次の戦いへ
ダメージを司る魔法円の操作による不正を防ぐことが出来るようになった今、対戦相手であるユーキリに負ける要素はなくなった。
距離を取りつつダメージポイントを稼いでいく。4-9、5-9、6-9。体は痛いままであるが、打開策がなかった時とは気持ちが違う。我慢して、我慢して、隙を見つけては肩に、腹に、コツコツとダメージを与えていく。単純な力比べになってしまえばおれのが上だ。ずっとズルをして勝ち上がってきたためか、剣術の能力は前の試合の相手よりも劣る。隙させ見せなければ勝てる確信があった。
時折間合いを詰められ、魔法円の操作を試みてくるが、おれが張り巡らせた魔力の防御壁を破る術はないようだった。短い期間とは言え、世界一の魔法使いから指導を受けているのだ。魔法に関しては負ける気がしない。
打つ手がなくなったユーキリに残された手段は、ただただガムシャラに剣を振ることだった。もはやポイントをリードしているという考えがないのだろう。一刻も早くこの試合を終わらせたい、という気持ちの攻撃。
そして、おれは、待ってましたとばかりに隙の出来た相手の頭部に剣を打ち込んだ。審判の手が上がる。
「4ポイント!!! 10-9!! 勝者ミヤ・ユータ!!」
その審判の声を聴いた瞬間、張っていた気持ちが一気に緩むのが分かった。嬉しさよりも、一つの仕事を無事にやり遂げたという安堵感が勝っていた。脇腹にあった拘束による違和感もいつの間にか消え、試合が終わったことを更に強く実感した。
「すまなかったな」
思いがけないユーキリの言葉におれは驚いた。申し訳ないという気持ちがあったのか。
「いや、不正だからな。対処できたからいいが、そのまま勝ってたら知らん顔してたろ?」
「当然だ」
「おいおい、意味わからん。なら正々堂々勝負したら良かったじゃないか。そんな気持ちで勝っても面白くないんじゃないか?」
「子供にはなかなか理解できないだろうが、自分は仕事でここに来ている。勝たなくてはいけなかった」
「仕事か……じゃあしょうがないか……」
『仕事』という単語が出た瞬間、おれは全て受け入れる気持ちになってしまった。社畜生活が長かったからかもしれない。どんな理路整然とした説明よりも説得力があった。仕事ならしょうがないね。うん、間違いなく駄目な考えである。
よく見れば、ユーキリは30代後半くらいのおじさんだ。きっと苦労しているのだろう。
「勝つために来たって言ってましたが、負けて帰って大丈夫ですか?」
「まあ、おれはある程度の処分は覚悟しなくてはいけないが、命を取られることはない。安心しろ。それに、ミヤ・ユータよ。次の試合の相手は誰だか分かるか?」
「……あっ!!!!」
「気づいたか。そうだ、前大会優勝者、剣士『ブラッシュ』だ」
前大会優勝者、つまりレーナを倒した奴だ。
「その感じだと、誰かが優勝すれば良い訳か」
「その通り」
「同じ戦い方か?」
「ああ。俺達は勝つためにここに来ている。ただ、ブラッシュは強い。本当にな」
レーナの様子から、ダメージポイント制御の魔法円を利用した不正で負けたことは間違いないだろう。ただ、剣術も魔法も超一流のレーナを上回って不正をしたのだ。相当の強者なのは間違いなかった。
「それでも、おれはただで負ける訳にはいかない。同じ戦い方をするならな」
「……そうか、がんばれ」
ユーキリの表情が少し柔らかくなり、心から「がんばれ」と言っているように感じた。
とりあえずは次の試合に向けて対策を練らないといけない。おれはレーナから詳しい話を聞くことにした。




