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うぅ。僕、魔法少女になっちゃった……  作者: 鍋島而今
第1章 バルク<冥土の土産>にようこそ!
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第7節 『歓迎会! えっ、僕のじゃないの!?』

 時間は過ぎて、夜の喫茶店店内。


「それじゃ、二人の新人に――かんぱーい!」

「かんぱーい♪」

「乾杯……」


 二人を除いて、空気が重~い歓迎会が始まった。

 この日のために用意してくれていたのだろう。ステーヂ側の壁に【大美ちゃん&薫くん 着任おめでとう♪】と書かれたどでかい垂れ幕がかけられていた。


 会議用大テーブルに目を移そう。

 パーティには付き物の大皿料理がこんもりと用意されていた。肉料理、魚料理、スープ、ごはん、サラダ、デザートまでたっぷりと。


「ほらほら、どんどん食べるといい」

 隊長は僕の皿を取り上げ、フライドチキン、マグロのカマ、シーザーサラダをひょいひょい取り分けてくれた。


「キッ!」

 でも、そんな甲斐甲斐しい隊長の姿を見た廻理ちゃんは眉を吊り上げる。

 ――うぅ、本当に生きた心地がしないよぅ。


「大美ちゃんもどうぞ」

「……ありがとうございます」

 八重ちゃんに料理を取り分けてもらった大美ちゃんと目が合う……あ、逸らされた。

「…………………………………………」

 昼間の出来事は誤解だったとは言え、本当に仲良くできるのかなぁ。


 そんな僕たちのやりとりを見ていた隊長は苦笑していた。

 ――歳相応の笑い皺が、あれっ、なんか睨まれたような気がする。き、気のせいだよね?


「とりあえず、自己紹介でもするかね」


 コホンと嘘くさいほどに可愛らしい咳払いをして、隊長が自己紹介を始めた。

「アタイは樫村瑛子(かしむらえいこ)。このバルク(特殊小隊)冥土の土産(メイズ・ギフト)>の隊長を務めさせてもらっている。階級は中尉。スキルは<偵察官(スカウト)>。作戦立案、戦況分析なら任せておきたまえ。それから、女性としての経験も豊富だ。軍務の悩みから性の悩みまで、いつでも相談に乗ろう、ふふふ」

 年は二十代半ば――女のクリスマス――を過ぎたあたりだろうか?

