ある夏の日のお話 ~ユキ視点~
人生の1ページ
ある夏の日のお話、完結編です。
それでは、お楽しみください。
話を聞いてもらう上で、辛いことや悲しいこと、聞きたくないことだって、あるかもしれない。
だけど、ちゃんと最後まで聞いて欲しい。
私は、トシにそう伝えてから、話を始めた。
ユキ「まずは、あの夏の日の話からだ。」
そう。私たちがキャンプに行った日...。
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2016年8月30日
君は、私たちの前から姿を消した。
トイレに行くと言って、そのままいなくなった。
この日は、私とお母さんで、警察に行った。
8月31日
私とお母さんは、警察に捜索願を提出した。
この日から、トシの捜索が始まった。
捜索隊による懸命な捜索があった。
でも、トシは見つからなかった。
9月1日
捜索隊に増援がきた。
総勢1000人による捜索は、一日中続いた。
けれど、トシにつながるものは、何も見つからなかった。
9月8日
増援がきてから一週間。
まだトシは見つからない。
誰かに誘拐されたのでは?という線でも捜索が始まった。
9月9日
ニュースでも、大きく報道されるようになった。
全国で、トシを探す運動が始まった。
私とお母さんのために、全国の人が、頑張ってくれた。
9月16日
トシは、まだ見つからない。
ニュースキャスターは、
「すでに死亡か。」と報じた。
警察も、この頃から諦めモードに入っていた。
9月27日
だんだんニュースでは報じられなくなってきた。
この頃から、お母さんが毎晩泣き叫ぶようになった。
警察も、あてにならなそうだ。
9月30日
トシの誕生日。
お母さんが、ケーキを買ってきた。
あたかも、トシがすぐそこにいるのかのように、私に振る舞った。
ロウソクに火を点け、誕生日の歌を歌った。
でも、火を吹き消す人がいない。
お母さんは、
「トシの代わりにお母さんが消してあげるね。」と言って、ロウソクの火を吹き消した。
10月1日
トシの捜索は断念された。
捜索開始から一ヶ月以上が経過しており、もう生きている可能性が低い。とのことだった。
たとえ見つかったとしても、もう手遅れだ。とも言われた。お母さんは、「大丈夫です。もう見つかりました。」と言った。
11月1日
お母さんが、トシの部屋を掃除していた。
とても、笑顔だった。
12月1日
お母さんが、トシの写真を眺めて泣いていた。
でも、とても笑顔だった。
12月24日
お母さんは、
「今日はクリスマスイブだね。トシ、何か欲しいものはある?サンタさんが来てくれるかもしれませんよ。」
と、一人で喋っていた。
晩には、大きいケーキを買ってきた。
12月25日
お母さんが亡くなった。
ーー自殺とみられている。
死ぬ直前まで、トシの名前を呼んでいた。
その声は次第に薄れていって、最後は聞こえなくなった。
12月31日
私一人の大晦日は、この日が初めてだった。
2017年1月1日
今日は元日。
私は一人で初詣に行った。
子供連れの家族を見ると、どうしてもトシと、お母さんのことを重ねてしまう自分がいた。
2月3日
節分の日。
いつもなら、私が鬼の面をかぶるところだが、豆を投げてくれる人がいない。
3月10日
私の誕生日。
いつもなら、誕生日の歌を歌って、みんなでケーキを食べる日だ。でも、祝ってくれる人がいない。
4月12日
お母さんの誕生日。
いつもなら、誕生日の歌を歌って、みんなでケーキを食べる日だ。......祝われるべき人がいない。
5月、ゴールデンウィーク
いつもなら、家族で旅行に行く。
......私に家族はいなかった。
6月25日
お母さんが亡くなってからだいたい半年くらいのある日。
お母さん遺書を見つけた。
私は読まないで捨ててしまった。
7月15日
だんだん暑くなってくる。
トシがいなくなって初めての、夏。
いつもなら、海に行こうだの、バーベキューをしようだの、言われる......はずだった。
8月27日
トシがいなくなったキャンプ場に、バーベキューをしに行こうと、思った。
トシがいなくなって、ちょうど一年が過ぎようとしていたその3日前に、ふと思った。
2017年8月30日
トシが見つかった。
1年前のその姿のままで。
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私は、トシがいない時間を、一年間過ごした。
いつか、きっとトシが帰ってくる。
きっと、まだ生きている。そう思って、一年間過ごした。
でも、お母さんの姿を見ていると、羨ましかった。
トシはどこにもいないのに、まるで目の前にトシがいるかのようだった。
お母さんは、気が狂っていたんだ。
トシがいなくなった悲しみで。
このままだと、この先一生苦しみ続けて、幸せな人生を送ることができない。
私は、そう思った。
私は、トシとお母さんへの愛があったからこそ、トシとお母さんが大事だったからこそ。
ーーお母さんをこの手で殺した。
お母さんは、とても幸せな顔をしていたよ。
最後まで、トシの名前を呼んでいたよ。
トシ、トシ、って。
今君が、20歳になって、大人になった。
私は、とても嬉しく思うよ。
君が謎の失踪をしていた一年間、君がどうしていたのかはわからないけどね、私は心に決めていたんだ。
君が帰ってきたその時は、私が責任を持って、君が成人するまで育てるって。
そして、今日君は、めでたく成人した。
ーーおめでとう。
君の人生から抜け落ちた1ページの分も、これから先の人生で補っていけるように......頑張ってくれ。
そして、今までありがとう。
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私の役目は、終わった。
トシに伝えるべきことは伝えた。
やるべきことも、やった。
トシが見つかってから、16年後。
2033年4月12日
今日は、お母さんの誕生日。
誕生日の歌を歌って......私は人生という本に
ーー別れを告げた。
設定では、トシが1年をすっ飛ばしている間に、普通に一年を過ごしていた父、母が病んでいく。といったことになっています。
最後は表現を曖昧にしましたが...つまりそういうことです。バッドエンドしか見えない。
本作品を読んでくれた読者の方、どうもありがとうございました。本作品は、今話で完結です。
私に次回作に、ご期待していただけると、嬉しいです。
それでは、またいつかお会いしましょう。