ファンニル城の幼姫
「いってらっしゃいませ」
「いってきまーす」
レーナが頭を下げ、フウが元気手を振り答える。
ファンニル王の使いの馬車に乗ったおれとフウとアクアの3人は、日の出と共にファンニル城へ出発した。
道中は今日の朝食の感想や昨日蒔いた花の種の話題で盛り上がり、気づけばあっという間に城に到着していた。
ファンニル城は都市ファンニルのほぼ中心に位置している。大きさもさることながら、その力強い佇まいはその権力の強さを感じさせるには十分だった。
「あわわ、近くで見ると本当に大きいですね!」
アクアは城を見上げながら目を丸くしている。当初はこの魔物の討伐依頼には不参加の予定だったが、レーナの「勉強のためにアクアさんも連れて行ってください」という一言により急遽参加することになったのだ。
「初めてだとビックリするよね。わたしはなんか堅苦しいし、緊張しちゃって、ここに来るの好きじゃないんだ」
「でもよく来てるんだろ? 先週も来てたとレーナから聞いたぞ」
「何度来ても慣れなくって」
人見知りだが、慣れてくればよく話すフウにしては意外な答えだった。何か理由があるのだろうか。
そうこうしている間に城に入るための跳ね橋が架かった。
「ファウスト・フウ・ストレージ様、お待たせしました、どうぞお通りください」
看守に促され、おれ達は城内に入っていった。
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謁見の間に案内されると、そこには10名ほどの冒険者らしき男女がいた。見るからに高級そうな装備品を身につけている。値段で言えば、イケメン戦士が持っている武器が300万ギルクラス長剣だ。
間もなく王様が入ってきた。他に習うように膝をつき頭を下げる。
ファンニル王はもちんちくりんな小太りな男だった。年齢は30歳から40歳と言ったところか。愛嬌がある笑顔を振りまいており、悪い印象ではない。
「ストレージよ。今日はご苦労であった」
名前を呼ばれたフウが一歩前に出て頭を下げる。
「ありがとうございます」
「うむ。どうもアグニ街の周辺で魔物の報告が多くてな。名前は確か……アグニスライムだったかな? 近隣の村では農作物の輸送をしている馬車が狙われたり、農作物が荒らされたりと甚大な被害が出ておる。一体一体はたいしたことがないのだが、いくら倒してもキリがない」
「承知しております。ご期待に答えられるかと」
「さすがストレージだ。今回もよろしく頼む。ところで後ろにいる冴えない男と可愛い女の子は誰だ? 初めて見る顔だが」
冴えないとはなんだこのちんちくりんが、と言いたいが流石に死にたくないので言わなかった。
「わたしの友達であり、優秀な弟子です」
『無職』から『魔法使いの弟子』に肩書きが変わったのはかなり嬉しかった。しかも『優秀』がときたもんだ。まだ調理くらいでしか役に立たないレベルなのに。
「……ぼく達、優秀だそうですよ……」
アクアが嬉しそうに小声で呟く。
「……いやお世辞だから……」
「そんなァ……」
水鉄砲のおもちゃレベルも魔法を使えないアクアがどの口で喜ぶのか。
「「「おお……あのストレージがついに……」」」
気づくと、周りにいた大臣や騎士長のような人達がどよめいていた。フウの弟子というのがすごいのか、友達というのが凄いのかよく分からない反応だった。
「…………」
フウの顔がちょっと怖い。馬鹿にされたのは間違いないので当然の反応かもしれない。何度来ても慣れないと言っていた意味が分かった気がした。
「大臣よ、失礼だぞ。そうそう、突然で申し訳なないんだが、一つ頼みを聞いてくれないか?」
「どういったご用件でしょうか?」
フウは不思議そうに首をかしげた。
「うむ、私の娘を一緒に連れて行って欲しい」
「え!?エニス王女ですかっ!?」
「そうだ。どうも甘えん坊が過ぎてな。少し外の世界を見せてやろうと思ってな」
「しかし、まだ王女様は10歳、早すぎるのでは?」
「ストレージも14歳ではないか。そんなに変わらん」
「いえ、違うと思いますが……」
「まあまあいいじゃないか。ストレージがいれば問題ない。おい、エニスをここに呼べ」
「はっ」
騎士団長と思われる人物が部屋から出ていく。エニス王女とはどんな子なのだろうか。王女だろうし、きっと可愛いに違いない。依頼とは関係なしにワクワクした。