 大人の魅力に裏付けされた余裕がムンムンと漂っていた。軍人らしからぬ風貌だ。

 そもそも新日本において、中等部――六年の初等教育学校の後に進学する四年制の中等教育学校――を卒業した生徒は、みな軍務に就く。

 だが、その軍務を終え、専属の軍人にまでなる女性はほとんどいない。


「ま、まだお若いのに中尉とは……すごいですね」

「若い……。薫くん! ま、飲みたまえ。今日はアタイのおごりだ」

 ――御しやすい人だな。でも、気さくでいい人かも。


 肩にかかるかどうかギリギリまで伸ばしたウェーヴィーヘア。細くキリっとした眉目からは厳しさが滲み出ていた。

 小さな鼻と真っ赤な口紅が映えたよく開く口。

 星型のピアスが耳に小さなインパクトを残している。


 ――残念なのは、体型が随分とスレンダーに見える点なんだ。

 うん、婉曲表現だね。

 お腹と肩の間に本来存在すべき山の標高がね、海抜〇メートル地点に近い気がするんだよね。

 本人には言えないけど。


「隊長ぅ、素敵ですっ!」

 隊長の自己紹介中、廻理ちゃんは夢の中にいるかのような表情をしていた。かなり、心酔している様子が窺えた。


「それじゃ、次は廻理くん、頼む」

「は、はひっ!」

 夢見心地な気分から一転現実世界に引き戻され、思わず舌を噛んでしまう廻理ちゃんを見て、にこやかな気分になった。

 そんな僕のへにょり顔を、廻理ちゃんは顔を真っ赤にして睨み付けてきた。

 ――うぅ、やっぱり怖いよぅ。


「アタシは桜園廻理(さくらぞのめぐり)。昨年ここに配属されたわ。スキルはアタシには全然似合わないけど、<剣闘者(ブレイドファイター)>

。近接格闘ならまかせて。大美ちゃん、分からないことがあったらなんでも教えてあげるわ」


 大きなポニーテールと若干赤みを帯びた顔には、先輩としての自信が満ち溢れていた。

 名前の通り桜を思わせる濃ピンクのパチっとした瞳。

 少し吊り上げ気味の眉毛は細くエッヂ処理されており、顔全体の印象とあいまって今ふうの女の子に見えた。

 紅は塗らず、薄く化粧水をパッティングして乳液を染み込ませただけのメイクは、年相応の瑞々しさを湛えている。

 ダブダブのセーターの上からでもわかるツンとそびえ立つ大きな胸に、斜めにかけたベルトでキュッと締めたウエスト、そして、ふっくらとしたヒップライン。

 どこをとってもいいプロポーションをしていた。


「アンタは早く出てってくんない? 変態」

 ――こんなふうに、僕に対して冷たいのがアレなんだけど……うぅ。

 隊長の酒器が乾けばすぐに注ぎ、食器に食べ物がなくなれば即座に希望を聞いて器を満たしていた。

 体育会系の上下関係のように見えるけど、廻理ちゃんは自発的に行なっているように見えた。

 隊長の信頼を勝ち得たいと願う廻理ちゃんの真意、新参の僕にはそれが何なのかわからない。

「…………………………………………にこっ」

 でも少しでもそれが知りたく思い、廻理ちゃんに視線を這わせてみた。

「…………………………………………キッ!」

 廻理ちゃんは親でも殺されたかのような憎悪を伴った表情で、僕をツンと見返してきた。

 ――理解できる日は本当にくるのかな……不安になってきたよ。


「次は私ですわね。初めまして、桐島八重(きりしまやえ)と申します」

 エプロンドレスで鍋料理の味見をしていた女の子が、ゆったりとした足取りで料理が満載されたテーブルの前にやって来た。

「廻理ちゃんと同じく去年、ここに配属されてまいりましたわ。僭越ながら<回復守護者ヒーラー>を務めさせていただいておりますわ。回復やサポートならお任せ下さいませ」


 スカートの裾を持ってゆっくり丁寧にお辞儀する姿が堂に入っていた。

 じっくり見てみると、八重ちゃんも廻理ちゃんに勝るとも劣らないくらい、いい体つきをしていた。

 ここのバルクの女の子のレヴェルはとても高いんじゃないかな、と他人ごとのように思う。


「この料理は全部、八重くんが作ってくれたのだ」

 すごいだろ? と隊長が自分で作ったわけでもないのに笑いながら自慢する。

「まあまあですね」

 大美ちゃんはそう言いつつも、目をキラキラと輝かせ、豪勢な料理に手を伸ばしていた。甘いものを中心に。食いしん坊らしい。

 隊長は、ははっと笑う。不作法に厳しい人ではないようだ。少し気が楽になった。


「それじゃ大美くん。自己紹介頼む」

「……小竹林大美(しょうちくりんひろみ)です。もぐもぐ、スキルは<魔法少女>。以上」

 口の中にロールケーキを頬張ったまま答えるや、食事に戻る大美ちゃん。

 体に正直だなぁ。


「まっ、まっ、魔法少女!? アタシ初めて遭遇したわ! 都市伝説じゃなかったのね」

 廻理ちゃんは突然、ドンとテーブルに手をついて立ち上がる。

 大美ちゃんの<魔法少女>発言に相当驚いているようだ。瞳孔が開ききっていた。


 ――でもね、本当はね。廻理ちゃんが初めて会った<魔法少女>は、僕だったんだよ……。


 口を開きかけた僕を制し、隊長は言葉を続けた。

「はは、大美くんはな、ただの<魔法少女>じゃない。飛び級で軍務に就くことになった天才<魔法少女>なんだ」

 隊長は苦笑いをしながら、大美ちゃんのパーソナリティを追加した。

 上官としてきちんと下調べをしていることがわかってホッとした。


 ――でも飛び級かぁ。すごいなぁ。

 通常だと中等部で四年過ごすところを、二年で切り上げたわけだ。

 ――ってことは今、大美ちゃんは一四歳ということになるのかな?


「す、すごいじゃん!」

 大美ちゃんを見る廻理ちゃんの目つきがガラリと変わった。

 なぜだか、負けてられないぞ! といった類の闘志が浮かんでいるように見えた。


「飛び級……しかも魔法少女……」

 ――本物の女の子の高レヴェル<魔法少女>が配属されたのなら、僕なんていらないんじゃ?

