁を感じた。
というか不正をしないと勝てない状態まで追い込んだレーナ、本当に恐ろしいな……。今後は絶対逆らわないようにしないと。
フウとレーナの言葉が身に染みる。確かにこれは勝てない。取れて1ポイント。間違いなく負ける。
『将来への勉強だと思って』
レーナのその言葉を思い出した時、ふとアクアの姿が脳裏に浮かんだ。
それは、決勝戦でブラッシュと戦うアクアの姿だった。
あの紫電一閃の一撃を食らった後でさえ、剣術でアクアが負ける姿は想像が出来なかった。そう、魔法さえ使われなければ。
「なんだよ、降参か?」
相変わらずセリフが雑魚キャラだ。こんな性格でなければ、もっと強い剣士になれるのに。そう思うと、可笑しくなって笑いそうになる。
「もったいないなあ……。本当もったいない……。レーナの気持ちがよく分かる」
「なんだ? 何が言いたい? 挑発か?」
「いや別に。さあ続きをしようか」
心は決まった。
どうせ負けるなら『意味がある負け』にしよう。アクアが優勝できるように。
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