正しい器
エニス王女の提案もあり、おれ達は教会でお祈りすることになった。
教会の内部は自分が知っている三大宗教とも違う、まさに異空間と言う言葉が相応しい様相だった。少し西洋の色合いが強いのは確かだが、だからと言ってキリスト教的な装飾もなければ、イスラム教的なものもない。
もしかすると、初めて異世界に来たことを実感したのかもしれない。
部屋の中心には大きな火が煌びやかに輝いており、それを囲むように人々が膝まづいていた。エニス王女とアクアは手馴れた様子でその輪に加わり祈り始めた。王女様が普通にお祈りをする位なのだから、この国ではかなりポピュラーな宗教なのかもしれない。
二人が違う世界の人間に感じる。まあ、実際違う世界の人間なのは間違いないが。
流石にこの輪に混じらないと変な目で見られてしまう。取り敢えず周りに合わせておけばいいかなと思った時だった。
黒づくめの姿をした、どうやら教会関係者と思われる人間が声を掛けてきた。
「おや? あなたはこの国の方ではありませんね」
50歳から60歳位の老紳士だ。サンタクロースのようなヒゲが特徴的で、とても穏やかな目をしていた。
「はい、旅をしてます」
自分の出生については突っ込まれれば突っ込まれるだけ面倒くさくなる。何せフウに拾われる前の記憶がないのだ。ここは嘘を付いてやり過ごす事にした。
「やはりそうでしたか。異国の方がフリード教の教会に来られるなんて珍しい。私がこの教会の司祭です。歓迎しますよ」
「司祭様でしたか。ありがとうございます」
『フリード教』という言葉をなんとなくだが聞いた事があった。宗教に興味がなかったので深く聞いてはいなかったが、よくよく考えれば街中で何度か目にした事もあった。だが、フウの家ではそのような宗教色を感じたことがなかったため、こんなにこの国に浸透している宗教だとは思っていなかった。
とりあえずは、おれは旅人だという事になったので、信者の振りをする必要がなくなったのは助かった。
「ところで旅人さん―――」
「なんでしょうか?」
老紳士の目がとても優しい。吸い込まれてしまいそうだ。
「あなたの『カラダ』、とても素晴らしい作品だ。どこで手に入れましたか?」
「はあ……」
始めは何を言っているのか分からなかった。突然身体が素晴らしいって言い出すなんて。おじいさんはそっちのご趣味でしたか。その辺りの趣味にはにケチを付けませんが、教会で発情しても宗教的には問題ないんですかね。
「おれは女の子が好きなので。申し訳ないですが」
「ふっふっふ。何を勘違いされているんですかね。そんな事ではありませんよ」
「えっ? 違うんですか?」
こういう勘違いが一番恥ずかしい。好きとも言われていないのに勝手に勘違いしたパターンのやつだ。穴があったら入りたい。
「いえ、言い方が悪かったかもしれません。ふふっ……しかし面白い。しばらくこの街に滞在されるのですか?」
「まあ……。すぐにファンニルに戻りますが」
「……ファンニルのどちらで?」
「知り合いの富豪の家で今は手伝いをしながら居候をしています」
嘘を付くのも面倒臭いので少し濁して本当の事を話した。
「……ファウスト・フウ・ストレージ、さんの家ですよね?」
「ああ、有名人なんでしたっけ。そうです」
なぜ知っているのかと思ったが、王様とも付き合いがある超が付くほどの大富豪なら知られてて当然か。
「いやー、本当に面白い……。まさかこの目で見る事が出来るとは。でしたら、教会内をゆっくりご覧なってください。また機会があればお会いしましょう」
なんだかよく分からない司祭さんだったなと思いつつ、おれは二人のお祈りが終わるまで教会内を見て回ることにしたのだった。




