エニス王女と食事
アグニへは二日かかる。途中隣村であるリン村に泊まり、翌日の夕方にアグニに到着する予定だ。整備された道を通るので、魔物もほとんど出ず道中はのんびりとしたものだった。
エニス王女はスヤスヤと寝ており、その側には護衛の騎士ガロムが寄り添っていた。真面目な性格なようで、エニス王女が寝ている間も気を休めず、いくつかの『魔物探知の魔法』の魔法円を使用しながら周囲を警戒していた。
話しかけづらいこともあって、リン村に到着するまで会話はほとんどなかった。
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「王族専用の宿があります。皆様もそちらにご案内いたします」
「みんなも……一緒です」
リン村に到着したおれ達は皆そこに泊まる事になった。王族専用の宿に泊まれるなんて、なんて贅沢な経験だ。
「おいそこの馬車、止まれ」
と威圧してきたファンニルからの派遣の門番兵に、王様からもらった文書を掲げる。
「し、失礼しました! すぐにお宿にご案内いたします!」
手のひらクルクルである。文書一つでここまで態度が変わるのを見ると、なんともクセになる。アグニでも同じように威圧してもらいたい。そして印籠のようにこの文書を掲げるのだ。
おれ達が泊まる建物は村の奥にあった。警備はやはり厳重で、のどかな村の雰囲気が一瞬で変わった。
部屋は一人一部屋用意されており、しかもメイドと執事付きだ。
「じゃあミヤ、ガロンさん、またご飯の時に!」
フウは手馴れた様子で部屋に向かう。
「フウ様、あのメイドさんの獣耳がとてもカワイイですよ……ってあれ、フウ様?」
「あっちにいるぞ」
「本当だ! ミヤ先生ありがとうございます!あ、ごめんなさいっ」
執事のおじさまにぶつかりそうになったアクアは、慌ててその後について行く。残念ながら執事のおじさまには獣耳がついていなかった。
「お待たせいたしましたミヤ様、お部屋までご案内いたします」
やった!!獣耳のメイドさんだ。この耳の形はネコだ!とてもカワイイ。喜んでついて行きます!
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広々とした部屋に案内されるとすぐに、おれはベットに倒れこんだ。ひたすら移動すること約五時間、道の悪さもあり体に疲れが溜まっていた。
扉をたたく音がする。少し眠ってしまったようだった。
どうやら晩食の準備ができたらしい。
テーブルにはみんながすでに待っていた。しかし、よく見ると一人足りない。誰だろう。寝起きで動かない頭を必死に働かせる。ああ、そうだ、ガロンさんだ。
「ミヤ~遅かったねえ。寝てたの?」
フウがニヤニヤしながら声をかけてきた。
「ああ。そういうフウも寝癖がついてるぞ」
「え? あ! ほんとだ! うう、気づかなかった」
「あはは! フウ様もミヤ先生も気が抜けててダメですねえ。魔物退治なんですからもっと緊張感を持たないと!」
珍しくアクアが偉そうだ。
「いやいや、そう言うアクア顔にはヨダレの跡があるぞ。ある意味おれとフウよりも酷い」
指摘されてアクアは一生懸命口を拭く。
「ふふふ……皆さん仲が良いのですね」
エニス王女が笑った。上品で可憐な笑顔だ。流石王女様と言ったところで、豪快な笑いを繰り出すアクアには少しは見習っていただきたい。
「エニス王女とガロンも仲が良いではありませんか」
そう、この二人の仲の良さもなかなかのものだ。
「ガロンは……あくまで騎士ですから……」
顔は笑顔ではあったが、その口調はどこか寂しそうなものだった。確かに騎士と王女様は、会社で言えば平社員と社長令嬢みたいなものだろう。
「ガロンさんは夕食を共にしないのですか?」
「……?……他の騎士を食事を共にしますけど……? 一緒に食べることができるのですか……?」
エニス王女は首をかしげながら答えた。どうやら王族と騎士は一緒に食事をしないようだ。反応を見る限り、こんな事を考えたこともなかった様子だった。
「もし王女様がよろしければガロンさんも一緒にお食事出来ませんか? 馬車の中ではあまり喋ることができませんし、何より今回は共に旅する仲間です。彼の性格や行動を知るのは魔物討伐の役に立つと思いますよ?」
王女の寂しそうな姿を見てしまったゆえに出てしまった提案だった。
「うん、それがいいよ。エニスちゃんもいいよね?」
フウも大きく頷いている。実を言うと先程から腹の虫がたびたび鳴っており、その発生源がフウだと言うことも分かっている。そんなに腹を空かしているのに、ご飯が遅れる提案に同意してくれるなんてありがいことだ。
「みなさんがいいなら……」
「もちろん。フウもアクアも大歓迎だ」
表情からは分かりにくいが、エニス王女は喜んでいるように見えた。
その後、突然連れて来られたガロンさんはかなり混乱していた。終始混乱し、食事が終わってもやはり混乱していた。肉を魚と言ったり、ワインは飲まないと言いつつ、おれのワインを間違って飲んでしまったり、挙げればキリがない。
その度にエニス王女は上品で可憐な笑顔を見せた。フウもよく笑い、アクアも笑い、おれも笑った。ガロンさんも悪い気はしていないようで、どこか緊張感が抜けたような感じだった。
そうして、王女を除く四人の酔っ払いを生み出した夜は、賑やかにふけていった。




