5.俺と助手のお姉さん
次の日の検査は、次から次へとよくまぁ思いつくもんだと感心するくらいの数だった。俺一人を検査するのに半日だぜぇ。終わった時には、芯から疲れ切った。
「お疲れ様。飲む?」
「あ、ども」
助手のお姉さんが、コーヒーを渡してくれた。
「でも、大変ねぇ。しょっちゅう検査なんだもの。前回は私はいなかっけど」
「う、ん」
返事が若干どもるのは、勘弁してほしい。
彼女は、政臣と政実が2人1役だってことに気づいてない。俺の検査の時にはいるけど、オミの時には絶対にいないからだ。一見同じ顔に同じ背格好だが、俺とオミの能力とかは段違いだし、記録見たら一発でバレる。
「でも、ホント細いわねぇ」
俺の腕やら胴回りやらに視線が行っている。危険路線だ。オミより俺のほうが、ちょっとだけど更に細い。
「筋肉がないわけじゃないんでしょうけど、何、この細さ」
「そんなこと言われても……」
筋肉付くような生活してないし。
「華奢で羨ましいくらいよ。女の子の格好もイケそうよね」
「勘弁してください……」
なにこれ、俺、遊ばれてる? 逃げていい?
「絶対可愛いって」
「やめて下さい」
目一杯、不機嫌な声で言い返す。これでもう、この話終わりにして欲しい。
「ごめん、ごめん。でも、褒めてるのよ?」
「全然そう聞こえない」
はっきり言って、内心冷や汗モンだ。
オミだったらどう返していただろう。オミの反応以外じゃ、疑われる。
はっ。俺は俺であって俺じゃない。
俺は今「政臣」だから。
「政臣君、所長がお呼びだよ」
と、所員の菅原さん。天の助けだ。
彼は俺とオミが別人だってことを知っている、数少ない人だ。俺たちの秘密を、両親と同じくらい知っている。
「助かったぁ」
菅原さんの後をついて歩いて、思わずこぼれた本音。
「だと思ったよ」
菅原さんが笑って言った。結構鋭い人だ。バレバレだったらしい。
「ところで、父さん、何だって?」
「さぁ、聞いてないな。彼も来ているよ」
この場合、彼ってのはオミのこと。今、俺が政臣やってるから。
しかしオミってば、昨日今日連続の研究所呼び出しかぁ。哀れ。
こんこん。
ノックして所長室に入る。中には、父さん、母さん、オミがいた。
ぱたん。
ドアを閉じ。中にいるのは全員ある秘密の共有者。
ある秘密――俺達がいわゆるエスパーであること。
オミはこれだけで済むが、俺なんかおまけ付だ。
俺は。彼の。クローン。