一回戦
試合はトーナメント制で1日で最大5試合を行うことになる。参加人数は32人とのこと。どうやら他の出場者は予選を勝ち抜いた手練達らしい。おれとアクアは招待選手なので予選免除だそうだ。
「出られるだけでも名誉な大会なのですよ」
とレーナさんは教えてくれたが、正直予選から参加したかった。強者しかいないって……。アクアもその話を聞いてかなり怯んでしまったようだ。
「教えると出てくれないと思ったので」
なかなかドSなメイド様だ。
「それでは行って来ますっ!!」
震える体から絞り出すように大きな声あげたのは、アクアだった。彼女のやる気は本物だった。
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昨日、夕食の後、二人で少し話をした。窓から入ってくる風は少し肌寒く、透き通った夜空には星が瞬いていた。
「いよいよ明日ですね」
「適当にがんばろうぜ。間違って怪我でもしたら大変だ」
「先生は相変わらずですね」
「その先生って呼び方、大会で上位にいったらやめてくれよなあ。アクアのが強いんだから」
「ダメです! 人生的な意味での先生ですから、絶対にぼくが上になることはないのです」
「はあ……、まあ実際30年以上生きてた訳だから、人生的には上なんだろうがね」
「へ? どういうことですか?」
「ああ、悪い悪い。こっちの話」
転生前の話はアクアだけでなく、もちろんフウを含めて誰にも話したことがない。寂しい話ではあるが、話しても何も起きない事が分かりきっている。そして、万が一戻れるからと言って、戻りたいとは絶対に思わない。
「僕は……どうしても優勝したいです……」
アクアがポツリと呟いた。皆が知る彼女の目標。だが、おれは前からその事が気になっていた。
「理由を聞いていいか?」
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試合に出るものは一度控え室に集まることになっている。
おれ達はアクアを見送ると観客席へ向かった。エニス王女とガロムさんは専用の観客席での観戦だ。おれは別ブロックで、出番はまだまだ先だった。
闘技場に『剣士』の二人が入場してきた。
沸く観客達。1000人から1500人はいるだろうか。記念すべき開幕試合な事もあるが、アクアの存在がより観客を興奮させた。ビキニのような格好に楔帷子を着ているだけなので、アクア特有の、褐色肌すけて見え、が異様に艶めかしかった。
レーナの不参加を嘆いたギルドマスターの気持ちがすごく―――少し分かる。
「たまんねえな、おい! 褐色おっぱいちゃんだぜ!」
「一回戦で消えちゃうのがもったいない可愛さだな! あー! 運がない……。見ろよ相手の体格、倍以上あるぜ」
近くの観客たちの声が聞こえる。話には聞いていたが、相手はファンニルでも指折りの剣士らしい。
おれは大きく息を吐いた。自分が戦う以上に緊張する。胃が痛い。
「理由を聞いていいか?」とおれはアクアに昨夜聞いた。
アクアはゆっくりと答えた。どこか言葉を選んでるようにも感じた。
「ぼくの故郷に届くかなって思って。こっちで頑張っているって、優勝という形で伝えたいんです。それに―――ぼくに4000万の価値があるって先生に証明したいですから」
そう、嬉しそうにそう答えたのだ。奴隷という立場で売りに出されたこと、そして全く上達しない魔法にアクアは傷ついていたのかもしれない。『天才』と言われるようになった剣術だけが彼女の心の拠り所だったのかもしれない。
「あちゃー、見ろよ、めっちゃ震えてるぜ」
「あんな可愛い子が戦える訳ないんだよなあ」
「超金持ちのフウの付き人らしいぞ」
「どうりで。コネ参加みたいなもんか」
観客の雑音が耳によく届く。イライラする。反論をしたくなる。アクアは天才なんだと。
ただ、実質初めての実戦。彼らの言うことはもっともだ。
「それでは試合始め!!!!!!!」
審判の声が闘技場に響く。地鳴りのような歓声。歓声に促されるように巨漢の男が勢いよく間合いを詰める。
あの程度の動きなら―――と思った瞬間、アクアが一歩下がった。いつもでは考えられない判断だった。守りの体勢に入る。いけない、動きの質が悪い。緊張が取れていない。
『ガキン!!!!!!!!!!!』
剣同士が衝突し、鈍い金属音が響いた。巨体の剣をそのまま受けたアクアの身体が捻れて転がった。単純な力比べでは絶対に勝てないのは分かりきっている。受けた力を逃がしきれていない。
「3ポイント!!!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」
相手にポイントが入った。観客が沸く。思った以上に加点が低かったのは、ギリギリのところでアクアの受け流す技術が勝っていたからだろう。
「がんばれアクア!!!! 優勝するんだろうが!!!!!」
おれは力一杯声を出した。フウとレーナも続く。
声が聞こえたのか、少し微笑んだように見えた。
そして、ゆっくりと立ち上がるアクアの姿を見て、おれは確信した。
観客の歓声を扇動する大男。もう勝ったつもりでいるのだろう。
「パン!パン!パン!」
手拍子が始まる。その手拍子に促さるようにアクアに向かって行った大男は―――――――――三秒後にゆっくりと膝から崩れ落ちた。
本年もよろしくお願いします。




