小さな冒険
司祭さんと別れ一人で教会内を見て回った。
西洋と東洋が混じりあった装飾品は本当に美しかった。観光気分にどっぷりと浸かったこともあり、魔物退治という本来の目的を忘れそうになる。
どうせ能力的に戦力外なので、このままエニス王女とアクアのお守りで街中を観光しているほうが楽しいかもしれない。
やはりおれは性格的に怠け者だ。もう少し主人公的な気質を持っていれば「戦力外は悔しい! もっと努力しないと!」という思考になるのだろうが。
そんな思考が出来れば現代日本で社畜に甘んじたりはしないはずだ。たぶん。おれは、現状の『剣も魔法も出来ない訳ではない』という状態に意外に満足していた。
ようやくアクアとエニス王女のお祈りが終わったようだ。思った以上に長い。文化も宗教も色々だ。
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フウをリーダーとするアグニスライム討伐集団が戻って来たのは日が暮れて辺りが真っ暗になった頃だった。
遅い帰りで少し心配したが全くの杞憂だった。
帰ってきた彼らは非常に浮かれていた。
「はっはっはー!! やーってやったぜ!! ミッションコンプリート!!」
イケメン戦士であり金なしの戦士有望株のバロックが高らかに笑い声をあげた。
「……(ビクっ)」
ほらほら、そんな声を出すからエニス王女がビックリしているじゃないか。
フウが疲れた様子で馬をおりた。フードとマントを取りおれに手渡した。
「お疲れ様。倒しきったのか?」
「うん。お留守番ありがと。あはは、結構手こずったよ」
その言い草から分かった。昨日心配していた大型の魔物の事だろう。
「昨日バロック達が遭遇した奴か。やっぱり他にもいたのか」
フウが小さくため息を吐くと、小さく頷いた。
「いたってレベルじゃないよ。2、30はいたかな。動きを見た限りかなり訓練された魔物の兵団だったよ。他国の魔物兵団なのは間違いない。この周辺にアグニスライムを放ったものそいつらだった」
思いがけない言葉の数々にびっくりしてしまった。
「ファンニルは平和な国じゃなかったのか!?」
ほのぼの異世界生活の危機である。隣国なのか内戦なのかは分からないが、このままではおちおち寝てもいられない。今のおれは最大の標的になりえる存在だ。しかも能力的には狙われたらジ・エンドだ。金なんぞいくらあってもしょうがない。
「え? 平和だよ。すごく」
フウのあっけらかんとした答えにおれは拍子抜けしていしまった。強すぎて感覚がずれているのだろうか?
「だって他国の魔物の兵団が紛れ込んでたんだろ? それってつまり他国が侵略をしに来たってことじゃないか」
「ああ……この程度ならたまにある事だから。人間同士と同じで、ちょっとしたトラブルは付き物だからね。しかし―――簡単なアグニスライムの討伐だからって油断しちゃ駄目だね。危うく王女様を命の危機にさらすところだった。まったく、王様にも伝えなくちゃ!!まったく!!」」
「いや……フウもおれとアクアを連れて来ているじゃないか」
「あはは、確かに。今日はお留守番にして正解でした。まあ、わたしがいればチョイチョイってやっつけて終わりだけどね」
冗談のように話すフウだが、珍しく申し訳なさそうな顔をしている。おれが考えている以上に危機的な状況だったのだろう。
その夜、居残り組であるたちが用意した料理と共にささやかなパーティーを開いた。お酒と音楽家を急いで用意した。昨日のアグニスライム討伐よりもこの準備の方が疲れたかもしれない。
こうしておれの初めての冒険は終わった。この世界に来て初めて踏み出した一歩は、大きな変化のない、小さな一歩で終わった。




