戦いの前に
アグニスライム討伐から二ヶ月ほど経った。
収穫の秋は過ぎ、大分気温が下がってきた。フウの話によるとこれからしばらくは冬になるそうだ。
それに伴い、おれも家の中でのんびり過ごすことが増えてきた。夜が短くなって外出しづらくなった事もあるが、フウが持っていた魔道書を読む機会が増えたせいもあった。
今のおれの仕事は、フウの料理の手伝いだったり、アクアの庭の手入れの手伝いだったり、レーナの荷下ろしやこの家の会計の手伝いだったりと、とりあえず『お手伝い人』という仕事をしている。
だが、フウからは『はいお小遣い』と給料を貰うため、あまり働いている感じはない。親からお小遣いをもらって生活していた小・中学生時代のような感覚だ。
当初していた散財も、お金を使う機会が減ったので今は三億くらい手元に残っている。本当に使いどころがなく、フウが100兆円まで資産を溜め込んでしまった気持ちが分かったような気がした。
「せんせー! おはようございます!」
相変わらず何の先生なのか分からないまま『先生』呼びを続けているアクアであるが、意味などなく、最早あだ名に近い何かなのだろう。
「おはよー、ミヤ」
いつも通りフウも一緒だ。もちろん毎朝の恒例行事のためだ。
「いらっしゃいませ! かしこまりました! 少々お待ちください! お待たせいたしました! ありがとうございました!」
アクアの教育係になって以来始まったこの接客五大用語の唱和は、終わることなく、フウを加えて大絶賛開催中だった。
本当は仕事をしているみたいで止めたいのだが、
「朝に大声出すと気持ちがいいよね」
というフウの理解しがたい思考によって続けられている。二人共間違いなく意味を分かっていない。ただ声を出す理由が欲しいだけだろう。
一通りの手伝いを終えると10時過ぎくらいになる。以前はこの時間は寝ている事が多かったのだが、アグニスライム討伐が終わってから変わった。
「先生やりましょう!」
何をやるかと言うと剣の稽古だ。もちろん教える訳ではない。エニス王女の護衛であったガロムさんの教えを忠実に復習しているだけだ。たまにエニス王女と共に遊びに来るのだが、その時に稽古の成果を見せている。
おれの剣の腕前も見違えるように向上しておりガロムさんを驚かせている。もしかしたら剣の天才かもしれないと浮かれてしまう時もある。
だが、そんな幻想を一瞬で打ち壊す相手がいる。そう、アクアだ。
彼女の剣を一言で表すなら『天才肌』その一言に尽きる。
元々筋肉質で運動神経がすぐれてアクアだったが、あっという間に基礎を身につけると、たった二ヶ月で達人レベルまで上達してしまった。バロムさん曰く、「足りないのは実戦経験だけ」とのこと。水鉄砲レベルで苦労している魔法とは違う。
「ほどほどにな」
「手を抜いたら負けます。全力でお願いします!」
「ええ~~」
おれの剣の腕が上がっているのも、アクアの剣を間近で見ているのが大きいかもしれない。
二人で『型』を確認しながら、太刀筋を見極めながら、時にはつばぜり合いを行いながら。模造刀だけでなく、鎧を着て本物の剣で行う時もある。意外に激しい特訓だ。
調理場からパンが焼ける匂いがしてきた。もうすぐお昼になるところだ。時間的には11時30分。お腹が空いてきた。




