表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

神の舌を持つ男

作者: さきら天悟

神の舌を持つ男がどうやってC国の経済を混乱に陥れたのか、

みなさん、推理してみてください!!

「この塩梅あんばい、それにこの雑味。まがい物だ」


塩梅とは塩味のことである。

彼は誰よりも味覚が敏感で、すべての味覚を記憶できる能力を持っていた。

一年後、この店は閉店した。いや跡形もなく、粉々になっていた。

それがキッカケで、彼は神の舌を持つ男と呼ばれるようになる。

その後、彼はその舌の能力を覚醒させ、C国経済を崩壊させた。

ここにその物語を綴ろう。。




少年時代、彼の家は貧しかった。ただ、三度の食事はできていた。

が、オカズは乏しく、2週間に1度の肉が入っていないカレーがご馳走だった。


「ねぇ、明日もカレー作ってよ」

彼は母親にねだった。この頃には彼も自分の家が裕福ではない自覚があった。

でも彼は、カレー粉で作っているからお金はかかってないと見抜いていた。


「だめよ。うちにはお金がないから」


「カレーならお金かからないよね?」


困った顔の母親は何か決心したようね笑顔を作った。

「ご飯一杯食べるでしょう」


一瞬で理解した。いつもよりご飯を多く炊く。

それだけでは彼の食欲は収まらず、母親はいつも自分を彼に分けていた。

それ以来、彼は母親に何もねだらなくなった。

それにご飯やオカズを分けてもらうようなこともしなくなった。




「あれ味が違う?」

彼は同じ野菜でも味が違うことに気付いた。

不思議なことにサラダの量が多い時の方が美味しいのだ。

この頃、彼は給食に興味を持った。

自分の家と違っていろいろな食材を味わうことができたからだった。



「この野菜、今が旬だからな。

それで多く取れて、値段が下がって、給食の量も増えたんだろう」

担任の教諭がこう教えてくれた。

彼は食べ物に旬があることを知った。


それから彼は畑に育つ真っ赤なトマトやたわわに育った柿を盗み食いした。

腹を満たす目的ではなかった。

どんな味がするのか知りたくて、好奇心が抑えきれなかった。


「腐りかけが上手いって本当だな」

彼は実感した答えだった。


「この土、不味くない」

彼は畑や畑の場所によって、野菜の味が違うことに気付いた。

そして土を食べてみた。

味が少し劣る野菜が育った畑の土には微妙なエグミがあった。

彼は土でだでなく、花や昆虫も口に入れた。

ハチやセミや蟻は美味しい、ミミズやムカデは苦かった。

毒のありそうなものでも口にした。

食せず、舌の上にのせ、真剣に味わった。

この少年時代の経験が、彼の舌を育てていったのだった。



大学生になっても貧乏だった。

奨学金で授業料をまかない、バイトして生活費を稼いでいた。

そんな彼はゼミで少し浮いた存在になっていた。


「前期テストの打ち上げで、みんなで焼き肉に行こうぜ」

ゼミでリーダー的な太田がみんなに声をかけた。


「賛成!」

「私もOKよ」

彼以外のゼミメンバーは賛成した。


彼は瞬時に計算した。

太田は人気のイタリアンレストランでバイトをしている。

食べ放題のような店を選ぶ男ではない。

ビールを飲めば、一人5000円かかると。

でも、そんな持ち合わせはなかった。


「焼き肉は肉を食べるのに最高の食べ方じゃない」

彼はみんなに視線を合わせず、壁を見つめたまま言った。

お金がないとは言えなかった。若かったのだ。

しかし、彼は焼肉店に行ったことが無く、想像で言い切った。


「なぜ、最高の食べ方じゃない?」

太田は問い返した。


「プロと素人の一番の料理の違いが分かるか?」

彼はまた問いで返した。


太田は天井を見つめ、一つ息を吐いて答えた。

「火加減だな」


「そうだ。さすがだな。素人が薄い肉を自分で焼く。

それも話に気を取られながら。

