第3節 『着替えを覗いたのは、ふ、不可抗力なんだよ!? だからお願い! 手錠を外してよぉ』
さて、僕が転送された場所を確認してみよう。
「ここは……なんの部屋?」
辺りをを見渡してみる。ちょっと薄暗いけど見えなくはない。
――部屋の広さは八畳ほどかな。なにをするにしても不自由しない広さだね。
窓際には薄いレースのカーテンがかかっている。
朝にはそのすぐ内側にあるシングルベッドで、サンライズとともにたおやかな陽射しを浴びて気持ち良く起床できることだろう。
壁側には学習机と、開かれた試しがないくらい保存状態のいい参考書が並ぶ木製の本棚。
もう片側の壁際には、大きな姿見と小さな化粧台、そしてクローゼットが鎮座していた。
――ってことは、この部屋の所有者は女の子なんだ。
部屋の中央にはちゃぶ台が出しっ放しになっていて、始末書っぽいプリントと開けっ放しの缶ジュースとフリッツ的な何かが散乱していた。
あまりお行儀はよろしくないようだ。
「とりあえず、部屋の外に出てみよう。誰かいるかもしれないし」
僕は部屋から出るべく、ドアの方へ歩を進めて行く。一歩また一歩と。
ドアノブに手をかけるとパチッと静電気が走ったので思わず手を放してしまった。
だがそれだけで、対プレイヤトラップがドアノブに仕掛けられているわけではなさそうだった。
――うん、鍵も開いてるみたいだし、外に出られそうだ。
さて、ドアノブを左に回し……アレ? やけに軽いな……ってうわブッ――――!
バッターーーーン! ドッシーーーーン!
果たしてその内開きドアは、僕が開く速度以上の勢いで一気に引き開けられたのだ。
――うん、僕はドアのすぐ内側にいたんだ。静止衛星も真っ青なくらい見事に、そのドアのスウィング軌道上にね。
結果、壁|僕|ドア、みたいなサンドウィッチにされちゃったんだよ。魔法少女がサンドウィッチって寒いシャレだよね。あはは……。
「痛っっっっっーーーーーー――!」
僕の叫びはドアノブが内壁に当たるバキッという衝撃音で打ち消されてしまった。
続いて、その原因を作った不届き者が、弾丸のような勢いで部屋の中になだれ込んできた。
同時に、ドアのスウィング軌道が反転し、バタリと元鞘に収まった。
「ヤッバ! 遅刻ギリじゃんかー。折角、新入りが来るってのに、初日からコレじゃマズいじゃん? 示しがつかないじゃん!」
――いや、僕に対してのここまでの仕打ちは、十分示しというか、示威行為になってるんじゃない?
なんか不良グループに体育館裏に呼び出されてヤキ入れされる感覚とでも言うのかな。
そんなことやられたことなんてないけど。
「あ、あの――ひゃぅっ!」
とりあえず声をかけようとしたが、女の子に伝わることはなかった。
――女の子が突然、上着を脱ぎ始めたからだ。
パジャマ姿だったその子は、バンザイをするように上着を裏返しに脱ぎ出した。いや、脱ぎ散らかしたという表現が的確だろう。
淡赤と白の縦ストライプ柄の上着が、ふわりムササビのように部屋上空を滑翔し、ドアのそばで固まっている僕の右腕に引っかかった。
「うわっぷ――」
「髪くらい梳いとかないとー。つーか、どんな子だろー?」
女の子は茶色に染めたロングヘアを、トランプのディーラーのようにばっさーと広げ、髪の毛の状態を一々確認していた。起きがけだからか髪をまとめてはいないけど、生え際の癖から察するに、普段はポニーテールにしていることが窺えた。
続いてパジャマのズボンが、健康的な太ももと細いすねをスルっと落下した。女の子は片足けんけんの体勢になり、足首のところで引っかかるズボンをうんうんうなりながら抜き取った。
すぽーんといい音がしてズボンが旅立ち、今度は僕の左腕に引っかかった。
――僕っていつから人間ハンガーになっちゃったの? 衣類吸着系のMODなんて聞いたことないよ!
