緊張
次々に行われる試合を横目に、おれは控え室で出番を待っていた。
「ミヤも頑張ってね!!」
というフウの力強い励ましもあり、なんとか逃げ出さずにこの場に留まっている。緊張する場面は仕事をしている時に何度も経験をしていたが、怪我する心配は少ないとは言え、やはり刃物同士を突き合わせる場に行くというのは別種の緊張感があった。
「はあ、ダメだ。トイレ行こ」
トイレに行くのも何度目か分からない。出ないものを絞り出そうと頑張っても、やはり出ないものは出ないのだ。すぐに定位置に戻り腰掛け、空を見る。やっぱり参加しないほうが良かったかもなあと、今更ながら無駄な後悔をしてしまう。
「出番です」
看守が声を掛けてきた。さて、しょうがない。覚悟して行くか。
地下の通路を案内され、看守の後をついて行く。道の先には出口が見えており、光が漏れていた。近づくたびに歓声が大きくなっていくのが分かった。
通路を抜けると、目に強い光が飛び込んできた。思わず目を瞑ってしまう。ゆっくりと目を開けると、対戦相手が見えた。
闘技場は、観客席で見ていたよりも広く感じた。ただ、開放感はない。数多の視線にさらされ、自分の肉体にその視線の数だけ鎖を付けられているようだった。
ふと、風が通り過ぎる音が聞こえた。空を見上げると、雲一つない青空が広がっていた。風の音が青空に抜けていく。どうしてだろうか、不思議と緊張感が薄れ、頭の中の靄が晴れていくのが分かった。
「それでは両者前へ」
審判の声が聞こえた。同時に、フウ達の応援する声もハッキリと聞こえた。
剣を抜き、一つだけ息を吐く。特に問題はない。
「はじめ!!!!!」
その掛け声と共に、頭の中はさらに明瞭になる。相手は飛び込んでこない。しっかりと間合いを取って、こちらの動きを観察している。中肉中背、体格的にはおれとあまり変わらない。年齢は少し上、20歳前半くらい。目つきは鋭く、いかにも戦士と言った顔立ちだ。
男の剣が左肩に向かって振り下ろされる。おれも、それに反応する。剣と剣がぶつかり、擦れ合う音が耳を突き刺し、脳に響いた。
防御したことによって身体のバランスが崩れたことが男にも分かったのだろう。右、左、頭と間をおかず連撃を繰り出してきた。とにかく動きが早い。気づくと左腕の動きが鎖を付けられたように重くなっていた。
「三ポイント!!」
審判の声が響き、歓声が沸く。どうにも何発か左腕に攻撃が入ってしまったようだ。痛くはないが、明らかに筋肉が動いていないこの感じ。判定用の魔法はしっかり機能しているようだ。つくづく面白い魔法だ。もしこれが真剣だったらどのくらい出血するのだろうと考えてしまった。
それに、よく見ると、フウ達が座ってる観客席の近くに、とても可愛らしい女の子がいる事に気付いた。もう少し早く気づいていたらなあという気持ちと、勝って観客席に戻ったら声をかけてみようかな、なんて下心が湧き出してくる。
確かに相手の動きは早い。でも、それ以外はたいした事はない。
おれは相手の左脇に向かって剣を振り下ろした。相手も素早くそれに対応する。さすがの反応。ただ、明らかにに防御の形が悪い。重なり合った剣に力を加えると、男の手首は力を逃がしきれず、大きく体がよろめいた。すかさず右肩に剣を振り下ろす。男は防御する暇もなく剣を受けると、大きく転倒した。
「7ポイント!!」
再び歓声が沸いた。




