奴隷市場(後)
「160万!」
「170万!」
「180万!」
始まりの合図とともにどんどんと値段が上がっていく。壇上にいる鎖に繋がれた褐色肌の女の子を見ると、とても悲しそうな顔をしており、なんともいたたまれない気持ちになってきた。
「レーナ、もう帰ろ……」
「250万!」
もう帰ろう、と言いかけた時、まさかのレーナが競売に参加し始めた。
「おいおい、どういうことだ。なんで競売に参加してるんだ?」
「ミヤさんも増えましたし、最近忙しくなってきたので人手を増やそうかと思いまして」
「なるほど……」
負担を増やしている当事者としては申し訳ない気持ちで一杯だ。手伝えることはしますが、できれば働きたくないのですよ。
「わたしも遊びたいですし、あんまり働きたくないですからね。ほどほどで良いです」
まさかのレーナからの怠けたい発言だった。仕事一筋というイメージを勝手に持っていた。
「260!」
「………!」
「265!」
「268!」
「400万で!」
小刻みに上がっていた金額をレーナが一気に引き上げ、勝負を決めにいった。
「さすがに400万までは出さないと思います。ここで決まります」
「さあ400万ですよ!いませんか?いませんか?それでは――――――」
「1000万!!!!!!!!」
決まりかけた時、一人の男が叫んだ。会場全体に「お~」という溜め息が起きた。
「さあ出ました1000万!!他にいらっしゃいませんか?」
まさかの金額上昇にレーナの顔が少し濁ったように見えた。
「どうするんだ?あの男と競り合うのか?」
「あのタイミングで倍以上の値段でつり上げてきたのはどうしても欲しいからでしょう。相場的にもかなり高値になりましたし、付き合うのは得策ではありません。いい人だと思ったのですが、今回は諦めましょう」
「…………そうか」
別にこの世界の奴隷制度をどうにかしたいとか、困っている人を全て助けたいとか、そんなヒーロー的な気持ちはサラサラない。ただ――――――。
男が金額を引き上げた瞬間、壇上にいた少女の顔が明らかに曇ったのが分かった。あれは、明らかにその男を嫌がった顔だった。
その姿を見たしまったのなら、もう引くことは出来ない。目の前にいる困った女の子ぐらいは助けたかった。
「1200万!!!!!!!」
「ミヤさん!」
レーナも驚いたようだ。おれは右手をあげ金額を引き上げた。幸い今のおれには金がある。戦ってあの子を救いだすことが出来る。
『お~』
湧き上がる会場。
「さあさあ、1200万だ。どうしますか?どうしますか?」
「1400万……」
『お~お~』
まだ引かないのか。相手はどこかの富豪だろう。生憎こちらには9千万ギルしかなく、無尽蔵の金額勝負になったら負ける可能性もあった。
「1450!」
取り敢えず刻んでいこう。もう相場の金額は超えている。小さく金額を上げ、相場価格を意識させる必要がある。
「……1500」
「1510!」
「……1520」
「1520!」
小刻みだが相手の金額提示に間髪いれず上乗せする。まだまだ出せるという余裕を伝えたかった。
「………………」
相手が止まった。このまま決まるか?
「1520!1520です!どうしますか?どうしますか?」
「……………………………………………………………………………………………………………2000」
『うお~~』
会場がざわついた。「2000万ですか。すごいですね」と呟いたレーナの声が聞こえてきた。会場の雰囲気もそうだが、明らかに相場とは乖離した金額になっている証拠だった。相手の男も絞り出すような声で金額を言っている。
奴隷の女の子表情は、おれが金額を上回っている時には明るくなるのがハッキリと分かる。感情が顔に出やすいタイプなのだろう。多分、レーナの付き添いだというのを理解している。だからのこそ、そういった表情になるのだろう。
ここで決める必要がある。いや、ここで決めなくてはいけない。絶対に、男の心を、会場の心を折らなくてはいけない。そして、今の会場の空気ならそれが出来る。勝負をするのはここだ。
おれは間髪いれず叫んだ。
「4000万だ!!!!!!!!コノヤローーーーーー!!!!!!!!!」
その瞬間、相手の男が崩れ落ちるのハッキリと分かった。
「お買い上げありがとうございます!!!4000万です!!!」
「ミヤさんやりますね……」
会場全体に拍手が響き、レーナも驚きの声をあげた。そして、奴隷の女の子は安堵の表情をしているのが分かった。
おれは大きく、大きく、大きく息を吐いた。




