ギルドからの依頼、新たなる一歩
フウの部屋は、ある種異様な光景が広がっていた。
白や赤色のチョークで部屋中に不思議な文字や魔法円が書かれており、そこから火や水、土や風が不規則な動きをしながら生まれていた。それらはお互いに絡み合いながら消えていく。何が行われているかは全く分からないが、魔法の一種である事は想像できた。
「部屋にくるなんて珍しいね」
机に向かって座っていたフウがこちらを向いた。長い金色の髪を後ろに束ね、つなぎのような服を着ていた。服は所々チョークの粉が着いており、どこか現場の職人のような雰囲気を醸し出している。
いつも会うときはドレスのようなロングスカートの服を着ているためこの姿は新鮮だった。
「アクアに色々見せてあげようと思ってな」
「お、お邪魔します」
アクアがペコリと頭を下げる。
「そんな丁寧に……私の部屋なんて面白くないよ」
笑っているようで笑っていない。フウが人見知りなのが良く分かる。慣れるまで時間がかかりそうだ。
「もう十分面白いよ。書いてある文字や魔法円はどういう意味なんだ?」
「色々あるからねー。分かりやすいとこだと『キャッシュ』の魔法円があそこ」
「フウが作ったのか?」
「うん。だってコイン交換だとめんどくさいじゃない? だから作ったの。今私が管理してるのはファンニルのみだけど、手伝ってくれる人がたくさんいるから、一応世界中で使えるよ」
貨幣の交換システムを変えた人間なら、そら金持ってますわな。
「今は何をしているんだ?」
「魔法具作ってるの。ボーズダって覚えてる?」
「ファンニルにある冒険者ギルドのマスター兼武器屋のヒゲおやじだな」
「そう。なんか来週に国境付近で大きな魔物の討伐依頼があるらしくてね。その時に使う道具を依頼されてるの。なかなか上手くいかなくて」
「魔物か……。フウも参加するのか?」
「もちろん。一応私は『ファンニル魔法協会』の会長だし、それに、これが私の仕事でもあるから」
『私の仕事』という言葉に胸がチクリとする。働きたくないと思い続けてはいるが、流石に現状のヒモ並びにニート状態には肩身の狭さ感じ始めていた。
「魔物の討伐、おれも何か手伝える事はないか?」
恐さはあったが、自分も何か役に立ちたかった。
「ぼ、ぼくも何かお手伝いがしたいです」
もしかしたら、アクアのこの無駄なやる気に触発されたのかもしれない。
「ア、アクアちゃんにはレーナとお庭の手入れをお願いしたいかな? 」
「ありがとうございます!ぼく、がんばります!」
「ミヤは……」
フウは少し考え始めた。
「だったら……魔法を教えてくれないか?」
才能があるかは分からない。でも才能なんてなくたって、多少の手伝いくらい出来るようにはなるはずだ。なんでもいいから、おれはフウの力になりたかった。
「ミヤが……魔法を……いいかもね、うん!」
「ありがとう!」
「じゃあ今からやろう!」
「え! 今から!?」
「もちろん! 決めたらすぐやらなきゃ! 一緒にアクアちゃんにも教えちゃう!」
「ぼ、ぼくもですかっ! 」
「大丈夫! アクアちゃんは今回はお留守番だからゆっくりやろうね。逆にミヤは一週間で形にするからいビシビシいくよ!」
「ス、スパルタだな」
そうして、おれの魔法の特訓が始まった。目指すは一週間後にある魔物の討伐依頼だ。




