教育係
「シークド・アクアさんですか。いいお名前ですね」
「はい!あ、アクアと呼んでください」
「分かりました。アクアさん」
驚くくらい和やかな空気で会話が進んだ。一応アクアは奴隷なので、レーナとの会話はもっと主従関係をハッキリしたものになると思っていた。
「一つ気になったんだが、奴隷って職業なのか?」
これは彼女の自己紹介で気になった部分だった。
「そうですね。本来、奴隷は身分を表すものなので職業ではないのですが、アクアは『志願奴隷』なので職業と言っても間違いではないです」
「志願奴隷?なにそれ?」
初めて聞く単語だ。奴隷商との引渡しは慣れているレーナに任せてしまったので、そう言った話は全く聞いていなかった。
「ぼくの実家は貧乏なので外で働くことになったんです。だけど、このような大きな街で働くには奴隷商の紹介が必要で。ファンニルの商人さんの条件が一番良かったのでお願いしたんですが、それでも良くはないですね。……えへへ」
アクアの表情が少し曇る。無理やり連れて来られたのではない事が分かったが、それでも本意で奴隷になった訳ではなさそうだった。
「なあ、レーナ。アクアはベネチ村に帰してあげよう」
きっと家族も心配しているだろうし、それがアクアにとって一番幸せに違いないと思っての提案だった。4000万ギルという大金は使ったが、こんなに可愛い女の子とカフェでお茶を飲むことが出来たのだから、きっと元はとれたに違いない。元いた世界では考えられなかった大事件だ。
「え!?働かせてもらえないんですか!?なんでもしますから働かせてください!」
まさかのアクアからの拒絶だった。
「アクサさんは、私たちの下で働かせてあげたほうが幸せだと思いますよ」
レーナも働かせることに同意らしい。働かせてあげるのが幸せって、まずその価値観が理解できません。
「ベネチ村に帰りたくないの?」
「帰りたいですけど、こんな大金でぼくを買ってくれたミヤさんに働いて恩返しがしたいんです!」
恩返しって……。気持ちはありがたいが……。
「アクアさんを落札した金額の一部がご実家に支払われますが、一生働かないで暮らせる金額ではないので、結局は志願奴隷に逆戻りしてしまうでしょう。その時、もし変な貴族に買われたりでもしたら大変です。それなら私たちの下で働いてくれた方が楽しいと思いますよ」
レーナのその言葉には強い説得力があった。奴隷を購入する人物の中に邪な気持ちは持っている人間がいることは、あの会場にいれば嫌でも分かった。
「分かった。レーナの言うことはしっかり聞くんだぞ」
「はい!ありがとうございます!」
「教育係をお願いしますね、ミヤさん」
「よし、任せておけ……ん?」
なんだろう、レーナさん。もう一度言ってもらえますか?
「教育係、教育係をお願いしますね」
「え、おれ?」
「はい。まあ、新しい生活に慣れるまで二人で遊んでいれば良いですから。難しく考えないでください。それに、忘れてはいけない大事なことですが、アクアさんはミヤさんの奴隷です。優しくしてあげてくださいね」
「お、おう。任せておけ!」
確かに彼女を購入した(ドラフトで1位で指名した)のはおれだ。責任を取らなくてはいけないの間違いない。
「よろしくお願いしますミヤ先生!」
先生ってなんだよ……。ちょっと恥ずかしいな。
とりあえず、おれはアクアの教育係になったのだった。
「先生! 何したらいいですか先生!」
「……取り敢えずお茶を飲んで落ち着こうか」
「はい先生!」