『廻理ちゃん、お着替えは終えられましたか?』
衣類に次いで、部屋の外から新しい声も飛んできた。
「もう、ちゃん付けはやめてって言ってんでしょ。……うーん、も、もうちょい待って」
廻理ちゃんとか呼ばれた女の子は、すでにブラジャー&ショーツ&しましまハイソックスという装いになっていた。
そして今まさに、ブラジャーを脱ごうとしているところだった。
ブラジャーはホックが二つ、しかも背中側にあるタイプで、購入して日が浅いのかとても外しにくそうにしていた。
――うーん、とてもいい体つき、だよね。
平均より大きなたゆたゆっとしたバストのくせに、ウェストはキュッと細く絞まっている。
普段からしっかりと体を鍛えているのだろう。その肌自体の生気というか血色が良く、実に健康的だ。
――ってなに冷静に観察してんだ、僕は! 今は、この状況をいかに誤解なく切り抜ける方法を考えないと。
『それでは、廻理たん。毛替えは終えられましたか?』
「たんって言うな、たんって。ってか、毛替えって何よ? アタシゃ犬か何かかい! ま、ちょうどいいわ。八重、ちょっとブラ外すの手伝ってくんない?」
「えっ!」
――ヤバい! ちょっと待ってよ!
現時点でこの部屋に、男である僕がいる。
で、半裸の女の子がいて、身にまとった下着を今まさに脱ぎ捨てようとしている。
ただでさえ誤解を免れられない状況の中、もう一人女の子が部屋の中に入って来る?
――見付かったら、逮捕されちゃうよね? 僕。
ガチャリ。
そんな逡巡もよそに、あっさりと開かれるドア。
――終わった。
八重とか呼ばれた女の子はノブをゆっくりと回し、丁寧にドアを開けた。
そして、後ろ手でドアを閉めず、わざわざくるりと反時計回りに体を返し、音を立てずに閉めた。育ちの良さがよくわかる。
「もちろん冗談ですわ」
それから、さらに反時計回りに体を返し、視線の先にいる僕に気付くやお辞儀した。
「…………………………………………」
「…………………………………………」
この間じっくり十秒。
長い。
死刑執行までの時間には長すぎる!
「……あら、どちらさまでございましょう?」
「ど、どうも……い、いつも、お、お世話になっております……」
――なんだよ! なにがお世話になってるんだよ! 僕はっ!
心臓が早鐘を撞くように高鳴っていた。総裁と会話してたときより遥かに緊張している。
――落ち着け、僕。こういうときこそ、冷静さを忘れずに情報収集をしなければならないんだ。
「……にこっ」
「にこっ」
目を合わせるや、気持ちのいい会釈を返された。おかげで、少し心が落ち着いてきた気がする。
――それに、もしかしたら、僕が男だって気付いてないかも。
とりあえず八重という女の子をじっくりと観察してみよう。
――見た目はいわゆる日本人形タイプってやつだね。
艶々とした黒髪をストレートに歪みなく伸ばしているその姿は、大和撫子の血を引く財閥令嬢のような面影を思い起こさせてくれる。
でもいまは令嬢でじゃなくって、令嬢のお世話をする――いわゆるメイドの――格好をしている。大きなヒラヒラのついたエプロンとヘッドドレスが、本来備わっているであろうスペックを、萌え方向に押し上げていた。
――一言で言うと萌え~萌え~メイドさんだぁ!
思わず相好を崩しそうになった僕を、廻理ちゃんは現実に戻す。
「どったの、八重? 誰と話してんの? 電話? ……うーん、外れない、えい、えい、えいやっ!」
気合一閃! 廻理ちゃんは成し遂げた!
