53.俺達の潰れた予定
※5/19 最後に付け加えました。
バレンタインが過ぎると、校内の異様な盛り上がりはすっかり治まり、でも、よく見るとあちこちで初々しいカップルが出来ている。なんだかぎこちない、でも微笑ましいと言うか何と言うか。
よくつるんでる連中の中にも、彼女持ちになった奴がいて。
まあ、全力でからかわれてるが、幸せ者だから助けない。こっちの被害が減ったんで、有り難く拝んでおく。
「キリヤ、何拝んでんだ?」
「や、めでたいなぁ、と」
本心とは別の事を言ったら、被害者から非難の目が。
「ひでぇ! キリ、助けろ!!」
「いやいや。皆の気持ちだし」
「そうそう。俺達の気持ちだ。……って、キリ、お前も後で」
「えー……」
がっくり。やっぱ、回ってくんのか。
そんな俺の肩を叩く奴がいる。後でって言ってたのに、早すぎ。
「おい、彼女来てる」
「え?」
振り向くと教室の入口の陰から、上條がそっと覗き込んでいた。
なんか、小動物みたいで可愛い。
「どうしたの?」
近寄って訊くと、彼女の視線がうろうろして。照れてるんだか気まずいんだか、どうなんだろう?
「……ちょっと……」
おお? 俯く直前、目がうるんでたぞ?
そこで顔赤くしないでくれぇ。俺の彼女じゃないのに、勝手にこっちの顔まで赤くなるよ。
「キリ~、真っ赤だぞ~」
「うるせぇ」
後ろから飛んで来る冷やかしはバッサリ切り捨てていい。ただ、その、博海を含む仲間内からの生温かい視線の方がいたたまれない。
「ちょっと出よっか」
「うん」
廊下の角の休憩スペース。授業までもうちょっとだから、座らなくてもいいんだけど。まぁ、邪魔にはなるまい。
「今日、友達は?」
今日は俺が『政臣』やってるから、いつもなら彼女は来ない。1日おきに付き合うために編み出した言い訳で、「友達も大事」作戦だ。つまり、彼=政臣と付き合う日と友達と付き合う日が交互にある訳。
「なんか、委員会とかが重なって。みんな丁度いないの」
「そっか」
まずい、間が持たないっ!
「……なんか飲む?」
すぐそこにある自販機に目をやると、
「もうあんまり時間ないから……ありがと」
だよな、俺だって熱いのは飲み切れない。
なんて思ってたら、
「あのね…」
「ん?」
「修学旅行の自由行動の時。時間合わせて回ろうって言ってたじゃない?」
「ああ」
3月の末、春休み直前にある修学旅行。
確か3日目は班単位の自由行動で。クラスは違うけど時間合わせて、班のメンバーの了解さえあれば 、それなりに一緒に行動できる。もう自由行動のスケジュールは提出してる筈だけど。
「それね…」
え、まさか、泣く!?
焦って覗き込んだ彼女の顔が、くしゃっと崩れた。
「同じ班の人がね、どうしても行きたい所があるんだって。時間が決まってて、そうすると間に合わない…」
ぽろぽろっと。涙が、零れて。
「わぁ…」
口から出たのはホント役にも立たない音でしかない。
この休憩スペースにしたのは失敗だった、と思いつつ。
「えぇっと……、それもう決定?」
彼女の頭がこくりと頷く。
「一部だけでも、無理そう?」
「……最初にそこ入れれば、後半はなんとかなるかもしれないって、でもバスとか上手く乗り継げなかったら駄目だって……」
ええっと、これって、触ってもいいかな? いいよな、ごめん、オミ。
泣いてる彼女の頭を引き寄せて、通行人の目から隠す。
「ごめん。こっちのスケジュールはもう変えられないんだ。まぁ、後半だけでもなんとかなりそうだし。宿でも多少時間あるだろうし」
「……一緒に街を回りたかったのっ」
あー、怒られた。うぅん、デートの機会が減ったのがいけなかったのか?
「春休みとか、旅行は無理だけどちょっと遠出しよう?」
「……うん」
腕の中の気配が少し浮上したので、それで良しとしよう。あとは、まぁ、オミに任せるし。
彼女が泣いたこととか、それに対する俺の対応とか、家に帰ってからイロイロ色々オミに言われたけどね。
でも、不可抗力じゃね? ベタ惚れ彼氏の『政臣』としては、最低限のフォローだったと思うんだが。




