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3.俺と玉ねぎ

「ふむ……」

 エプロンして、台所に立って少し悩む。夕飯、何にしよ?

「いいや、カレーで」

 これでしばらく楽が出来る。

 うちは両親が働いてて、でもってどっちも不規則、というか特に父親のほうは帰って来る気あんの?と首を傾げるほど不在なのだ。なんで、夕飯は学校から帰って来た『政臣』が作ることになってる。

 家にいて暇なほうが作ればいい気がしなくもないけど、留守のはずの家から料理してる音や匂いがしちゃ変だから仕方ない。

 材料はあるし、始めるかな。

 野菜を洗って、皮を剥く。人参の次はジャガイモで。

 男爵、苦手なんだよな。このデコボコが剥きにくいったらないぜ。今度は絶対にメイクイーンを買おう。

 オミも連れてきて手伝わせたいが。今日は俺が帰って来んの遅かったから、昼は適当に食うしかなかったはずだし。まぁ、勘弁してやろう。

 留守宅の音・匂いは厳禁。

 なんせ、我が家は『3人家族』なんだから。両親と1人息子・政臣の。

 4人目は存在しない。それはつまり、俺の存在の否定で。

 あーあ。

 オミと違うのはここだ。何もかも同じに育てられたはずだけど、オミと俺の違いの基本原因は、俺の存在の不確かさにある。

 まぁ、いいけど。

 オミはあれで実はすごく優しくて、それには絶対に触れないし。学校、というか家の外の世界も交代で行かせてくれてるし。

さて、と。

 残るは野菜は玉ねぎ。好きなんだがなぁ。いまだに刻んでると涙が出てくるんだよなぁ。はっきり言って苦手だ。

 おっ……と。いきなり博海と玉ねぎでネットワークが構築された。気に入っているけど苦手。

 うわぁ……情けね。

 勢い込んで玉ねぎ乱切り。思いっきりしみて涙が出てしまう。

 まったく情けない。


 ご飯が炊けてカレーが出来て。レタスときゅうりのサラダも出来た。

 おしっ、完璧だ。オミ呼んで自慢してやる。

「オーミー? めし~って寝てんのか?」

 呼びに戻った部屋の中では、テーブルに広げられた教科書にノート、ひっくり返ったオミ。……全然進んでないんじゃね?

「オミ?」

 小声で呼んでみる。けど、反応なし。よく眠ってる。

 まさかとは思うが、熱なんか出してねーだろうな。

 研究所に行くと、たまーに無茶させられて体調を崩すことがある。お互い結構頑丈だと自負しているが、それでも能力を使うのは、かなりの重労働なわけで。

 近寄ってかがみこむ。額と額をつけて確認。うん、平熱だ。

「お、わっ」

「てっ」

 オミが目を覚まして飛び起き……頭突きされた……っ。

「お前、何やってんだよっ! 驚くだろっ!」

「こっちが驚くわい! 急に動くなって言ってるだろっ!」

「人の顔が目の前にあったら、誰だって動くだろっ!」

 ま、そりゃそーか。俺だってのけぞる。現に今日玉ねぎ--じゃない博海が--。

「寝込み襲うんなら、もうちっと上手くやってくれ」

「な……っ。なんで俺がオミを襲うんだよっ! 俺はノーマルだっ!」

「でも、一応兄弟じゃないから、近親相姦じゃない」

「やめれーっ、気色悪いっ」

 思わず身震いすると、オミがニヤニヤ笑う。

「いやー、ホント、面白いよなぁ」

 ぜんっぜん面白くなんかないわーっ!

「飯、いらねーんだなっ!」

「あ、こら、待て」

 待つか、くそったれ!

「分かった、悪かったって」

 背を向けた俺の後ろから腕が伸び、首に絡まる。

「なんだよ、離せよっ」

「冷たいなぁ」

 ふざけてんじゃねーよっ。

 振り向いて睨み付けたら、オミの目がなんだか酷くマジで。

 何?

 あっけにとられた俺の耳元で、オミは一言。

「愛してるよ」

 にぱっと笑って追い越す奴に、スリッパを投げつけた。

 スリッパは壁に当たって落ちる。オミの奴はさっさと逃げやがった訳で。ちっ、あのままだったら絶対に当たっていたんだがな。

 そんなことを思いつつスリッパを履きなおす。

 そのまま台所にまで行ったのだろう、誰もいない階段をゆっくり降りる。

 さっきのあの目はなんだったんだろう? 絡まった腕から伝わったのは、怖れとか寂しいみたいな感情で。オミ、なんかあった?




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