そんなことで上手く肉が焼ける訳がない」


「…」太田は黙った。

みんなで話しながら食べるから、美味しいんだ。と言いたかった。

が、最近、太田に料理人として自覚が芽生えてきていた。

「じゃあ、ステーキか?」


「ステーキだと、どんどん火が入ってしまう。

究極はローストビーフかな」

彼はどちらとも食べたことが無く、テレビと漫画の情報で語ってしまった。


「ローストビーフか。確かにそうかもしれない。

でも、焼き肉は最高だ!こいつをほっておいてみんなで行こうぜ!!」

太田は彼からみんなの方に振り返った。


「賛成!!」

「そうよ、焼き肉、最高!!!」

結局、焼き肉に決まった。でも、彼は参加しなかった。




半年後、卒業の打ち上げを焼き肉でこうなうことになった。

今度は彼も参加した。


「美味しい」

彼は人生で食べた物で一番美味しく感じた。

感じたのだ。但し、一番美味しかったものではない。


水を差したことに後悔して、一人焼き肉に行ってみた。

やはり、想像通りの味だった。


雰囲気は重要なんだ、と今日初めて実感した。

落ち着いた庭園が見える所で食べる和食、豪華レストランで食べるフレンチ。

そこには意味があったのだ。

焼き肉を一人で静かに食べても美味しいはずもなかった。


「ごめん。やっぱ、焼き肉、最高!」

彼はこう言って太田に謝罪した。


「気にするなよ。でもローストビーフは本当に美味いよ」

すでに和解していた。

彼の貧乏はみんなに隠しきれるものでもなかく、みんなは彼を許していた。



大学卒業後、彼は一次志望の商社に就職した。

食品を専門に扱う商社だった。

世界の珍しい食品を輸入したり、日本の食品を世界に広めたかった。

彼は輸入部署に配属され、日々海外と往復していた。

激務だが、充実していた。

しがし、悩み事もあった。

C国の輸入品のことである。

十分、事前調査をして輸入を決めるのだが、

その後、勝手に工程を変えてしまう。

不衛生や多少の不純物はお構いなしだった。

それだけでなく、カサ増しするため、わざと安い代用品を入れたこともあった。

C国を取引する時、彼は常に胃が痛かった。

もし、問題が発覚したら輸入商社が回収の責任を負うことになる。

会社に莫大な損害を与えないか、気が気じゃなかった。


でもそんな彼を癒すのも食べ物だった。

お金に余裕ができた彼は、いろいろな店や食材を食べ廻った。




就職して3年が経った。

彼の人生を変える転機になった時だった。


久しぶりにゼミのメンバーが全員集まった。

海外出張が多い彼は、これまでずっと欠席していた。

今回は彼の予定に合わせていたのだ。

それを決めたのは、太田だった。


「今度、イタリアンレストランを開くんだ」

太田は宣言した。


「どこに?」

誰かが質問した。


「相模原市の橋本」


「神奈川県の?どうして?」


情報通の彼はすぐに理解した。


「リニアモーターカーの駅ができるんだ。

今、ビルが建設ラッシュで、チャンスと思うだ」

太田はいつもになく、はにかんで言った。


おー、みんなの声が上がった。


「おめでとう」

彼は太田とガッチリ握手した。


太田は握手した手を少し強引に引き寄せ、ハグをした。

「お前、開店前の試食会に絶対に来てくれよな。

俺の自慢のローストビーフ食わせてやる。あれから研究したんだ」

太田は耳元で彼に囁いた。


「ああ、絶対に行く」

彼は即答した。



8ヶ月後、彼は橋本の太田の店に行った。

駅から歩いて5、6分のマンションの1階にその店はあった。

意外だと思った。

彼は、太田ならもっと豪華で内装にこだわると思っていた。


「学生でもちょっと奮発すれば入れるような店にしたいんだ」

太田は彼の表情を見抜いて言った。


店には出資者らいし銀行関係者、内装業者、食品取扱業者、近所の住民が招待されていた。

