地獄の特訓()
「ありがとうございました」
「ありがとうございました!!!」
アクアの元気のよい挨拶が朝の空に響く。
魔法の勉強が始まって3日が経った。朝の体操と接客五大用語の唱和は毎日の日課になっていた。朝に気合を入れる方法として冗談で提案したのだが、なぜかアクアが気に入ってしまったようだった。さっさと飽きて欲しい習慣である。
「じゃあアクア、またあとでな」
「はい! 頑張りましょう先生!」
もはや名ばかり教育係のおれに対して、今だに『先生』の呼び方を変えないアクアになんとも言えない可愛さを感じてしまう。
アクアはフウの自宅に戻り庭の芝生と花壇に水やり、おれは調理場でフウと朝食の準備をすることになっている。ただのお手伝いにしか見えないが、これも立派な魔法の修行である。
調理場にはフウがいた。手際よく野菜を切っている。
「火起こしお願いね」
「はいよ」
おれは竈の前に立ち赤いチョークで魔法円を書く。特に呪文は唱えない。
少し待つと小さな火が円の縁からいくつも現れた。おれは火力が強まるのを確認しながら鍋置き用のL字に曲がった鉄を配置していく。その形はガスコンロに似ている。
「やっぱり変な形の竈だね」
「そうかな?」
「うん。使いやすいからいいけど、こんなの普通は思いつかないからすごいよ」
料理で使うから火を起こしてくれと頼まれたので、おれが初めに作ったのがこのガスコンロもどきだった。頼んだフウとしては火を起こした後に木材に着火させて竈を作るものだと思っていたらしい。
それにはちゃんとした理由がある。
魔法円、文字式詠唱が継続魔法(止めない限り効果が続く)、呪文詠唱が非継続詠唱(効果は一度のみ)と聞いていた。
なので、おれはガスコンロのように魔法円で火力を調整しながら使うものだと勝手に解釈したのだ! 料理で使用する火のイメージはガスコンロかIHクッキングヒーターだ。だから似たような物を作った。ただそれだけだ。
前の仕事だったら始末書ものの勘違いかもしれない。思い込みって怖いね。まあ、フウが喜んでいるからいいけど。
パン焼き用の竈は別に作る。離れていてもかなり熱い。薄く伸ばしたパンの上に野菜と燻製の肉が散りばめられ、チーズが乗せられている。一言で言えばピザだ。鉄の棒を使ってピザを竈の中に突っ込む。
「あつい、あつい」
「ははは、ほんとあついよね。もうちょっと離れた方がいいよ」
「今度はそうする。はあ、次は火力の調整か」
「うん、ガンバレガンバレ。焦げたら朝食抜き!!」
「ええ……。木材に移った火力調整難しいんだけどなあ」
「知ってる。ふふっ、ミヤなら出来るよ。多分。さあ、朝食を食べられるかな~」
「悪魔め……」
こんなことを言いながらもちゃんと朝食をくれるのをおれは知っている。だからこそおれは安心して火力の調整をする。やはり難しい。
ピザの焼ける匂いが調理場に充満する。チーズの香りがたまらない。スープももうすぐ出来るようだ。
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そうして一週間が経った。地獄の?特訓が終わり、ついに魔物討伐依頼の日がやってきたのだった。