ブラジャーはブーメランのように回転しながら、こりゃまた僕の元に飛んできた。
ふぁさり。
大きなカップのそれは、僕の頭に二つの猫耳を生えさせたのです。めでたしめでたし。
「にゃんにゃんみたいですわ。たいそうお似合いでございます」
「そ、それはどうも。ありがとう……」
――めでたくないし、ありがたくもないよっ!
あぁ、この瞬間にも<空間転送>するか<肉体消失>してしまいたい!
使えるMODEが手元にないのと、目撃者がすでにいる以上、どだい無理な話だけど……。
両手と頭にのしかかる女の子の体温と甘酸っぱい特有の匂いに、思わずくらっとする。
「いったい誰と話してんの? 隊長?」
無事ブラジャーを外すことができたという仕事の達成感からか、腰に手を当ててにこやかな笑顔を浮かべながら、廻理ちゃんは八重ちゃんの方に振り返った。
もちろん、ブラジャーはしてない。
だって、僕の頭の上に引っかかってるんだもんっ!
「こちらの殿方と、ですわ、廻理ちゃん」
――げっ! 八重ちゃんに、僕が男だってバレてた!? って、ここでバラさないでよ! 最悪のタイミングだよ!
「………………………………え、男!?」
うん、『人間の回転運動中における顔色の変化』というレポートを出せば、卒業研究の単位がもらえるんじゃないか? なんてくだらないことを考えてしまった。
肌色だった廻理ちゃんの顔が青色に変わり、そして赤色に変わったのだ。
国道をアクロスする信号機でも、ここまで早くは変わらない。
でも、僕がそんな顔色の変化に思いを馳せるより先に、
「あ、ピンク――」
口をついて出た言葉がこれだった。
あまりにも気が動転していたのだ。
「ピンクでございますわ」
思わず漏れ出た僕のつぶやきに、律儀に賛同の意思表明をする八重ちゃんとの絶妙なコンビネイションが炸裂ぅっ!
イヤッッホォォォオオォオウ!
「………………………………」
――さていよいよラスト問題。ポイント倍付けのチャンス問題です。どうすれば、この場を丸く収めることができるのでしょうか?
正解者は――――僕を好きにしていいからっ! ねぇっ! ねぇっ! 教えてよぉ!
再放送していた前世紀のクイズ番組で見たキャスターの素振りに僕自身を重ねて、思わず現実逃避してしまう。
「……アタシの<鉄拳>を浴びて死ねばいいと思うんだけど? 正解よね? ねぇ?」
にっこり。
――こ、こわい。表情は笑っているのに、頭から角が見えるぅっ!
一歩、また一歩、近付いてくる廻理ちゃん。
もちろん、胸を隠していないので、足を地面に下ろすたびに、たゆんたゆんと規則正しく上下に揺れる二つのメロンが僕の目に入る。
その見事さに、思わずごくりと喉を鳴らして頭を下げてしまう。
――し、しまった!
「ふふふふふ。正解者はアンタを好きにしていいんだよね?」
廻理ちゃんはパンツの中からペンナイフを取り出した。
――どこから取り出してるんだよっ! なんてつっこむ余裕はない。
なぜなら、そのペンナイフが色味を帯び始めたからだ。
――MODの気配!
「まぁまぁ、廻理ちゃん。せっかくのお客様でございますのよ? 落ち着きましょう」
八重ちゃんが廻理ちゃんを宥めようと手を広げておっとり諭す。
――グッド! 頼みます、神様仏様八重ちゃん様!
