8.博海と喫茶店で
「ここ」
博海が立ち止ったのは、大通りから少し入ったところにあるレンガ造りの喫茶店。こじんまりしているけど、好みのタイプだ。
「いらっしゃい――なんだ、博海か」
ドアを開けると、カウンターの中にいる30前後の人から声が飛んできた。
「来いって言ったの、マスターだぜ。その言い草はないだろ?」
あれ? って事は、いつもバイトしてるんじゃないのか?
「バイトは裏から入るもんだよ。で? そっちは?」
「政臣。途中で会ったから連れて来た。だから、表からなんだよ」
「どうも」
店の人に紹介されるなんて、初めてだ。
「やあ。一杯おごろう。挨拶だよ」
「あ、ありがとうございます」
カウンターの隅に座って、店内を見回す。
観葉植物がそこここに置いてあって、なんか落ち着く。日曜にしては客が少ない気もするけど、多分これからだろう。
漂うコーヒーの匂いにマスターを見ると、カップが差し出された。
そのままひと口飲むと、ブラックでもイケる。
「うま……」
こぼれた呟きに、なんかマスター、凄く嬉しそうだよ。
黒エプロンで現れた博海と、ちょこちょこ話をしながらコーヒーを飲む。
マスターのこだわりはコーヒーだって事だけど、紅茶も色々揃ってる。今度、是非試してみよう。
段々客が増えてきた。そろそろ引き上げるか。
「毎日バイトしてんのか?」
ふと訊いてみる。ミィにも教えてやらないとな。
「だいたいな」
「だから部活やってないのか」
「お前に言われんのは心外だな。そっちこそやってないだろ」
あ、墓穴掘った。頼むから、追究してくれるな。
「俺は、まぁ、縛られんのが嫌いだし」
「マイペースだよな、確かに」
あれ、苦し紛れに言っただけなのに、なんか納得されたぞ? まぁ、助かるけど。
「んじゃ、また来る」
そう言って立ち上がると、マスターが。
「博海と一緒に毎日でもどうぞ」
笑って言ってる。勿論、冗談だろうけど。
心の中で捻くれた俺。
『1日おきだよ、俺はね』