かわいい子には裏がある?①
授業が終わって午後の町を四人で歩く。
「まったく……なんでこんなめんどくさそうな依頼受けちゃうのよ、ピッドは……!」
「まぁまぁリメイさん。ピッドさんですからしょうがないですよ、ほらここ」
<依頼主>
ミシャエラ・リルト・フリューゲル
<依頼内容>
迷子になったマリアンヌをさがしてください。
マリアンヌはピンクのリボンを付けた白い子犬です。
「はぁ。つまりこのかわいい子犬のマリアンヌちゃんとやらを見たいって事ね」
「ピンクのリボンが似合う白い子犬ちゃんだよ!しかも名前がマリアンヌ!かわいいに決まってるじゃないか!」
既にピッドの頭の中は白い子犬と戯れる妄想で一杯のようで顔がにやけている。だいぶ気持ち悪い。
「ピッド、顔がキモいわ。ちょっと離れて歩いて下さる?」
心底嫌そうな声でリメイに言われる。しかしさっぱり聞こえていない様子……
「白い子犬ちゃんか~。プードルかなマルチーズかな……チワワとかもいいな、ふふふふ……」
「だめだこりゃ。全然聞こえてなさそう。まぁさっさと依頼主の所に行って詳細を聞いてきましょ」
「そうですね。えっと依頼主は貴族の方なんですね……。しかも二位のリルトです。初めの交渉はリメイさんにお願いしたほうがいいかもしれないですねぇ」
ミーナが依頼書を見ながら説明してくれる。
ちなみに貴族の持つ爵位はミドルネームで判別される。上から一位のレシュラ、二位リルト、三位ミース、四位グレア、五位イーサ。そして特別な理由で与えられるワイトの六種類。
貴族の中には爵位を持たない相手にやたら横柄な人もいるのでこういう場合の交渉はリメイが出ることにしている。あんなでも一応貴族だし。
「一応とか余計だから!」
「な、なぜ考えていることが分かった!?」
「まぁとっとと終わらせましょ。ペット探しなんて精霊に手伝ってもらって人海戦術ですぐ終わるでしょ」
「あぁっ!マリアンヌちゃん!すぐに助けてあげるからねっ!」
『ピッド(さん)、きもい(です)』
というわけで到着した依頼主の屋敷、だけど……。あの巨大な建物が犬小屋ってことは無いよね……?
「室内犬じゃなさそうね。小さく可愛いワンコなら外に小屋は作らないだろうし」
「っていうかあの小屋でかすぎない?」
「犬や馬どころか小さなドラゴンでも入れそうですねぇ~」
なんか嫌な予感がするけど。
「まずは依頼主に話を聞きに行こう。マリアンヌちゃんの特徴も聞かないとね!」
まだ張り切っているピッドを先頭に入り口へ向かい呼び鈴を押す。そろそろ現実を見るべきだと思うんだ……
チラッと見えた巨大な小屋の入り口には確かに「まりあんぬ」の文字が……あのサイズの犬。犬……?え、マジであのサイズの犬っているの……?軽く熊が入れるくらいのサイズなんだけど。
依頼を受けて訪問した件を門番に伝えて応接室に通される。待つことしばし、依頼を出したと思しきご令嬢がメイドを従えて現れた。
「初めまして。リメイ・イーサ・コルネットと申しますわ。依頼を頂いたペットの捜索の件でお話を伺いに参りました」
「まぁまぁ!こんなにすぐに依頼を受けて頂ける方がいるなんて素晴らしいですわ!依頼に行った際にはペット捜索はなかなか受ける人が少ないと聞いていたので……なかなか受けて頂けなくてその間にマリアンヌに何かあったらと思うと夜も眠れなくてっ!」
「かわいいペットの為なら例え火の中、水の中、森の中ですよ!必ず見つけ出してみせ……がふっ」
「ちょっとピッドは静かにしていて頂戴。それでそのマリアンヌの特徴をお聞きしようと思って参りましたの。外見の特徴をまずはお聞きして後はいつどこで行方が分からなくなったかを教えて下さいます?」
背後に立っていたピッドをどこから飛び出したのか分からない鈍器の一発で沈めて静かになった所でリメイが話を進めていく。
「そうですわね。まずマリアンヌは真っ白な体をしていますの……。それにあのふわふわの羽のような毛がたまらなく気持ちいいのですわ!」
……羽、のような……?あれ、犬の毛ってもっとどっちかというと毛糸っぽい感じじゃないんだろうか?言うならもふもふ?
「なるほど、マリアンヌちゃんは天使のような白いふわふわの子ってことですね!」
「そうですの!貴方にはわかりますのね!家の者たちはみな分かってくれなくて……」
「えっと。それで最後に見かけたのはいつでどこでいなくなったのでしょう」
余計な所で意気投合して話が進まなくなりそうだったのでとりあえず必要なことを聞いてみる。この分だとお嬢様の相手はピッドに任せておいて良さそう。もういっそ存分に語り合ってて下さい……。世話は本人ではなく使用人がしていると思われるので依頼主の相手はピッドとリメイに任せてミーナと二人で使用人へ聞き込みをさせてもらう。
「さーて。どうしよっか……。私の嫌な予感だとどうも子犬じゃない気がするのよね」
「まぁ、ミルさん。奇遇ですね、私もそう思います……。あの小屋のサイズといい話を聞く姿といい……」
「そもそもあれだよ。いなくなった状況の確認で『飛んで出て行ってしまったのですわ!』ってどういうコトデスカ」
「子犬は飛びませんわね。どう考えても」
二人で顔を見合わせてため息をつく。どうも厄介ごとのようでした。
とりあえず使用人の人々に話を聞いていくことにした。
――聞き込み中――
そしてこれが数人の使用人に聞いて回った結果である!
メイドA「マリアンヌ様……ですか。手触りがすごくいいんですよねぇ。さらふわですよ。まぁえっと……お嬢様はその……思い込みが激しくてですね、あの~、その……ごめんなさいっ!」
庭師B「マリアンヌかー。賢いよなぁあいつは。だからまぁ……自分からいなくなったんじゃないかってわしは思うがな。まぁなんというか……すまん」
執事C「お嬢様はちょっと……物知らずな所がありますが悪い人ではないのです。あ~……諌めきれずマリアンヌ様をそのままにしてしまったのは我々の落ち度でもありますのでどうか責めないで頂きたいのですが。マリアンヌ様は知能が高いので我々の悩みに気づいて姿を消したというのが我々の見解です。いえ、その……結局外部の方にご迷惑をかけることになってしまい申し訳ありません……」
飼育係D「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」