 配属に関しては、小隊長の意向が強く出るという噂がある。

 ――いったい隊長は、どんな思惑でこのバルクに二人もの<魔法少女>を?

 その隊長の方を不安げにちらり見やると、隊長の充血した赤い目が僕を見ていた。


「次は、薫くん。面白い話を頼むぞ」

 いつの間にか一升瓶をラッパ飲みしていた隊長が、皺を見せながらウインクしてきた。

「え、なんで僕だけ面白い話限定なの!?」

 なんて、ジャブを交わした後、軽く息を吸い込んで僕は話を始めた。


 しかし、


「大美、勉強がありますのでこれで失礼します」

 と、大美ちゃんがごちそうさまをして、部屋の外へ出て行ってしまった。


 ぽかーんとその場に取り残される四人。

「あーあ、興冷めじゃん。変態、アンタのせいよ」

 廻理ちゃんはあからさまな嫌悪感を表明し、ソーセーヂにフォークを伸ばしてもぐもぐする。

「大美くんは勉強熱心だからな、仕方ない。うー、酔っぱらっちゃったぞぅ……」

 隊長はいつの間にか空になっていた一升瓶を体の中心で抱え込んだ。

 通常のバストの持ち主なら、瓶のくびれが見えなくなるくらい沈み込むのが常だが、彼女の場合は見るも無残な<視界良好>状態だった。

 ――逆の意味で目のやり場に困っちゃうね。


「あ、お風呂の用意ができてますわ。隊長、お先にどうぞ」

「あんがと、八重くん。そんじゃ先にいただくとするかね」

「た、隊長。お、お背中をお流ししても、か、かまいませんか?」

「んー? 一緒に入るぅ? 廻理くん」

「ええーーーーーっ、よ、よろしいのでありますかーーー!?」

 廻理ちゃんは頭から湯気が出るほど興奮していた。

 ――なんか、はぁはぁ言ってるし、鼻血出してるし、大丈夫なの、この子?

「ああ、構わん。ついでにみんなで入っちゃおう。たまには裸の付き合いも悪くなかろう」


 ――ふ、ふーんだ。完全にのけ者扱いだよ。僕の自己紹介はどうなったの?

 余った料理は八重ちゃんによって手早く下げられてしまった。明日以降の賄い料理にでもするのだろう。

 晩餐の残り香漂うテーブルの上に、僕は【の】の字を書き続ける。


 ――いいもん、いいもん。ま、愚痴っても仕方ないよね。今日は色々あって疲れたし早めに寝ようっと。

 立ち上がり、自室に戻ろうとすると。

「も・ち・ろ・ん。薫くん、君もいっしょだよ」

「「ええぇぇぇーーーーーーーー!」」

 突然の申し出に、驚く廻理ちゃんと僕。対照的に、

「殿方のお背中をお流しするのは初めてですわ」

 うれうれとする八重ちゃん。この娘、天然なの? 天然なの?


 だが、

「男女が同じ風呂に入るなど、倫理的に許されません!」

 と、当然の見解を廻理ちゃんは示した。

 ――その通りだ! 倫理の欠如が許されて、僕の罪が許されないのはおかしい! あれっ、なんで涙が出てくるの? ううっ。


「ふむ、ならばここは戦場だと思え。いつ敵がやって来てもおかしくない緊張状態の中、限られた場所で清浄のときを過ごさなければならない状況だと。次に風呂に入れるのがいつになるのやもしれん。そんな今の<対馬>のような状況に慣れておくことも、軍務に就く者として重要なことであると、アタイは思うのだが」

 ――今現在も姦国(かんこく)とドンパチやりあっている<対馬>とは言い過ぎだろう。でも、

「た、隊長! そこまで考えてくださってたんですか!」

 ――ぉぃ、廻理ちゃん、完全に騙されてるよ! 騙されてるよっ!

「しっかたないわね、今日だけよ。あ・く・ま・で、歓迎会の一環なんだからね」

 ――歓迎会の一環、ね。……一応、気にかけててくれてたのかな?


 真っ赤な顔をして僕を睨む廻理ちゃんの心の奥にある優しさに、ほんのちょっとだけ触れたような気がした――

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