「こっ、こっ、これがっ、落ち着いてられるわけないじゃん! なんでそいつがアタシのパジャマを手に取ってんのよ? なんでそいつがアタシのブラを頭に被ってんのよ! 変態じゃん、痴漢じゃん、弁護の余地なしじゃん!」
廻理ちゃんは僕を指差し、汚い物を見るような表情をする。
そして、ちろりと舌を出し、ペンナイフの刃部をつつと嘗めた。刃が表情と同じ赤に染まる。
「と、とにかく、話を聞いて――ぶはっ」
「吸血刀」
廻理ちゃんはペンナイフをMODEにして<武器化>のMODを呼び起こしたようだ。
ペンナイフは一瞬にして日本刀に姿を変えた。
MODEを直接武器に変換して使う<武器化>は、MODの循環係数――MODEが内包する<副妄想力>をどれだけ現実化できるかという指数――が最も高くなる。
「し、しかも。じゅ、純度がこれほどまで高いなんて……。もしかしなくても、廻理ちゃんは近接系プレイヤなの!?」
それに、MODは基本、念じるだけで効力が出るのに、廻理ちゃんは声に出しちゃってる。
これは相手へのフェイントとして使われることもあれば、敢えて恐怖を植え付けるテクニックとして使われることもある。
――だけど今は、頭に血が昇っているから、声に出さずにいられないんだろうね。
対プレイヤ戦において、こういう相手の暴走を誘うのは、とても有効なテクニックだ。
――でも、自分が丸腰じゃ、話は別だよ!
「アンタなんか、アンタなんか。この<吸血刀>で八つ裂きにっ……いんや、八つ裂き程度じゃ生ぬるい! 三六回分割払いにしても払い切れないほどのローン地獄に追い込んでやるんだからっ!」
廻理ちゃんは、身の丈のサイズにまで膨れ上がった反りの強い日本刀を両手で正眼に構えた後、すぅっと振りかぶる。
――あぁ、お父さんお母さんごめんなさい。僕は、未だ混乱が続くこの新日本の片隅で、見知らぬ少女の操る日本刀の新たな錆になりそうです。
「や、やめっ、うわぁぁぁぁぁーーーーーー!」
………………………………………………
………………………………
………………
しかし、僕を屍に帰するに十分な時間が経ってもなお、廻理ちゃんが日本刀を振るう気配はなかった。
――た、助かった、の?
「…………………………………………」
おそるおそる目を開く。
「お二人とも、そこまでですわ」
八重ちゃんがにっこりとお玉を手に笑っていた。そのお玉は緑色に変化していた。
――なるほど、お玉をMODEにして<味見>のMODを、僕と廻理ちゃんに使用したのか。
<味見>は観察力を増強させる効果があり、相手の意図などを深く探るのに有効なMODなのだ。
――ってことは、八重ちゃんはサポート系プレイヤなのだろう。
近接系プレイヤの廻理ちゃんにサポート系プレイヤの八重ちゃん。このバルクの戦力バランスは存外良いのかもしれない。
――なーんて、冷静に考えてるのも<味見>の効力だろうか?
「はぁはぁ……はぁはぁはぁ…………」
<味見>が一瞬の平静を廻理ちゃんに取り戻させたのだろう。肩で息をする廻理ちゃんの手から<吸血刀>が消え去り、ただのペンナイフに戻った。
それとともに、自分の格好に気付いたのか、廻理ちゃんは僕からブラジャーとパジャマを引ったくって、早々に着替えた。
――っていうか、僕が部屋に入ってきたときの姿に戻ってしまったんじゃ?
「えっと、話を聞いてもらえるかな?」
ようやく落ち着いた廻理ちゃんと、相変わらず冷静な八重ちゃんに、ここに来た経緯を説明した。
「――で、杉ノ原総裁に<空間転送>させられた結果が、ここだったんだ」
でも、自分のスキルが<魔法少女>だっていう事実は伏せておいたんだ。立場が確定してないこんな状況じゃ、完全に変態扱いされかねないもんね……。
「「…………………………………………」」
二人の視線が僕を貫いていく。
しかし、その視線に温度差が見えた。
杉ノ原総裁という言葉に、なぜだか八重ちゃんは眉をひそめたように見えたのだ。信憑性がないとでも思われてしまったのだろうか?