大学のゼミメンバーで出席したのは彼だけだった。

平日で、全国に散った他のゼミメンバーは参加できなかった。


太田が招待客に短く挨拶し、すぐに料理を接客係に出させた。

招待客は立食形式でそれそれの料理を試食する。

招待客がオードルブルに並び始める中、彼はローストビーフを待ち、一番に並んだ。


「…」何も言えなかった。

脂身が少ない赤身の肉質、火加減、ソース。見事にハーモニーを奏でていた。


「どうだ」

太田は彼に感想を聞いた。


「美味い」

彼は素直に言った。


「ありがとう」

太田は銀行関係者の方に歩いて行った。


ふー、と彼は息を吐いた。緊張していた。

もしも、不味い感じてしまったら、どうしようかと思っていた。

口を出すべきかここに来る電車の中でずっと考えていた。

これなら間違いない。本物だ。

彼の背中に抱えていた荷は無くなった。


いろいろ試食すると、あることに気付いた。

「しょうがない。問題は無いみたいだ」

C国産の食材を数点使っていた。

価格を抑えるのには、やもえないだろ。

あとで食材を絶えずチェックするようにアドバイスをしようと決めた。


緊張がなくなると、ある違和感を覚えた。

C国で体験したことだった。

彼はトイレで頭を冷やした。

でも、その感覚は収まらない。

彼は関係者用の扉を開け、奥に入って行った。

そこには食材が入った段ボールが並んでいた。

C国産の乾燥キノコだった。

彼は柱に額を付けた。

冷たいコンクリートの柱で頭を冷やしているようだ。


彼は目を瞑り、数分間、沈黙していた。

目を見開き、クッと顎を上げた。何か決心したようだ。

彼は招待客が集まるホールに戻った。



「この店危ないぞ」

彼は太田に囁いた。

太田は表情に出さないようにしたが、わずかに眉が寄った。

[後で話そう」

太田は彼から離れ、招待客の対応に戻った。



1週間後、店は予定通りオープンした。

予想通り、繁盛した。行列を作るほどではないが、どんな時間帯でも客がにぎわっていた。


だが、5ヶ月後突如、店は閉店となった。

前日も込み合い、予約も埋まっていた。


ふーッとため息をついた太田は独り言を呟いた。

「良かった被害が出る前で。あいつに感謝だな」


その夜、その事件は大々的なニュースとなってテレビで報道された。


『欠陥マンション発覚!』


コストを下げるため、海の砂が使われていたことが判明した。

そのため、中の鉄筋もすでに腐食がかなり進んでいるということが検査で判明したのだ。


この検査を進めたのが彼だった。

彼はあの試食会でなぜか違和感を感じ、倉庫のコンクリートを舐めてみたのだ。

その時、彼は塩味を感じ、鉄分の酸味を感じてしまった。

迷った挙句、太田にマンションの構造検査を進めたのだった。


太田は最初に聞いた時、驚いたが、そんな冗談を言う彼ではないと分かっていた。

内装業者、マンションの住民とも話し合い、数十万の費用がかかるが、検査を行うことにしたのだった。


マンションの建設業者は一部上場企業だったが、下請け、孫請けに丸投げだった。

当時の橋本はビルの建設ラッシュだったため、資材が高騰し、

孫請け会社が利益を確保するために行ってものだった。


太田は相模原市内で別のビルに移転した。

閉店前についていた客とテレビのニュースで知った客でさらに繁盛した。

そこで太田は客に自慢した。

「俺には神の舌を持つ友人がいる」




もう推理できたでしょう、C国経済が崩壊した理由が。

その話を聞きつけた投資ファンドが彼に調査を依頼したのだった。

C国のビル、マンションを。

結果は予想通り手抜き工事が多かった。

この噂でビル、マンションが値崩れしC国の経済は崩壊したのだった。



面白かったら、前作の『万引きがえし』(推理)も読んでみてください!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