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女王もろとも死んでしまえばいい 前編

再投稿です。たのしんでください!

眠りから覚めたら路地裏にいた。類似している世界にトリップしていまったようだった。うろうろとしていたら奴隷商人のオジサンに売られそうになって、その時赤の花飾りをしたベルに助けてもらう。ベルに出会ったのは幸運だった。異世界で生きていけるようになったのもベルのおかげだったけど、私の心の片隅を占領しはじめようとしているダクトがいた。ねえ。私が汚れた身になっても思ってくれますか?



「あんたらみたいな腐った人間。女王もろとも死んでしまえばいいんだよ」




・・・


そこに私の意志はなかった。神に抗うことが出来ない私はこの世界で強制的に生きることになったのが5年前になる。15歳の朝、目を覚ますと王都の街にいた。寝間着姿の私を見た大人は、私を孤児だと判断し連れて行こうとしたのだが、そこに男みたいに短い髪に小さな赤い花の髪飾りをした人が助けてくれた。


彼女の名前はベルという。私より3歳年上の彼女はこの時から私を妹と呼び一緒に暮らすようになったのだった。


「ちょっとちょっとおじさん。この子は孤児じゃなくて私の妹よ!まさか、連れて行こうってわけ?」

彼女の声はとてもはきはきとしていて、良く通る声だった。私の腕を引っ張って行こうとしたおじさんはきまりが悪い顔をして去って行った。


「あなた、ここは王都でも女性が一人で歩くと危ない地区よ」


腰が抜けて座り込んでいる私に目線を合わせて話すベルはとても綺麗な女性だった。


「あ、あのさっきの人は誰ですか。しかも、ここは・・・」

「奴隷商人じゃない。おかしな子。あなた、その恰好で王都まで来たわけじゃないんでしょ?」


どうにか立ち上がって砂を払った私を上から下まで見るベルに少し恥ずかしい気持ちになった。


「今、頭がおかしくなってるみたいなんです」


・・・


この世界は、私が知っている世界にとても似ていたけど全然違った。パソコンも携帯もあるのに少し昔の形をしているような微妙な違い。服装も似ているようで少し違う。人種も様々だった。

ベルは茶髪に茶色の目。肌が白いせいかそばかすが目立つがそれも彼女の短い髪に良く似合っていた。


少し違うこの世界だが、私の世界より文明が進んでいる気もする。高層ビルがあるのは同じだが中に入ると透明なパネルがパソコン替わりだったり、耳に触れただけで通話したり。ようは、貧富の差があるようでこれを知ったのは王都に住み始めて一ケ月後だった。


最初の一か月のほとんどはベルの家で一日中泣き喚き、元の世界に返してくれとベルに懇願する毎日だった。ベルの古びたアパートの浴室で自殺未遂もした。15歳の私はとても弱かったのだ。それでも、私を見捨てなかったベルにはどう恩返ししたらいいか分からない。


この狭い部屋に二段ベットが置かれるようになったのはこの世界で生きていこうと決心してからだ。狭い部屋にはベットは二つは入らないのでベルの仕事場の人からお古の二段ベットを譲って貰った。次の日、私もベルの仕事場に仕事を貰いに行くことにした。


この世界にはギルドがある。ようは何でも屋が色んな人に仕事を振り分けるのだ。私もこの日ギルドに登録した。


「ベルお姉ちゃん・・・。本当に私でも仕事出来るかな」

「もちろんよ。大丈夫!そんなに難しい事はないわ」


ベルはこのギルドの事務員をしている。受付に来た人にあった仕事を振り分けるのだ。私も今日から仕事をすることになった。紹介されたのは、A地区の大きな貴族の屋敷に荷物を届けることだった。ここから徒歩で行ける距離なので地図と荷物を持たされた私はベルに背中を押された。


