表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/61

4.カレーと母さん

 台所に行くと、オミはもうカレーを山盛りのご飯にかけていた。

「おい」

 俺が口を開く前に、あっちから話し掛けてきた。

「何?」

「玉ねぎ。も少しきれいに切れよ」

 はん、ほっとけ。

 と、玄関のドアの音。

「ただいま」

 あれ? 母さん。

「おかえり」

「早かったね、割と」

「うん、区切りが良かったし。うちの可愛い悪がき達と一緒にご飯食べようと思って」

 ……「可愛い」と「悪がき」ってセットになるのか?

「おいしいカレー作ってる息子に、悪がきはないんじゃね? で、よそう?」

 と、オミ。手にはすでに3枚目の皿が。

「あ、お願い。でも、それ、あんたが作ったんじゃないでしょ?」

 なんで分かるんだ!?

「ばれたか。で、どのくらい」

「普通で。だから、悪がきじゃないのは政実に決定~」

 ……母は偉大だ、ということでまとめておこう。ついでに、この素晴らしいまでの応酬に、全然混ざれないんだけど。

「そうそ、政実」

 くるりん、と母さんはこちらを向いてちょいちょいと手招き。これは、あれだ。

 近寄る俺を、母さんはがっちりホールド。いや、俺のほうが背が高いから、抱きつかれてる感じ。

 普通、母親って高校男子にこんな対応しないだろ、と思うんだが。反抗期とか思春期とか、色々あるよな?

 だけど、『賞味期限が切れるまでは、しっかり触るよ』と小学生のころから言われてて、どうもいまだに賞味期限は切れてないらしい。ニキビ面になったら、顔を撫でまわすのをやめるとは言われてるけど。幸か不幸か、俺もオミもあまりニキビは出来ないタイプらしい。で、小さい頃と同じように、頬をよく撫でられる。なんだかな……。

 母さんは、抱きついてぎゅーっと締めた後、ぽんぽんと俺の背中を叩いてさっさと離れた。ベタベタなのかアッサリなのか、相変わらずよく分からん人だ。

「でね、明日は研究所に来てちょうだい。定期検査の日だから」

「えー……」

 今日もオミが行ったじゃんか~。連続して行かなくてもいいじゃん~。

「ゴネてんじゃねーよ」

「ゴネてんじゃないですー。嫌なんですー」

 定期検査って、血は採るわ薬は飲ませるわ脳波とるとか、もう延々付き合わされんだよ。あー、なんか、食欲減退。

「諦めろ。俺は前回やった」

 だから、次は俺の番、と。

「でもヤだ」

「……俺も行くか--いてっ」

 ペンと母さんがオミの頭を叩いてるよ。

「過保護」

「え? 違うだろ? 俺は兄としてだな」

「だ・れ・が? 兄?」

 あ、母さんの突っ込みに、オミが詰まった。

「……あー、もう、母さんにゃ敵わねーなー」

 ついにオミが音を上げて。

「年の功、年の功」

 俺が茶々を入れると、

「それって、母さんがおばあちゃんってことかな?」

 と母さんが拗ねた。俺とオミが同時に吹き出す。

 シンクロする俺とオミ。いや、オミと俺。オミが主で、俺がおまけ。

 ここは俺のいていい場所じゃないんじゃないか--。

 かすめる思いはいつものこと。ここはオミと母さんだけの場所で、俺はおまけだから。

「政実っ!」

「は、はいっ!」

 突然、オミに怒鳴られるように呼ばれた。心臓がひっくり返るかと思った。つい、やたらと元気な返事が飛び出た。

 ……オミが怒っている。表情だけじゃない。怒りがビシバシ伝わってくる。

 何がこんなにオミを怒らせて……? もしかして、思ったことが伝わってた?

「政実、お前」

「ごめん、分かってる。悪かった」

 慌てて謝る。この件に関しちゃ、俺が悪いんだ。2人とも俺のために、あくまで普通にしてくれてるのに。

「分かってない。分かってないよ」

 怒りに悲しみが混じってて。重たくて胸が痛い。泣きたい。

 こんなに心配してくれてても、それでも多分、俺はそう思うのをやめられないだろう。本当に悪いと思うんだけど。

「ごめん……」

 それしか言える言葉はなかった。

「はたから見ると、すごく不可解な喧嘩ね」

 いつの間にかカレーを食べながら、母さんが妙に明るく言った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