7.博海と街で
「あれ? 政臣?」
「へ? 博海!」
街中で呼び止められた。
ミイを先に帰して、研究所から近所の街に移動して。駅前の靴屋のウィンドーなんかを、なんとなく眺めながら歩いていたら。
呼び止められたら止まらない訳にはいかないが。……参ったな。
「どこ行くんだ?」
「ん、別に。ぶらついてただけだ」
懐っこく笑って聞いてくるのは、正直、パスしたい。
「……機嫌、悪そうだな。なんかあったのか?」
「いや、別に。機嫌悪いわけじゃない」
そう、悪くはないんだ、悪くは。ちょっと苦手なだけで。……悪かったほうが良かったか? そのほうが、会ってマズイと思ったのを誤魔化せたか?
いや、もう遅いか。
まぁ、いいや。
奴は親友ポジションで、それは正直嬉しいし、縁を切るつもりもない。苦手なのは、気安さからうっかり秘密がばれないかっていう不安。
これだけは死守する。その覚悟があれば、せっかく会えた友人を邪険にするのは勿体ない。
「博海は? どっか行くのか?」
「ああ、内緒だぜ。バイト」
おおっと。俺たちの学校、バイトは禁止なんだ。よくやるな。まぁ、多いらしいけど。
「何してんの?」
「WORDSって喫茶店でウェイター。来るか?」
「構わないのか?」
「全然。客が増えて喜ばれそうだ」
軽い言い方に、思わず笑う。
そんな俺に博海は『来いよ』ってな感じで歩きだし。俺も隣に並ぶ。
「どーゆーツテ?」
「親戚。近所に住んでて、昔から付き合いがあって」
「ふーん」
相槌を打ちながら、ふと博海の顔を見上げる。奴のほうが背が高くて、目線が結構斜め上。
外でこうやって歩くのは、初めてかな。
前から来た中学生らしき女子グループが奴を見て、通り過ぎてから騒いでいる。……まぁ、いい顔だよ。学校でも割ともててるし。
「……何だ、一体?」
俺の視線に気づいたらしく、そう言って博海は少し身を引くようなリアクション。
「いや、別に」
「お前、さっきからそればっか」
「え?」
「『別に』しか言ってない」
「そうだっけ?」
あまり意識してなかったけど、『別に』は踏み込ませたくない時のセリフだよな。博海相手に使ってるってのは、正直気分良くないが。これは仕方ないと諦めるしかない。
「何か知らんが、俺に知られたくない秘密がある、と……っ!」
奴が最後まで言えなかったのは、俺が腹を殴ったから。まぁ、ずいぶん手加減したから、たいしたダメーシじゃない。
それに、これじゃあ、肯定してるのと同じだ。
ふん。お前なんか、嫌いだ。
「いきなり街中でやることじゃねーな」
「知るかよ」
平気な顔で俺たちが連れ立って歩いてるから、俺が奴を殴ったのを見た通行人の皆様は若干固まっていたようだ。