「お姉ちゃん・・・」

「・・・そんなに憂いた顔しても駄目よ!決めたんでしょう。頑張るって」

「うん」


きっと貴族だから私みたいな平民が行ったら顔をしかめて罵倒を浴びせるんだろうなとか、着いたら何て声かければいいんだろうとか色んな事を考えたけど、貴族様と直接会う事は無かった。大きな鉄格子にあるチャイムを鳴らすと召使が出てきて書類にサインをすると仕事は終わった。上の人間が私達に罵倒するなんてないんだ。だって、顔さえ見せないんだから。


この仕事はしょうにあっていた。元々、運動部だし走ったり歩いたりと体を動かすことは好きだったので荷物を届ける仕事は私にあっていた。ベルの洞察力にまた驚く。


この世界には国が無数にあるがカルビタ王国は、王もしくは王女が国を治めている。民主義国家ではないので政治の決定権はすべて統治者にあるわけだ。だから、こんなに貧富の差が激しく私がベルト出会ったB地区のような所が存在するのだろう。


「あ!ダクトさん!」


仕事が全部片付いてギルドに戻る道にダクトの後ろ姿が見えた。ツンツンと跳ねた金髪の髪は良く目立つ。


「お疲れダクトさん。今からギルド?」

「ああ。今回の仕事が終わったから報告にな」

「そうなんだ。じゃ一緒にいこう」

「おう。・・・。これやる」

「これ私に?」

ダクトの手には花のネックレスが握られていた。


「どうして?」

「たまたまだ。寄った店でおやじに買わされた」

「いいの?ダクトさん、その・・・こういうのはダクトさんの彼女にあげたほうが」

「彼女いない。俺は女の知り合い多くないからな。ミライにやる」

「嬉しい!!有難う!!」

実を言うとダクトに彼女がいない事を願ったのは秘密だ。彼に引かれつつある乙女心に傷を負いたくないからだ。ネックレスを付けてくれると言って後ろを向くと彼の吐息と少し遠いけど体温のような温もりを感じて顔が熱くなった。


ダクトさんはベルの幼馴染である。2人とも18歳で私とは3歳離れている。


ここの世界に来て丁度3か月半にベルからダクトさんを紹介された。ダクトはS級のメンバーなのでC級の私とは違って、危ない仕事やお金持ちがお金を積んで仕事を頼むような大きな仕事をしているせいで滅多にギルドで会う事がない。


ベルとダクトさんが会うと口喧嘩から始まる。お姉ちゃんがギルドにはちゃんと報告に来てとかああだこうだとダクトに猛攻撃するが、ダクトは片耳を塞いで溜息をついてばかりなのだ。


疑問に思った私は質問をした。


「二人は恋人同士?」


「はい!?」

目から目玉が零れ落ちそうな程のベルは絶対ないと言って否定した。


「こんな朴念仁と恋人同士なんて太陽が爆発して世界が滅びても一緒になりたくないわ」

「俺もだ。それにこいつにはもういるしな」


「え?」

その事実の方が驚いた。ベルにはすでに男がいたようだ。


「お姉ちゃん本当?」

「ち、ち、違うわよ・・・その・・・」


「ああ、付け加えると片思い中な」

「え!?そうなの!?誰!?」


ベルは顔を真っ赤にして誰にも言うなと言って耳打ちした。


「え!!!!!!!ギルマスのトキスさん!?!?!?」

「ミライ!!!声大きいわよ!!」


私は吃驚して大きな声をあげたらベルが口を塞いで真っ赤な顔が更に茹で上がったタコのようになった。ギルドマスターのトキスさんはつい先月、代替わりして若いのにやり手のギルマスだと評判がいいのだ。しかし、問題はベルはまだ18歳に対してトキスさんは34歳と歳が離れすぎている。しかし、ベルの片思いは長い物でトキスさんが無名のメンバーだった頃からの知り合いらしく、彼の優しいけど目の奥に潜めた鋭さに一目惚れしたしたという。



