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MAgU-  作者: 枝まめ
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1.居なくなる少女

 カーテンから穏やかな日差しが差し込む。

 ドンドンドンと廊下に鳴り響く大きな足音で、少年は目を覚ます。

 「おそようお兄ちゃん」

 部屋のドアを勢いよく開いたのは、少年の二歳違いの妹だった。

 「おはよう優花」

 少年はベットから起き上がり、自室のクローゼットの中から着替えを取り出す。

 その様子を見た妹の優花は、兄に「おはようじゃない!遅刻よ!遅刻!!早く支度しなきゃかのちゃんに怒られちゃうよ」と言い、階段を勢いよく降りて行った。

 

 少年は、自室の時計に目を向け時間を確認する。

 現在時刻は8時25分。

 再度時間を確認し、これはやばいと少年は認識し、あわててパジャマを脱ぎ捨て制服に着替える。


 ☆


 学校に到着したのは、一限終了してからだった。


 「おそよう優一」

 一限と二限の間の10分休憩で教室に駆け込み席に着いた少年に声を掛けたのは、隣の席に座る金髪に赤色のTシャツのいかにも悪そうな格好をした少年だった。

 「おはようアキラ」

 アキラと呼ばれた少年は、優一にノートと缶コーヒーを差し出した。

 優一はアキラから受け取った缶コーヒーを手に包みその暖かさを身に沁みさせた。

 「寒くなってきたよな」

 「本当にな……」

 優一は鞄から二限目の授業の教材を取り出し、机に出し、アキラから貰った缶コーヒーを一気に飲み干した。

 そんな優一の方に、メガネを掛けた黒髪の少女がやってくる。

 「おはようございます大宮さん」

 「おはよう上牧さん」

 優一は上牧さんと呼ばれる女性を見て挨拶を交わす。その姿を見たアキラは二人に声を掛けた。

 「上牧が優一に声かけるのめずらしぃな!何かあったか?」

 「あの……そのですね」

 優一は彼女に何か違和感を感じた。

 上牧はそわそわしながら口を閉じる。

 その様子を見て、優一はますます違和感を感じる。

 「奏音は?」

 優一は思わず口にした。

 その優一の言葉を聞いて上牧は口を開く。


 「金曜日の夕方から奏音ちゃんと連絡がつかないのです」


 必死な表情で彼女はそう伝えた。

 何か知らないか?どこに行ったか知らないか?と……。


 全ての授業を終えた優一とアキラと奏音の友人である上牧茜は、奏音の友達を訪ねて放課後の構内を歩き回っていた。

 奏音と連絡がつかないのは教室に居る他の人たちも同じだった。

 容姿端麗かつ品行方正、成績優秀・スポーツ万能で評判の女子高生。学校に沢山の友人が居る彼女に、誰一人金曜日の夕方以降連絡がつかなくなった。

 それは、教師たちも同じだった。

 

 「奏音はどこに行ったんだ?」

 不安はだんだん大きくなっていく。

 「優一ですら知らないってどういうことなんだよ」

 アキラは手に持っていた缶コーヒーを投げ捨てる。


 神隠しはある日突然起こる。

 ある日突然いなくなる。

 雄一とアキラは初めてじゃなかったからこそ不安になっている。

 

 今から8年前に優一とアキラと奏音が姉のように慕っていた女性が突然いなくなった。

 今回の奏音と同じように突然と居なくなった。

 その時まだ幼かった優一たちは泣いて泣いて泣いて、女性の事を思い出にするまで泣き続けた。


 「またかよ」

 アキラは自動販売機で買った二本目の缶コーヒーを片手できつく握る。

 「また大切な人が居なくなるのかよ!」

 アキラは叫んだ。

 雄一はそんな不安でいっぱいで仕方がないアキラの肩をそっと叩いた。

 「僕、いつもの所見てくる」

 そう言い、いつも奏音と見上げるあの坂の方へ走る。


 奏音と憧れる『あの』門がある坂の下へ。

 

 坂に近づくとよく見慣れた影が一つあった。

 「居た……」

 優一は目的の人物を見つけ、胸をなでおろし、呼吸を整えその影に近づく。

 「かのん」

 茜色に染まる坂の下で、坂の上を見つめる赤いリボンを付けた少女が居た。

 少女は雄一の声に振り返り、坂を背に向け微笑む。

 「ごめん……探したよね?」

 少女は雄一の方に向かって歩き、優一の頬に右手を当てた。

 「冷たいね」

 「寒い中必死になって探した」

 雄一は自身の頬に触れた少女の手を掴み抱きしめた。

 少女は雄一の体温を感じ、胸に頭を預けた。

 「ごめんね……ごめんねゆういち」

 そう少女は呟くと、顔を上げ優一から離れる。

 

 少女は再び坂を背に向けた。

 その姿は夕日を後ろにしていたせいか、とても美しく輝いて見えた。

 「ありがとうね。ゆういち」

 「かのん?」

 少し悲しそうな表情で彼女は微笑む。

 彼女が消えて居なくなる。そんな予感がした。

 優一は、再び彼女を居なくならないように抱きしめようと手を伸ばす。

 「……かのん」

 あと少し、あと少しで手が届くのに意識が薄れていく。


 ―魔法の国は本当にあるんだよ―


 最後に聞こえたのはそんな彼女の声だった。

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