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うぅ。僕、魔法少女になっちゃった……  作者: 鍋島而今
プロローグ
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プロローグ

 少女は、淡く発光する棒のような物体を振り上げながら、一気に跳ねた。

 低い自由度を表すかのように佇んでいる漆黒の闇へ――いや、その先へと。


「たりぁぁぁぁぁぁっ!」

 言葉っ面は荒々しい。

 だが、男とも女ともつかない中性的な声であること。

 それから、いわゆる<メイド服>と呼ばれる格好をしていることが、見る者に幻想感を与えていた。


 シュッ! シュタッ! ヒュッタタッタタッ!

 見えない階段が空中にあるかのように、軽やかに飛翔していく少女。

 動きを読まれたくないのだろう。少女は逆再生された稲妻のように、ジグザグの軌道を取って天頂を目指していた。


「ふははっ! 古い手だな、(かおる)くん。気を逸らしておいて速攻とは。――だが、さすがは魔法少女……っ! 見事な速さだ!」

 少女が向かう先には、宙に浮かぶ男一人。

 ピンク色の仮面で鼻から上を隠し、上半身は裸。さらに赤いブーメラン水着を着用した男だった。

 春先によく見られる、いつ通報されてもおかしくない類いの男だった。


「僕はっ……!」

 少女は、まるで()()()()()のような一人称を、苛立ち紛れに使用し――さらに大きくステップした。

 ほっそりとした足に絡みつくニーソックスと小さな革靴が、振り子のような軌跡を描く瞬間、ミニスカートの付け根に存在する綿花のような白い下着が、闇夜の月のごとく表出した。

 その姿は、一言で言うなら<感嘆の粋>――美しい。


「いい! 実に素晴らしいではないか! 吾輩のハートビートはオーヴァーヒート寸前であるぞ。やはり君は、吾輩にとって最高の魔法少女……だ」

 男は、最終解脱を果たしたと信者にうそぶく宗教団体の教祖のごとく、喜色満面の笑みを浮かべていた。通報どころか、軍警関係者によって即時射殺されてもおかしくない気味の悪さを感じるほどだ。


 しかし少女はついに、そんな男の表情を間近に捉えることのできる距離に入った。


 ――ッ!

 だが突如、少女はそれ以上の飛翔による接近を止めて身構える。


 ブワァァァァァァゥン!

 刹那、男の体に()()()()が生じた。それも攻撃性に満ちあふれた気配だった。


 ――すぅぅぅぅっ!

 だがすでに、少女はその気配の正体を見破っていた。


「僕はっ……………………男の子だよっ! はぁぁぁぁっ!」

 自らを男の子だと主張する少女は、振りかぶった棒を男の頭に叩き付ける!

 堅固な棒が、円弧状にはためいて見えるほどのスピードとパワーだった。

 ()()()()()によって、棒を強化・加速させていたのだろう。


 常人には、避けること叶わず――しかし、


千本(サウザンド)(ニードル)


 少女が男に一撃をくれるより早く、

 呟きとともに男が放った攻撃の方が先に、

 少女に届いていた――


 ヒュンヒュンヒュヒューーーーーーン! ザッッッザッザッザザッ!

 その名の通り、千本もの針が少女の体中を射抜いていく。

 頭部も、上半身も、下半身も、おおよそ肉体を構成する細胞全てを分解してしまえると思わせるほどの細かな針だった。

 その針の色は黒。だが、少女の体を刺し貫いたときには、まるで何かに浄化されたかのように無色透明になり、散っていった。

 そう、その針は物理的なものではなく、精神を穿つ<魔法>のようなモノだった。


 だから、

 だからこそ、

 少女は、その攻撃に耐え切れなかった――


 少女は棒を振り上げた体勢のまま、スローモーションのように後頭部から地面に落ちていく。

「うぅ……かはぁっ!」


「薫さんっ!」「薫っ!」

 少女の仲間たちが悲痛な叫び声を上げた。

 そしてすぐさま、頭を下にして落下する少女の元へ飛び、体を支える。

 だが彼女たちの表情には、あきらめの色がうかがえた。

 少女はもうこの世に居続けることができない――死につつあるのだ、という諦観だ。


 消えゆく意識の中で、悲しい顔をする仲間を、少女は最後まで見つめていた。

(ごめん。僕には誰も救うことができなかったよ――)


 少女の生体反応は、完全に――――――――――――――――消失した。

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