ダクトとギルドに帰ると、事務員の休憩時間のようで、ベルとトキスさんが何やら楽しそうに話していた。今日で私がこの世界に来て3年目になる。ベルは良く笑う素敵な女性になったし、私も身長が伸びて髪も随分伸びた。私が異世界人だと知っているのはギルマスのトキスさんとベルとダクトだけだ。今夜、皆で私がここまで頑張ってきた事を記念してお祝いパーティーをしないか話していたようだった。


「いいの?私なんかのお祝いなんて・・・」

「私なんかって何。ミライは私の大切な妹でしょ!それとも私なんかの姉も大した事ないって事?」

「ち、ちがうよ!お姉ちゃんは凄いよ!綺麗だし、魅力的だし・・・」

「もうちょっと、自信を持ちなさいミライ」


ベルは私に自信を持てと言いながら頭を撫でてくれる。撫でられて恥ずかしいと思う歳になっても撫でてくれるのだ。


「ミライちゃん。ちょっといい?」

「はい。なんですか?」


休憩時間が終わって仕事に戻ったベルを確認したトキスはミライに声をかけた。


「実は、今日のお祝いの途中でベルに結婚の申し込みをしようと思うんだ」

「え!?ほ、本当に!?どうして急に」


「ベルが私との未来を考えてくれているのは知っていた。でも、私達は歳が離れすぎている。それで、私は簡単に彼女に結婚しようなんて言えない。彼女は若いから俺よりずっといい男と結婚だって出来る。若さは無限の可能性を秘めているからね」


途中、トキスの一人称が変わったので彼が本気で彼女との結婚を考えていると分かった。


「きっと、お姉ちゃんも喜びます。待ってたと思いますよ!だって、トキスさんの事大好きですもんお姉ちゃん」


お姉ちゃんが一回目の告白でトキスに振られてもめげずにアタックして付き合う事になっった時も号泣して次の日目を開けられなくなった事を思い出した。



・・・


早めに仕事から上がらせて貰った私とお姉ちゃんは家に帰ってパーティーの支度をした。ギルドの客間を貸して貰えることになったので、本格的に普段しないお洒落をしようと2人で言った家に帰ってきたのだ。私は一日中動き回ってせいで足が疲れたので、二段ベットの二階の自分のスペースで足を延ばしていた。


大してベルは鏡の前に座って、髪をとかしている。


「お姉ちゃん。いつもありがとう。今日はきっとお姉ちゃんにとってもいい日になるよ?」

「なーに急に。今日の主役はミライよ」

「それでも、トキスさんに会うんだからいつもよりお洒落してよね!」

「トキスさんにはいつも会ってるじゃない」


クスッと笑ったベルは本当に綺麗だった。


私は目を閉じて暫く休んでいると、ベルが呼んだ。


「ミライ。頼みたい事があるんだけどいい?」

「何?」

「パーティーの買い出しを頼みたいの」

「そこで作るんだっけ?でも、ギルド行きながら買えばいいじゃないかな」

「今頼みたいんだけど」

「え~もう少し休んじゃ駄目?」

「お願いだから今行ってくれる?」

「・・・。分かったよ」


面倒だなと心では思ったけどしぶしぶ私はベットから降りて財布をポケットにしまった。


いまだ、鏡の前に座って髪をとかしているベルに私は「何買えばいいの?」と少し冷たい声で言う。


「そ、うね。ミライが大好きなイチゴタルトを買ってきて」

「分かった。行ってきまーす」


出かけるときに見たベルの顔はいつもと違って笑顔が不自然だった。


たまにご褒美として買うラビットのケーキ屋からイチゴタルトを購入して、帰り道を急ぐ。時計を見たらパーティーの約束の時間に近づいていたからだ。


夕暮れの空が段々と暗くなるのが見える。少しベルに冷たくしたなと反省して帰ったら謝ろうと思った。向こうからは、マントに身を包んだ男が歩いてきていた。暗くなり始めた空とこの男の不気味さになんだか少し怖さを感じた。すれ違いざまに男を見たら真っ赤なルビー色の目だけが浮かび上がっているように見えた。