それでも、話せばわかってくれる。そう信じて僕は必死に弁解した。
だが、
「――それは、嘘ね」
廻理ちゃんに一蹴された――
「こちら廻理です。被疑者を確保しました。連行します。オーヴァー」
「ちょ、ちょっと待って。被疑者? ぼ、僕が? だからさっき説明したように――」
「キッ!」
廻理ちゃんは、切れ味が鋭いナイフのように目を細め、僕を睨み付けてきた。
「わ、わけがわからないよ! ど、ど、ど、どういうことなの!?」
――ぼ、僕だって被害者みたいなものじゃないか!
「たったいま、隊長から緊急通報が入ったのでございます」
八重ちゃんが、気まずそうに目を伏せながら言う。
――嫌な予感しかしない。
「な、何て?」
「『いまそこに、不法侵入者がいる』っていう連絡よ!」
廻理ちゃんは少し前屈みになりながら僕に指を突きつける。
たゆっとしたバストが重力を受けて、さらに大きくなったように見えた。
「――もしかして、その不法侵入者って、僕のことだと思ってる?」
こくりと力強く廻理ちゃんは頷いた。そして、手首の自由を奪う拘束具――いわゆる手錠をかざし、
「アンタには黙秘権があるわ。アタシに対しての発言は裁判で不利になることがあるかもしんないから注意なさい――」
廻理ちゃんはドラマでよく聞く刑事のセリフを、吐き捨てるように投げつけてきた。
「う、うぅ……」
ヒューーーン、ピシャ。
軽い電子音とともに手錠が閉じる。
この手錠は、対プレイヤ用MODキャンセラー付きのものだった。MOD理論的に言うと、右手と左手の輪っかを対称逆位相配置することにより、被拘束者の右手から出るMODと左手から出るMODが互いにキャンセルされる仕組みになっている。
電源ケーブルをよじって編むと磁界の影響を少なくできるという電磁気学理論の応用らしい。
「廻理ちゃん、待って」
「……ぶつぶつ。……刑務所に入ったら……独房かな? ……ぶつぶつ。……相部屋かな? ……相部屋だったら嫌だな……掘られるのかな掘られるのかな、……こわいなこわいな」
最悪の未来予想図に気を取られていたところ、
「こちらの殿方の正式なOFID認証が取れましたわ」
「え、うそ!? ってことは、もう一人不法侵入者がいるってこと?」
廻理ちゃんは端末を僕にかざし、ディスプレイに表示されたルールを確認していた。
一瞬顔を青くするも、すぐさま思案顔になり、さらには怒り顔に戻った。
とても感情の起伏の激しい子のようだ。
「確かに、アンタのOFIDは認証されたわ……残念」
「ほっ」
――これでめでたく僕の嫌疑が晴れたわけだ、はは。
「でも、OFIDを偽造してまで痴漢行為するなんて、どうしようもないクズね」
「ぅぇ?」
「公文書偽造、これはとても大きな罪よ」
――これでようやく僕の嫌疑が深まったわけだ、はは。
「……廻理ちゃん?」
僕に新たな罪を付け加えようとする廻理ちゃんを、八重ちゃんはじっと見つめていた。二人の間で、当人間にしか見えない心理的な攻防が繰り広げられているのだろうか?
「……わかった。わかったわよ」
八重ちゃんの優しい目力に説得されたのか、自分の不当な公権力強行に気付いたのか、廻理ちゃんはようやく僕の手錠を外してくれた。
「ほっ……」
「で、でも、重要参考人には違いないんだからね。アタシと八重で隊長が来るまで見張らせてもらうんだから」
多少の気恥ずかしさを綯い交ぜにしたような表情を浮かべつつ、廻理ちゃんは僕の手をガッチリと掴んだ。
「う、うん。でもなんで、手、震えてるの?」
「な、なんでもないわ! 余計なこと考えないの!」
――廻理ちゃん、赤くなった顔をプイっと逸らしちゃって……。また、怒らせちゃったな、僕。
「……あ、廻理ちゃん。隊長から新たな指令が来ましたわ」
「なんて?」
八重ちゃんは、スマートフォンに映し出された電文を僕らに見せた。
「件の不法侵入者を確保せよ、ですわ」