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1.俺と博海
これは、ちょっと昔の話だから。今より色々な点で不便で、でもそれが当たり前だった頃。
俺は高校生で学ラン着てて、多くはないけど友達がいて、実はかわいい彼女もいて、何よりも半身がいた頃の話。
時々、何もかもがうっとうしくなる。最近とみに増えてきた気がする。
隣の席でペャクチャ喋りまくる女子がうるさい。
イライラしている。自覚がある。でも--
「政臣?」
「あん?」
呼ばれて我に返ると、目の前に博海の顔があって思わずのけぞった。
博海は『ひろみ』と読むがれっきとした男だ。優しげな顔をしているが、背が高いのもあって絶対に女に間違われることはない。というか、どっちかというとモテる。
が、なんでか地味であまり目立たないこの俺の親友というポジションにいる。いい奴だ、けど。時々苦手だ。気に入っているから、苦手だって言ったほうがいいかも。
「暗いな、今日は」
「……キツいな、いきなり」
「俺の性分だ。けど、お前さ、ちょいちょい暗いけど、なんか1日おきにヤなことでもあんのか?」
「や……べつに」
内心ドキッとした俺を、博海は透かすような目で眺めた。