「うう。怖い怖い。早くかーえろ」


タルトが崩れないように小走りする。


「ただいま。って暗いよ。お姉ちゃん、そろそろ急がないと遅刻するよ」


家についたころには真っ暗になっていて、部屋に電気もついていなかった。タルトをテーブルに置いて電気をつける。


そこには、喉元にナイフが刺さっているベルが倒れていた。


「お、おね、えちゃん?」


真っ赤な血は白いカーペットを染め上げ開いたままの目あらは涙の跡が残っている。


「あれ?な、にこれ」


視界が涙でぼやけているのを感じた。空中を見たまま死んでいるベルは本当にベルなのか。


「嘘。う、そだ・・・」


部屋は誰かと争った跡があって物が倒れている。目についたのは真っ赤の文字だ。ベルが座って髪を溶かしている時に使う大きな鏡にはこう書いてあった。


『お前も、お姉ちゃんがいなかったら同じように死んでいた』


震えが止まらなくなった。全身の毛穴から汗が吹きでて体は小刻みに震えだし、吐き気に襲われた。


ベルは私を助ける為に、わざと使いを頼んだのだ。この鏡はベットと向かい合っていて、ベットの下に隠れていた男をベルは鏡を通して見てしまったのだ。


それからの事はよく覚えていない。うずくまって震えと吐き気に耐えていると家に誰かが入って来る音がして意識を戻した。


「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」


きっと、お姉ちゃんを殺した奴が戻ってきたんだ。殺さないでお願い。


「こ、れは、どういうことだ」

声の主はトキスだった。


「ベル・・・。そんな。嘘だ。ベル!!!」


トキスは血で汚れるのも構わずベルの上体を起こす。頬に触れて体温を確かめるも、それは無駄になってしまった。


「ベル・・・。嘘だろ。行かないでくれよ。俺は、俺は、君に告白しようとおもったんだ。結婚しようって言おうと思ったんだぞ。嬉しくないのか?なあ」


トキスは涙を流しベルを抱き寄せた。


ああ。私のせいだ。私が死ぬべきだったんだ。お姉ちゃんは幸せになる人だったのに。あの笑顔もこれからもずっと見れると思ったのに。


「ミライ・・・」

私の肩に手を乗せたのはダクトだった。


「出るぞ」


そう言って、横抱きすると部屋を出てどこかに連絡を取る。保安官が来ると事態は周りも巻き込んだ。アパートの住人は保安官の車から出る音と赤いランプで、何だと思いドアから顔をのぞかせていた。


「嘘だよね。ダクトさん。お姉ちゃん死んでなんかないよね。あれ嘘だよね?今日お祝いだからドッキリしようと思ってやってるんでしょ?ねえ」

椅子に座っている私の前に片膝を立てているダクトは私の手を握っていた。


「・・・。ミライ」


「私、私。最後冷たく接しちゃった。お姉ちゃん、頑張って笑ってたんだよ。気づくべきだったんだ。おかしかった。・・・お姉ちゃん泣きそうな笑顔だったんだよ・・・」


今になって分かったのだ。あの不自然な笑顔は私を守ろうとしていつも通りの笑顔を作ろうとしたのだ。犯人にばれないように。


「私が死ぬべきだった。私が死ねば良かったんだ。今日、お姉ちゃんの結婚記念日になる日だったんだよ?あんなに・・・あんなに優しいお姉ちゃんが死ぬなんておかしいよ。私が死ねばいんだよ」


「ミライ」


「お姉ちゃん返してええ」


私はダクトに抱き付いて涙を流した。こぼれ出る声も嗚咽も隠せないくらいに心は乱れていた。お姉ちゃんの死体が目を閉じても瞼に浮かび上がる。開いている目から流れた涙は誰に向けてのものだろうか。私を恨んでいるのだろうか。好きな人と結ばれなかった悲しみからか。もう、何もかも分からなくなっていた。


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