大物を釣ろう
「わたしもやるーーーーー!」
というフウの乗り気な一言により、第一回チキチキ異世界釣り大会が無事開催されることになった。もちろんこの大会名は公式ではなく、おれの頭の中だけに留めている産物だ。自分で考えていてあれだが、恥ずかしくて口には出来ない。
釣り場となる水辺は、街とは逆方向に少し馬車で行った場所であった。フウの家の敷地内を移動しただけということらしい。どれだけ広い土地を所有しているのだろうか。
水辺は一本の川の水の溜まり場のようになっており、塞き止められた水の溢れた部分だけが細い川となって、街の方に流れていた。湖というには小さいので、池と言ったほうがしっくりくる。無色透明な水質で、透明度は高かった。魚の影が時々見れる。青々と茂った林と共に、ところどころ枯れ木が水面に突き刺さるように倒れていた。
なんとも神秘的な場所だ。聞こえるのは鳥の囀りだけ。今この場所にはおれとフウとレーナの三人だけしかいない。観光客や地元の住民なんて誰ひとりいない。とても静かだった。
「いいなこの場所。何もせずに寝ていたい」
「ミヤは寝るのが好きだな。それもいいけど、早く釣りをしようよ!」
早くやりたいのを我慢出来ないようで、持っている釣り竿をブンブンと振り回している。
「フウ様、頭にあたりそうなのでお止めください。あ、今かすりましたよ」
「お、お~……。ごめんね」
レーナに怒られてフウはしょんぼりしてしまったようだ。釣り場と思われる木小屋が視界に入ってきたこともありテンションがあがってしまったのだろう。
秘書のような格好をしたメイドさんは教育係的な位置づけでもあるようで、ただただ従順ではなく、フウが悪い事したらしっかり叱るのである。100兆円も資産があって性格が歪んでいるように感じないのは、レーナの教育の賜物なのかもしれない。
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釣り場に着いたおれ達は早速準備に取り掛かった。
鼻歌混じりに釣具に糸とハリを付けていくフウの姿を見ると少し意外に感じてしまった。糸をぐちゃぐちゃにして「できなよ~」とい言う姿が簡単に想像できてしまっていたからだ。
「お願いします」
「はいよ~」
先ほどの教育者的な立場はどこへやら、レーナはまったく出来ないようで、糸を持ったまま硬直した状態でフウにお願いをしていた。意外と不器用なのか、それとも慣れていないだけなのか。
「ここがこうなって……こうっ!」
「なるほど」
うんうんと頷きながらレーナは聞いていた。教えるフウも楽しそうで、見てるこっちも穏やかに気持ちになる。分からないことを気軽に聞ける環境というのは、なんというか、とても久しぶりな気がした。
「フウ先生、お願いします」
だからおれも気兼ねなく聞くことにした。久しぶりの感覚だった。
「しょうがないな~」
フウは嬉しそうに答えると、一生懸命に糸と針の付け方を教えてくれたのだった。




